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出発


 レイを医務室に寝かせ、俺とアレイスターは屋上で駄弁っていた。彼は昼間でありながら、木のコッブに注いだ酒を飲んでいる。


 何度か注意したが。


「わかっているだろう? 俺だって緊張してるんだ」


 言われてしまえば、受け入れるしかない。なんせ相手は生態系の頂点、夫婦龍。誰が止められる。


 アレイスターの酒癖は良い方だ。絡まず、意識を飛ばさない。しかし酒が持つ、口を軽くする効果。今回はそれが、厄介事を生み出した。


「それにしてもグラム。ずっと思ってたんだ。お前、()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()

「お前には話しただろ?」

「ああ、聞いたさ。でもな、帝国の生物兵器の情報。地理、法国が抱える法術の詳細。聞けば聞くほど、お前が1年かそこらで得られる情報量じゃない。協力者だって、そこまで教えてくれないだろ?」


 彼の横顔を見る。頬は赤く、間違いなく酔っている。しかし目つきは、獲物を捕らえる狩人が如く。


「わかってるだろ? 俺とアズサは、お前がこの世を滅ぼすといえば喜んで付き従う」

「しないよ」

「わかってる。嫌いだろお前、弱いもの虐め」

「まぁな」


 頭をかく。正直、どうしていいかわからない。これは彼と俺だけの秘密だ。だが、信頼には真実で返したい。


「詳しく言えないがアレイスター。お前が言うように俺は、帝国を滅ぼす事を夢見ていた。正確には黒竜だが」

「お前が大好きな、大聖女の件を抜きにしてもだろ?」

「っち。どいつも勘が鋭い」

「当たり前だろ。お前が選んだ最高だからな」


 彼の表情は、予想に反して優しかった。話してくれるのを待っている、今日に限り。その欲深さと真摯さに、ぼかしながらも話すことを決めた。


「俺の大切な人が、黒龍が放つ鱗粉のせいで死んだ」

「やっぱりな。元々帝国滅亡を狙っていたのか?」


 アレイスターは肩を掴み、揺らす。その際だ、人指と中指をコップの取っ手に通す、安定しない持ち方に変えた。なので腕を振る度に、チャポンチャポンと、酒が服や顔に掛かる。酔っ払っている影響か、本人は気付いていない。勘弁して欲しいよ。


