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最高の褒美



「グラム将軍の報酬は、表沙汰に渡せないからな。城にある宝具で我慢してくれ」


 王に連れられ、俺は宝物庫に来ていた。


「普通は、罰を与えるべきでは?」

「あの場は、来てくれた方が助かる。ワシも命令なしで、現れる事を望んではいたしな」

「まぁ、あの警備状態なら、誰でも城攻めしますよね」

「全くだ」


 置かれた金銀財宝。国庫といえる場所を通り過ぎ、更に厳重な扉から奥に進む。そして神器と呼ばれるに相応しい、武具が置れた部屋に入る。


「……」


 思わず眉がピク付く。それに王も気付き、こちらの顔色を伺ってきた。


「なんだ不服か?」

 

 ただ、正直に言いたくない。天邪鬼が顔を出す。

 

(さて、どうしようか?)と武具に振れながら考える。頭に浮かんだフレーズは、褒美、会談、場違いな所。俺は嘘くさい笑みを作り、王に話しかけた。


「王は、レイへの褒美を俺に見繕って欲しいのですか?」

「そういう訳では……お前はあそこがいいのか?」


 王は怪訝な顔をする。わかったかと頷き、宝物庫を出た。


「でも、本当にいいのか?」


 王を後ろに着かせ、肩で風を切る。

 

 王城とは王の支配領域。彼の前で堂々と歩く。これだけで褒美としてもいいが、貰える物は貰っておこう。

 それとは別に、王の勘違いも解かねばならない。


「そもそもだ王、俺は狂戦士。神聖な神器など扱えるとお考えか?」

「確かにのぅ」

「俺が神器。そして魔剣を持たない理由がそこにあります。特別な能力を持つ物体は魂を宿す。だから、呪いを操る狂戦士が使用すると、宿った魂を壊してしまう可能性がある。それを好まないから、魔剣、神器は使わない」


 頷く王を連れ、城の地下に入る。

 図書室に存在する隠し部屋を抜け、今は使われていない牢屋を超えれば、目的の場所につく。


「ワシからも質問だ。お主、何故ここを知っている?」

「……ルドラ様から聞いた」

「そういう事にしておこう」


 鎖や呪符で封じられた扉。王が開ける鍵を取り出す。


「なんじゃ?」


 俺は手を出し、鍵を要求。


「これは王しか持てぬ物だ。褒美でも流石にやれん」


 王の返答に首を振る。

 

「ここは言うなれば呪いの溜まり場。呪われたいなら直接開けばよろしい」


 聞くと、急ぎ鍵を俺に渡す。「後で返せ」と離れた位置に王は移動した。


「一番安全なのは俺の背中ですよ」


 王は駆け寄ってくる。俺の背に合わせ、身体を縮める。隠れたのを確認し、鍵を解錠。次の瞬間、可視化出来る程の呪いが周囲に充満した。


「く、なんという邪気だ」


 ここでならいいだろう。


(慣らし運転も必要だと思ってたしな)


 そして俺は、身体に宿る呪いを全開にした。部屋の中から放たれる紫色の邪気。それは、俺が出した黒色の呪いに喰われる。数秒後、部屋の中から呪いの気配は消えた。


「入りますよ」

「ああ。大したものだ」


 王は少年のように駆け出し、中の武具に触れる。


「黒龍が放つのは、これ以上ですから」

「あれに比べたら、全てが意味無き物よ」

「確かに」


 俺も武器を物色する。だが此処で問題が起こった。俺が呪いを食らったせいで、呪具が防衛モードになってしまう。そのため、武具の能力がわからない。


「あの……王よ、武具の能力ってわかりますか?」

「触ればわかるだろ……駄目だ、人間で言う気絶状態になっておるな。う〜〜ん」


 王は腕を組み、周囲の武器に目を向ける。


「大体はわかる。だが能力1つ1つを説明しながらだと日が沈むな。ならこうしよう。どんな能力の武器がいいか、それを教えてくれ」

「それならありますよ」


 俺は戦場を駆け、多くの血を浴びる。切れ味は要らない。特殊能力はあれば欲しいが、それ以上に頑強さを重視する。どんな呪いを浴びても壊れない剣。


「とにかく頑丈な剣を。切れ味なしのナマクラでいいので」

「それならいいのがあるぞ」


 王は散らかった武具を漁りだした。周囲を見ると、武器が地面に投げ捨てられている。

 恐らく兵士達は、呪われるのが怖かったのだろう。


「これじゃない。全く呪いの武器だからって、歴代の王は雑に扱いよって」


 もしかしたら王は、武器マニアなのでは? 呪の武具にすら退かない姿。俺が疑いを持ち始めた時だ。


「あった、これじゃ」


 王は一本の剣を抱えやってきた。剣の特徴を表すなら無骨。色からして金属ですら無く、材質は石か?


