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残留兵


 早朝。俺とレイ、そしてアレイスターは顔を突き合わせる。


「村の状況だが……最悪だ以上。行くぞレイ」

「「ちょと待って」」


 俺は席を立つ。それを呼び止める二人の声。


「そうです、私には説明をください」

「レイちゃんでいい? それともさん? 呼び捨て? どっちでもいいや。俺も含めてよ?」


 彼のツッコミをレイは無視。顔を強張らせ睨んでいる彼女に俺は頭を抱える。


「言ったろレイ、来いと。お前は今回留守番じゃないぞ」

「……え、そうですか。うん、ようやくグラムも私を認めたと。ふふ。行きます、今すぐ準備してきますね」


 そう言い、借りている部屋に走っていった。


「現金だなレイって子は……村には、仲良くして貰っている。俺にも手伝わせてくれ」


 剣を取り家の外に出ようとする、彼の進行方向を俺は塞いだ。


「何だ?」

「来んな。弓が使えぬお前に何の価値がある」

「なんだと。っぐ」


 彼の腹を殴る。アレイスターは蹲り、床を這う。そして下がった後頭部を蹴り飛ばす。


「寝てろ」


 気絶した彼を玄関に放置。家の外で彼女を待つ。


「レイ、遅いぞ」

「ふふ。グラム、私に感謝してください。アレイスターをベットに運んで来たんだから」


 どうせめんどくさかったんでしょ。と、したりげな顔をする彼女。


「はぁ」

「な、なんですか?」


 彼女の言い分を、戸惑いながら聞いていた。


(正直、何も変わらないんだが)


 自慢げな様子を崩しては、恥をかかせてしまう。だから誤魔化すように、取り繕うように、言葉を並べる。


「いや……ありがとう。めちゃくちゃ助かったよ。本当に、いやまじで」


 逃げるように歩き出す。流石にわざとらしかったか。


「む、文句があるなら誤魔化すな。はっきり言え〜〜」


 背後から聞こえる非難の声。普段はこんな事を思わない。だが、今はその騒がしさが羨ましい。


「嫌だよ。だってお前怒るもん」

「怒りませんよ。怒ったとしても、それは日頃の行いです」

「怒るじゃん」


 暫く追いかけっこをした後、俺は振り返る。その際、おちゃらけた雰囲気を解く。


「レイ、お前に対する指示は1つだ。何があっても、俺が指示するまで動くな」

「わかりました……何があっても?」

「ああ」


 頷くが詳細は話さない。


 これから行う作戦は、武器を持った相手と殺し合う。そんな物よりよっぽど怖い。


 準備が出来ると怖気づく。しかし、咄嗟であれば腹を括れ、緊張感を持てるだろう。


 唯一話せる事は。


「今回は帝国との戦いじゃない。アレイスターと俺の勝負だ」


 俺は指笛を吹く。現れた鳥。その足に紙を括り付けた。


「出来るな」


 鳥は声を上げ、俺の腕から離れた。そして家の屋根に止まる。


「これで準備は完了。さて上手くいくかな」

「えっと、何をするんですか?」

「本当に聞きたいか?」


 空気の異質さに彼女も気付いた。青くなり、一歩後ろに下がる。


「残念、もう逃げられんよ」


 彼女の肩を叩いた。

 


 アレイスター視点


 起きると見慣れた天井があった。


「ここは何処だ? 確か、頭に強い衝撃を感じて」

 

 意図せず手放した意識。次にすることは状況の確認。


「あれ?」


 予想に反して簡単に起き上がれる。拘束、その可能性を考慮していたのだが、拍子抜けしてしまう。


 ようやく頭が回ってきた。


「そうだ、確かグラムに意識を奪われて」


 弓が使えぬお前に、何の価値がある。言われ、彼は俺を突っぱねた。諦めを装っていた俺だが、流石にあの言葉には腹がたった。


「間違ってない。だけど俺にも意地があるんだよ」


 布団から跳ね上がる。剣と弓を持ち、玄関から飛び出した。丁度その時だ、俺の頭部に何かがぶつかる。


 それは生暖かく、触れてみると白い。匂いを嗅がなかった自分を褒めてやりたい。なんせ正体は。


「これって……糞だよな?」


 家の上空には、鳥が一羽飛んでいる。群れていない姿、俺の脳内にはある推測が浮かぶ。


「お前、糞をわざと落としたな」


 空から鳥が降りてくる。俺の前に着陸すると、鼻で笑った。


「てめぇ」

 

 俺は飛びかる。しかし躱され、顔を地面にぶつけた。倒れ伏した俺の鼻先に鳥は止まる。


 最初は油断させ、捕まえようと思っていたが。


「なんだよこれ?」


 鳥の足に括り付けられた、紙が目に入る。俺は取り、読む。紙に書かれた内容はこうだ。


 村に現れた、帝国兵の調査結果。

 

 彼らは隷属魔法で、村人を人質に取っている。問題は奪還を気取られれば、村人を使い脅して来るでしょう。


 隷属魔法の弱点を突くのが有効。つまり術者の殺害。

 

 術者は誰か? それはまだわかりません。恐らくですが、部隊の隊長が術者の筈。


 引き続き調査を続けます。それまでお待ちをグラム将軍。


「これって、入れ違いって奴か?」


 そうとしか考えられない。事実を知らなければ大変な事になる。それとは別に、驚愕の内容が書かれていた。


「将軍? グラムがか? いや、でも確かに言われていたな」


 名前は忘れた。だが、俺をスカウトに来た男達の誰かが言っていた。


 頭を掻きむしり、薄い記憶を漁る。そんな時だ、鳥が大空に羽ばたいた。


「ちょっと待て、実はお前喋れたりしない? って、飛ぶな逃げるな、戻ってこい!!」


 最後に、鳴き声で俺を馬鹿にし、鳥は大空に消えた。


「哀れだな。色々」


 誰かに知って欲しかった。父親越しの俺ではなく、個人として自分を。


 そんな願望を持っていた筈なのに、俺はグラムの事を知らない。彼の心遣いに甘えているだけだった。 


「他の奴らと同じじゃないか、全く」


 自虐は落ち込んでするものだ。しかし俺は笑い、心底から燃えていた。


 グラム将軍。彼の存在は知っている。新たなる将軍。王と王子、彼らの酔狂によって生まれた、新たなる火種。


 最初の頃は、侮り、貶す、それが許される存在だった。新兵すら、公の場で侮辱しても処罰が無いのだ。


 だが今は違う。1月過ぎれば名が売れ。2月過ぎても侮れば、鈍い奴だと出世街道から降ろされる。3月目では、民の守護者。新たなる希望だと崇められた。


 王国にはハルトマンという将軍がいる。功績と信頼により、王国の象徴と言われる人物。彼と同格だと、王国に住む誰もが認めた。攻めのグラム、守りのハルトマン。こんな言葉がある程だ。


 新進気鋭の将軍が、俺の為に時間を使い、我儘に付き合う。


 最高のラブコールだと思わないか? さらに噂ではあるが、グラム将軍は計算高い。


「ああ。そうか、そうなのか。ははは。これは俺の負けだな」


 山を駆け下りる。


 斜面を滑り、崖から飛び出した。そして木に飛び移り、地面を踏まずに移動する。


 危険なショートカット。だとしてもやめられない。体に染み付いた錆を、いち早く落とさねば。

 

「はぁはぁ。飛ばしすぎだか」

 

 そして街に着いた。

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