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混迷を終わらせるのは、 絶対暴力


「さて、そろそろか」


 あれから9時間は過ぎた。与え過ぎな気もするが、宣言したのは数時間前。二桁前なら約束通りだ。


「願わくば大切な物を、1つも奪われない選択を」


 会議室の扉をノックする。しかし返事がない。


(誰もいない? そんな事ありえるのか?)


 彼らが、王族の責務から逃げ出した? それこそありえない。居ないのであれば、誰かを残すはず。メイド、執事、兵士、騎士。誰でもいい。


(気合をいれるか)


 つまり部屋の中に全員いるが、何かしらの変化が起きている。争いで解決出来ることであってくれ。それなら、俺が全力で対処できる。


 肩を軽くはたき、胸元を掴み下に引く。服を整え、入室した。


「ダイオス何を言っている? 今の状況が、どういう事かわかっているのか?」


 会議室は騒然としていた。中にいるのはギルベルト王、ルドラ様、そして赤髪の男性だけ。メイドや騎士などの、人間は一切ない。唯一それに当たるのは転写魔法を使っている、レイの父親だけだ。


 そして、転写魔法に写る筋肉質の男性。上半身しか映されてない為、正確な大きさはわからないがデカい。2メートルは超えている。


(なるほど、彼が噂の第一王子ダイオスか)


 生まれつき肉体に怪力を宿した化け物。5歳の頃に、騎士を鎧ごと圧死させたと噂だが、嘘ではないか。


「ええ陛下、私は理解しています。しかし、貴方には失望しました。下賤の者を将軍にするなど、さらに7国同盟? 他国と協力など。なので俺ダイオスは、反乱を起こさせて貰います」

「考え直して下さい第一王子。そんな事して、何がーー」

「貴様は黙ってろ。王位継承に参加する資格すら持たない、汚物が」


 ルドラ様は黙りこそするが、気圧されていない。王以外に自分しか、第一王子を宥められる人間が居なかった。最低限の礼儀みたいな物だ。


 ここで気になったのは赤髪の男性。彼の目線は誰より冷たかった。


「良いですか。ダイオス様」

「レオンか。済まんな、貴殿が王城にいる間に始めさせて貰った。そこで犠牲となってくれ」

「わかりました。すいませんが王、1つよろしいですか?」

「ああ。部下の最後、話くらいは聞いてやろう」


 赤髪の男性は、臣下の礼を忘れない。正面から見る分には、大人しく頭を下げている。しかし、第一王子の死角に移動すると、憤怒を目に宿す。


「父はどうしましたか?」


 彼は顔を上げずに問う。答えはわかっているのだろう。ダイオス後方にある壁、そこに映る血痕が、否応なしに想像を掻き立てる。


「殺した。反乱を起こし国を取ると宣言したのに、奴は断った。さらに俺への説教まで垂れた、死んで当然だろう」

「そうですか。家の者達は?」

「貴様の父が育てたものなど信用ならぬ。今は部下に殺させている」


 赤髪の男性、その表情に色はなく、目を瞑り静かに聞いている。 そんな彼を見て、ダイオスは手を叩き笑った。愉快そうに、近場にいる怯えたメイドを抱きしめ、胸を揉みしだきく。


「お願いしますレオン様、このクソに国を取らせては駄目です。それが私達の総意です」

「ほぉ、俺を侮辱するか」


 メイドを突き飛ばしたダイオスは画面外に向かう。そして背後の壁には、新たに血が塗られる。


「すまんな。くだらぬ邪魔が入った」


 俺達に出来る事はない。今通信している場所は、何百キロと離れている。結界内でも転移が使える、限られた魔法使いでも、ピンポイントでダイオスがいる部屋に飛ぶのは不可能。


 だから悲劇は、怒りを生み出す薪にするしかない。ようやく赤髪の男性は目を開ける。


「狂ってるな貴様。だから父に言ったのだ。今からでも遅くない、第4王子に鞍替えしようと。王国が滅びるなら、共に戦い滅びようと。それでも父は、役割に準ずることを選んだ。だから俺も、クズの貴様に従おうとしたのに」

「はは、ようやく本性を出したか。もういいだろう、教えてやる。実は帝国軍部にある話をされていてな。王国を俺が降伏させれば、皇族の1人と結婚させてやると。貴様らも幸福だろう? 俺の犠牲になれるんだから」