「違う。俺には枷があった。アリスという枷が。だから計画こそしたが、実行する気はなかった」

「なるほどな。だから行動がここまで早いのか。スッキリしたぜ。あれ」


 彼はコップに口を付け、中身を飲もうとする。しかし、何も出て来ずコップを逆さにした。


「ほら、ついでやるよ」

「へへ、上司についで貰う酒なのに、上手いってのは不思議だな」


 自らの頭を撫でつつ、デレと表情を崩すアレイスター。酒に溺れているが彼なら問題ない。


「今回の戦。敵の敵は味方だ。利用するなら、帝国7武人上手く使え。使い方次第では、内側から足を引っ張ってくれるぞ」

「なるほど了解だ将軍。あちらさんも俺達が望む、宣戦布告の時期と同じだったな。じゃ、景気づけに一発」


 彼は足を震わせながら、弓を構える。そして頭上を飛ぶ鳥を撃ち抜く。


「へへ、上手く言ったぜ」

「俺が取ってこよう。ついでに焼いてくるから、待ってろ」

「はは、すいませんね」


 彼は座り込む、酒が回り立っていられない。首だけ動かし、俺に頭を下げる。大丈夫と手で制し、砦の外に歩いていった。


 *


 レイ視点


 それから5日後、今回の持ち場であるアスラ要塞に私は向かう。


「レイ、元気で頑張れよ。アレイスターを着けるから、問題ないとは思うが」

「グラムは待機ですね。出来ればいいので、ガレリア要塞に居て下さい」

「何故だ?」

「私の活躍が、一番早く聞ける場所ですから」

「確かにな」


 頭を傾げるグラムに拳を突き出す。理由を聞くと、私の拳に彼も拳を合わせた。


 駄目だな。単純な事なのに、同じ所を見ている気がして心が舞い上がる。


「今回は戦というより小競り合いだが、帝国は卑劣な手段を多く持つ。だから、困ったらアレイスターを頼れ。俺が知る限りの、帝国が使う戦術を教えてある」

「む、何でいつもアレイスターに教えるんですか? 私に直接教えてくださいよ」

「だってな、お前はまだ発展途上、やるべきことが他にある。自分1人で戦うな周りを頼れ。戦いはな、相手を殺して勝利になるんじゃない。味方の被害を押さえれば、勝利になるんだ」

「ふん」


 顔を反らす私を、彼はしょうがないと腕を組み、優しい眼差しを送ってくる。いつもなら、頭を撫でるなどの軽いスキンシップがあった。しかし今回はない。さらに不機嫌となり、思わず鼻を鳴らす。


「拗ねるなって。信じてるさ。でなきゃ、俺の手が届かない場所に行かせない。それだけ、帝国は危険な相手なんだ」

「わかってます。じゃ、認めてくれますよね? 今回生き延びたら、一人前だって」

「とっくに認めているが?」

「嘘ですね。では何故? 私に貴方が企む、対帝国の作戦を教えてくれないのですか?」

「それは止められるから」


 振りではないが、一旦は機嫌を治す。彼の真剣な目を見て、帝国の危険さを理解したから。ズルい使い方だが、不機嫌さを盾にし望みを叶えて貰う。しかし彼は嫌だと、眉歪めて悩む。


「教えてください」

「内容は教えないよ。代わりに、俺の本当の名を教えてやる」

「本当の名?」

「ああ。グラムは戦士としての名前なんだ。こっちも偽名ではないんだが、母が付けてくれた本当の名前がある」

「どうしよう、めちゃくちゃ気になる」


 グラムの企み事は気になる。でも私個人としては、彼を深く知れる方が嬉しい。今後を考えるなら企み事を優先するべきだが。


 歩幅としては左右に3歩。右往左往する。


 あと……聞くべきでは無いのだが、どうしても気になってしまう。


「わかりました。名前を教えてください。それと……」

「それと?」

「アリスさんは知ってますよね? 他に誰が名前を知ってますか?」

「アリスも知ってるし、母は勿論、父さんも知っている。後は一族の人間か? ザヴィー、スピカは覚えているか微妙だな? なんせ呼ばれていたのは赤子の時だけだし。ああ、叔父もいたか」


 以外に多い。それが私の感想。しかし、私だけ知らないのが微妙に悔しい人選だ。スピカさんは特に、一応だがアリスさんも。


「約束ですよ。戻ってきたら教えてください」

「約束だ。帰ってきたら教えてやる」

「はい。嘘ついたら剣千本呑ます」

「物騒だな」

「だから、破っちゃ駄目ですよ」


 私とグラムは指切りをする。上下に腕を振り歌った。終わったら手を離し一歩下がる。これ以上居たら離れ難くなりそうだ。


「行ってきますグラム」

「無事でな」

「はい」


 馬車に乗り込んだ後は決して彼を見ない。むしろ、死角に入るよう身を屈めた。


 怖かった。彼の影がない戦いが。賢者を捕縛した時は、必要に狩られ気にする暇はなかった。だが今回は違う。最初から意識をし要塞に向かう。


 思わず手が震える。


「行きますね」


 副官の声が聞こえる。伝わったか判断出来ないが、小さく頷いた。


 馬車が動き、身体が揺れる。心臓の脈動が私に訴えるのだ。もう一度、彼を見なくていいのかと? 顔を上げ、荷馬車の後方から砦を見る。


「グラム。待っていて下さい。私は、戻ってくるので」


 未だ手を振る彼を見て、叫ぶ。ヒューと口笛を吹くアレイスターが馬車の中から私を見ている。顔が熱くなる。軍服の上着を脱ぎ、顔を隠し蹲った。



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