「この剣の名前は、鈍刀ナマクラ」

「そのままだな」

「話の腰を折るな。能力は不壊、自動再生も付いておる。後は刀身が伸びる位だな。ちなみに刀身が大きくなれば、武器の重量も上がる。」

「いいな」


 俺が剣を持つと、王は自らの腰を撫でる。よほど重かったのだろう。確かに手から伝わる重さは、想像より分厚い。だが振れない程ではない。


 試しに剣を振るうと、王は感心の声を上げた。


「それを片腕で。他にも色々あるがどうする?」

「これ以上に頑丈なのはありますか?」

「ない。頑丈さはそれが抜き出ておる」

「ならいい」


 もう一度素振りを行おうとした時だ。王が手を叩き、パン、という音が響く。


「ワシに苦労をさせたんじゃ、手伝え」


 王は散らばった武器に目を戻し、片付けを始めた。出鼻を挫かれ呆然とする俺。


「どうしたグラム将軍、やるぞ」

「はい。わかりました」


 王の力で、現在の地位を得ているのは変わらない。命令には逆らえず、武具の片付けを始めた。


「それにしても、呪具に触りたくないのはわかるが、整理は位はせんか、馬鹿先代共」

「口が悪いですね。どうして武具に、そこまでの情熱を?」


 彼は手を止めない。隠すことでもないと、そのまま語った。


「父から民の生活を学べと、一時期庶民の家に預けられた事がある。その時の借り宿が鍛冶屋だった。それだけじゃ。その時の生活が楽しくてな、王をやめて鍛冶師として生きたいと思い、啖呵を切りもした」

「やんちゃでしたね」

「今覚えばな。あの親っさんは酷くてな。お前に鍛冶師が務まるか。俺の生活が豊かになるよう、良き王になれと尻を蹴飛ばされた事は、今でも覚えている。息子たちにも、そんな経験をさせたかったが、妻たちが許さなくてな……失敗だった」


 王の持つ剣が、カタカタと音を鳴らす。それは王が発した悔しさ。上では決して出せない生の感情。


「ワシの話をさせたのだ。出来る限りでいい、お前の計画を教えてくれんかの?」


 今度は俺が手を止める。


「王よ、待てないか?」

「待てん」


 ま、俺の計画を王に教えれば、要らぬ混乱は少なくなる。

 ルドラ様の性格を考えるに、決戦の場に一緒に来ると言いかねないか。そういう意味でも王の強力は必要。


「知り合いには、今年中にケリを着けると言いましたが、無理そうですしね。馬鹿の恥を晒す程度に思っていただけると。俺の言うXデイ、そして内容とは」


 聞き王は、口を開けた。


「皆同じ顔をするんですね。それなりにヒントはあると思うんですけど。例えば俺が身体に刻ませた刻印魔法とか。あれ自爆用の魔法ですからね」


 拗ねながらも手を動かす。王は腕を組み、俺の言った方法、その目算を考え出した。


「グラム将軍、出来るのか?」

「やれますよ。黒龍の性格、そして産卵の時期を考えれば。まぁ冬越の影響でタイミングが難しいですがね。ここだけの話という事で、忘れてーー」

「準備はどれくらい整っている?」


 王は俺の言葉を遮る。

 先程までの穏やかな雰囲気ではない。先を見据える、国王への顔に変わっていた。


「向こうさんの準備以外は終わっています」


 俺は服を脱ぐ。素肌には矢で作られた無数の傷がある。


「狂戦士の力には代償がある。俺の場合はそれが睡眠。動けなくなるのが嫌で、今は傷を治さずそのままにしていますが、呪いを突破できる射手の準備は出来た」


 会談の場に龍が出てきた。それに、どれほどの価値が合ったか。なんせアレイスターに、予行練習をさせられた。


 俺は服を着直し、正す。王は座り込み、天井を見上げた。


「なるほどな、他の王子には端から勝ち目はなかったか。なんせ他の陣営にはお前がいない。俺から言えることは1つだ」


 王は立ち上がる。そして軍隊式の礼節である敬礼をした。


「グラム将軍。我が国の、そして同盟の未来を頼みました」


 言葉に俺は胸を叩く。また礼儀に答える為、本性を曝け出す。


「いいだろう。そして見ているがいい。我が一族の宿願を果たす所を。人が作り出した可能性が、神の作り出した奇跡に勝る所を」

 

 今の関係性は王と軍人ではない。

 全てを知った見届け人が、神が作った摂理に挑む、愚か者に激励をする場だ。


「ただこれは、レイに伝えない方が良いな。絶対止められるからのぅ」


 王の言葉に肩を落とす。


「それは言わんで下さい。俺もわかっているから言ってないんですから」

「はは、だと思ったわい」


 片付けを終えると、ドアを再び施錠する。俺は上に最中、只管に剣を撫でた。


「嬉しそうだな」

「悪いですかね? 俺に取って、武器は直ぐ壊れるもの。だから憧れてたんですよ。相棒と呼べる武器を」

「良いんじゃないか。それにしても、ワシもお前のファンになったな。成功させろ」

「言われなくても。それに俺が圧倒的な力を示せば、他の王子を殺さず、王位継承を終わらせられる」

「言うな。それは諦めた夢なのだから」


 そして図書館に上がった頃には、元の王と軍人の関係性に戻る。


「それでは王よ。ありがたく頂戴します」

「うむ。この国の為に尽くすが良い」


 俺は城の外、王は自身の執務室に、互いの居るべき場所へと向かった。

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