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同格の存在


「それで終わりか?」


 冷たい、蔑む声で目を覚ます。下には黒髪の少年がいる。紫色の瞳に向けられた戦場での表情。恐怖はない、これはあくまで訓練だ。


 なのに私、レイの心は折れ掛かっている。


「スピカさんと全然違う」


 スピード、パワー。鬼化すら使っていないのに、彼は異なる領域に彼は立っている。


「当たり前だ。スピカは天才、それは認めよう。だが俺には勝てない」


 彼は剣を構え、斬撃を放つ準備をしている。


「そういえばスピカさん、言ってたっけ」

「遠いっていいな。近いと理解出来ちゃうからさ」


 彼女の言葉が今なら理解できる。確かに遠すぎる。戦闘能力でも大きな差がある。それに彼の得意とする、精神の揺さぶりが加われば勝てるはずがない。


「ああ、そういうことですか」


 意識を右腕に送る。確かに私の腕は震えていた。


「これで終わりだ、期待外れ」


 放たれる斬撃。


 城壁から身体を引き剥がす。そして重力に逆らうよう、壁に垂直で立ち剣で斬撃を弾いた。


「正解だ」


 攻撃を防いだのを見て、彼の顔が緩む。


「いつからですか? フィアーを仕掛けていたのは」


 地面に着地し問う。


「土煙を上げた直後だな。レイは俺の魔法に馴れているからな、使われても違和感なかっただろ?」

「気づきませんでした」

「だから甘いのよ。でも、よく自力で立て直した」


 正直焦った。立ち直れたのは経験のお陰。お祖父ちゃんとグラムの戦い、あれを見た時、渇望と同居した無力感を覚えた。


 届かない高みへの絶望。既に一度通った道筋だ、もう1回歩けばいい。所詮私は、剣を握って1年なのだ、落ち込む程のプライドは持っていない。


「訓練だからってのも、大いにあるんですけどね」

「訓練だろうと、フィアーを受けて冷静さを取り戻す。それだけで対した物だ」

「ありがとうございます。つまり試験は合格だと?」


 危機敵状況だろうと、冷静に物事を見れるか? 彼はそれを試した。なのだが、グラムは腕を組み、唸り声を上げていた。


「試験は合格だが……どうする? 勝負はまだ付いていない」

「確かにそうですね」


 剣を下げるのは確かに惜しい。


 彼と私が戦うのはこれが初めて。今までは機会がなかった。今後ある保証はない。仮に勝っても、私が抱く彼への気持ちは変わらない。むしろ本番だ。彼を守るという、私の夢が始まるのだから。


「レイ、先程お前は、スピカと全然違うと言ったな?」

「はい」

「あの時スピカには、呪い以外の強化を禁じていた。だからアイツは、全力だった訳じゃない。」

「私じゃまだ、勝てないってことですか?」

「そうだが、言いたいことは違う」


 彼は訓練用の剣を向ける。今度はフィアーを使っていない。なら、あれはなんだ? 紫の色のオーラが身体から溢れ出している。


「言えることは、スピカの全身全霊を超えないと、俺から一本も取れないぞ」

「リベンジと挑戦、どっちも出来てお得ですね」


 やることは変わらない。彼に全力でぶつかる。魔力と闘気、そして光魔法を全身に宿らせた。


「行きますか」

「来い、特別だ。俺も枷を何段か筈そう」


 接近し、彼に剣を振るう。互いに足を止め鍔迫り合いに。


「行ける」

「一瞬、さっきの光景が過ったろ。また吹き飛ばされるって」

「うるさい、人の心を読むな。読むなら乙女心にしろ」


 力は互角ではない。全力で押しているのにピクリとも動かない。


(一種類の力で、どうやって耐えているのか?)


 身体能力では勝てない。なら、重心を左右に動かすまで。右下、左上。対角線を意識し剣を振る。


「振ることに意識が向きすぎだ」

「それ、お祖父ちゃんにも言われたんですよね。なら、そこを利用してやる」

 

 グラムは右拳を脇腹に差し込む。それを歯を食いしばって耐えた。拳を振った故に開く、彼の右脇腹に剣の一撃を狙う。


「あ、ズルい」

「いや、死んだらどうするよ」


 肉を切って骨を断つ。作戦は、突如現れた黒い障壁によって防がれた。


「覚えてよかった防御魔法」

「う〜〜。再生能力が高い狂戦士の癖に、身につけるのが防御中心って。男らしく、広域魔法に憧れて下さい」


 チョイスが渋すぎる。回復能力が高い狂戦士が、防御魔法って反則じゃない? 私に勝ち目があるのだろうか?