 赤髪の男性は、近場の椅子をダイオスに投擲。しかし背後の壁を破壊するだけ。当たり前だ。映っているダイオスは、あくまで魔法で見せている映像。本物はここに居ない。


「そういう事だ、シルバード王国ども。我ら、ダイオス及びシルバード王国南部は、帝国市民として、これから活動させて貰う。せいぜい無様に足掻けよ」


 向こう側からの通信が切れた。シーンとする会議室。


「大変な事になりましたね。それとグラム、お前はどうするんだ?」


 再び壁に人物が映し出される。今度はハルトマン将軍だ。彼の一言に、赤髪の男性を除いた全ての目がこちらを見る。


「グラム将軍いたのか」

「ま、約束の時間だったのでね」

「確かにな。現状はどこまで把握している」

「ま、最後の方だけ。宣戦布告って大変ですね」

「正式な物ではない」


 ギルベルト王は椅子に座る。背もたれに身を預け天井を見た。


「お疲れで」

「ああ。疲れたなんて物じゃない」

「一度座って話しましょうか。何があったかを」


 赤髪の男性以外は席に座る。彼の事は、そっとしておこう。腫れ物にしたいのではない。ただ、今は整理の時間が必要だ。それが全員の共通認識、しかし。


「初めましてグラム将軍。このような無様を晒し、申し訳ありません。私の名前はレオン。ラインベルグ侯爵家の次期当主です」

「良いよ。それに無様じゃない。大切な者を奪われたんだ、平静でいる必要はない」

「ありがとうございます」


 赤髪の男性、レオンは頭を下げる。彼とは初対面。掛けれるのは安い同情。しかし、彼は足元を涙で濡らしその場で動かなくなる。


「で、王とルドラ様、何があった? 結末はわかっているが最初から教えてくれ」

「じゃぁ、僕から。グラ厶と別れてから、僕と父は別の場所で、全く同じ行動をした。僕は友人であるレオンに、父はラインベルグ侯爵に、それぞれコンタクトを取った。派閥を裏切りこちらに付かないか? 結果は断られた」


 ルドラ様は淡々と喋っているが、表情は呆然としている。俺を見ているようで視線は若干上。俺も当事者なら、同じ反応をしている。


「父とは、ここで結果を話し合っていた。互いに案を出してみたが、本人たちが認めない以上、無駄と結論を出した。そんな時だ、第一王子が転写魔法で話しかけてきた。彼は話し合いの前に、レオンをこの部屋に連れてくるよう要求した。僕達もそれに頷き、後はグラムも知っての事だ」

「なるほどね。……王たちよ1つ聞きたい。俺に、ラインベルグの面々を捕虜にしろと、命令する案は浮かばなかったのか?」

「「あ」」

「浮かばなかったのね」


 それこそが、願いを叶える方法だったのに。ま、ちょっと抜けている王たちだ。


「状況はわかった。聞きたいことは、今後どうするか? ルドラ様、アンタが決めろ」

「反乱を鎮圧しろグラム将軍」

「あい、わかった。第一王子はどうする? 生かすか殺すか? ラインベルグが所有していたストムダイ要塞は?」

「ちょっといいですか?」


 返事をしたのはレオン。動かなかった彼が、俺に頭を下げる。


「敵である、貴方にお願いするのは間違っています。それに、国の事を考えるなら尚の事。でもお願いです、ストムダイ要塞を壊して下さい。今、あそこにいる奴らは鬼だ、悪魔だ。この世に解き放っちゃいけない」

「はぁ。違う違う。言うならあっち」


 俺は立ち上がり、レオンの下に向かう。そして、彼の肩を叩きながら指を刺し示す。方向はルドラ様がいる場所。


「ルドラ?」

「レオン条件がある。俺の下につけ。そして生涯支えろ。そうすれば仲間だ、仲間のお願いは断らない」

「頼むルドラ。いやルドラ様。父、家臣たち。俺の家族達の仇を取ってくれ」

「わかった。聞いたなグラム、命令だ。ストムダイ要塞を地図から消してこい」


 頭を下げるレオン。彼に見えないようルドラ様は笑う。俺は頬を掴み、上下に揺らす。


(嬉しいのはわかるが隠せ。相手は苦しんでいるんだ)


 修正は一瞬。ルドラ様も悲しんでいる。感情の比重を変えれば良いだけ、難しい事ではない。そして彼の命令は理解した。


「了解。今日中に方をつける」

「「「え」」」

 

 全員の目が俺に向く。そんなに意外な事か?


「ギルベルト王。先程の宣言は、正式な物ではないんだよな?」

「ああ」

「なら今日中に方をつければ。正確には正式発表される前且つ、貴族の反抗心を折る勝ち方をすれば?」

「反乱は事前に止められる。だが出来るのか?」


 王は顎に手を当て考える。筋は通っていると頷いたが、目には疑問が宿っていた。


「ああ。色々と国の方でも細工はいるがな。レオンだっけ? 第一王子に付き従う、腕に覚えがあり、名が売れている、さらにストムダイ要塞にいる人物はわかるか?」

「わかる。というより、腕に覚えのある連中の殆どは、ストムダイ要塞にいる筈。出なければ、家の者達が負ける筈はない」

「了解。準備は整った、行ってくる。教えてやるよ怪物。上には上がいる事を」

「待ってくれ」


 背を見せ歩き出す。目的地は王都にある転移門。最短距離で向かい、日が変わる間に終わらせる。


 しかし、背後から誰かに呼び止められた。振り向くと赤髪の男性がいる。さらに後方、ルドラ様を見るが、頷き話を聞くよう促された。


「で、なんのよう?」

「頼む、俺も連れてってくれ」

「何故? お前らの想像する方法で、要塞の攻略しないぞ」

「それでもいい。見届けさせてくれ」

「さっきも言ったろ? 頼む人間が違う」


 再度ルドラ様を見る。彼は笑顔で。


「命令だ。レオンを連れて行け」

「了解。行くぞ」

「はい。お願いします」


 溜息を吐いた後、再び部屋の外に向かって歩き出す。中々着いてこない彼を、首だけ動かし確認、手招きをするとレオンも歩き出す。

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