「さて、攻守交代」

「っく」


 障壁で私の剣を弾き飛ばす。そして彼は、剣での連撃を開始した。


 防いだ余波で腕が流れる。立て直す間に彼が振りかぶり、私がギリギリ防ぐ。これの繰り返し。防御で手一杯。残る手段は先程と同じ、一発逆転を狙った奇襲。彼もわかっているだろう。私が怪しい動きをすれば、今度は全身に障壁を張る。


「それにしても厄介ですね。狂戦士のオーラは」


 防御をする度に身体が引きつる。原因は狂戦士のオーラだ。剣を振ると同時に精神攻撃が行われる。真剣同士の戦いだと、想像以上に消耗が激しい。


(スピカさんとの戦いも、そうだった)


 元も子もない話、狂戦士と近接で戦うのは、酔狂な人間がすること。高い身体能力、常軌を逸したタフさ。実力差がない限り勝てない。


 だから勝負は、焦らず隙を伺う事が求められる。


(防御魔法がある時点で、スピカさんより待ちの時間が多くなる)


 常に全力では駄目だ。今は力を抜く。だから私は、身体に纏う力を闘気だけに制限した。


「悪くない策だ。それで、耐えられればの話しだ」

「耐えますよ、勝機はそこにしかない」


 技術的にも身体的にも苦しい状況だが、モチベーションは過去1だ。彼は今、私だけを見ている。それだけで、永遠に続けたいと心が望む。


「さて、試そうか」


 彼は上段に構える。迎え撃とうと合わせるが、私の剣が空を切る。


「甘い甘い」


 構えた剣は振られていない。彼はフェイントを仕掛けていた。そして掬うように剣を弾く。


(負けてたまるか)


 見なくてもわかる。彼は右の振り下ろしを狙っている。回避の術はない、私に出来るのは敗北までの時間を稼ぐ事。


 発想の逆転、グラムへの攻撃だ。私の重心は右足にある。身体を開き横一線。最速の一撃を放つ。


(なんだけど、防がれるよね)


 私が防戦一方になっても、彼の意識は守りのまま。冷静に、どんな状況にも対処する為、余裕を確保している。


 恐らく、私の一撃は弾かれる。力を込めた分身体は大きく開き、勝負が決まる隙を作る。


 選択肢は2つ。何もせず負けるか、何かして負けるか。


(私が選ぶのは)


 魔剣の効果で剣を呼ぶ。


「いいよねグラム。だって、禁止と言われてないから」


 全身全霊を込めた横薙ぎ。魔力に闘気、光の魔法。全てを一撃に込める。その斬撃は、彼の右脇に吸い込まれていった。


「勝負あり」


 アレイスターの声が響き渡る。


「はぁはぁ。え?」


 何故勝負が終わった? 私は負けていないのに。


「レイさん凄いね」

「何がですか?」


 アレイスターからの称賛。そこでようやく剣を見た。グラムの脇腹を通り過ぎ、切っ先は彼の背中まで伸びている。重要なのは剣の振り方。私は横薙ぎを放った。実践ならともかく訓練なら、彼の身体を横に分断したと考えて良い当たり方。


「私が勝った?」

「ようこそレイ。お前はこれで、狂戦士と同格だ」

「何これ?」


 私の全身には、見たこともない白い力が渦巻いていた。


「聖力。狂戦士の呪力と対を成す力。聖女や白龍が使っている力だ。何故、狂戦士と同格と言ったか? それは、扱える力の種類が並んだから。狂戦士が使える力は、魔力、闘気、魔法による身体への属性エンチャント、最後に呪力。レイは今、何種類の力が使える?」

「えっと、4種類です」


 指を折り数える。確かに4つだ。


「ま、聖力と呪力の関係性を考えれば、狂戦士の再生能力を埋めたと言って良いだろう」

「つまり私はまだ、強くなれーー」


 身体がふらつく。立っておれず、近くの障害物に寄りかかる。


「おっと。大丈夫か? ま、強引に目覚めさせたから、身体に負担が掛かったか。後は使いこなせれば、戦場でも生き残れるだろ」

(誰が受け止めてくれた? あ、グラムか。なら眠ってもいいか)


 受け止めた人物が彼と認識する。その途端、身体の電源が強制的に落ちた。


 贅沢を言うなら名乗りを上げたいが、今は無理そうだ。私の初勝利は、締まらないものとなってしまう。

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