表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/80

惨劇 1/2

ーレイ視点ー


 今日は楽しい収穫祭のはずだった。


「はぁはぁ。なんでこんな事に」


 教会の外に出ると、村の景色は一変していた。騎士が村人を襲い、家には火の手が及ぶ。


「もうやめてよ。どっか行ってよ」


 幸福な思い出が、悪夢によって塗り替わる。極限故の過敏さが、移ろいまでも際立たせた。


(なんで今日なの?)


 収穫祭は特別な日だ。村にとっても、何より私にとっても。


 *


 私が村に引っ越して来たのは、収穫祭の前日だ。といっても去年の事だが。


 当時、私は収穫祭に出るのを拒んでいた。

 

 だってそうだろう? 収穫祭は、日々の努力を祝う祭りだ。新参者が参加すれば、後ろ指を刺される。想像すれば部屋から出られなかった。


 叔父も私の意思を尊重し、無理に連れ出すことはない。許さないのは唯一。


「外に出なさい。祭りの時間よ」


 ドア越しに声が聞こえる。私が引っ越してきたのは昨日。村に知り合いはいない。よって導き出される答えは。


(叔父さんが村の子供に頼んだんだ。同年代の方が心を開きやすいって)


 私は布団を被り、耳を塞ぐ。少しすると、音は聞こえなくなった。帰ったのかな? 布団から顔を出す。


「きゃ」


 悲鳴と共にゴト、何かが落ちる音が聞こえた。音は連続し、徐々に大きくなっていく。数秒間の音だったが、推論を生み出すには十分だ。


「まさか階段から落ちたんじゃ」


 私は寝具から飛び出す。しかし布団が足に絡まり、床に顔をぶつける。

 

 鼻が痺れる。膝が痛い。でも、見知らぬ誰かが心配だ。歯を食いしばり立ち上がる。施錠していたドアを開け、私は廊下に出る。


「つっかま〜〜えた」

「ちょ、誰? 今そんな事している場合じゃ」


 修道女が肩を掴み、私を部屋に押し戻す。


 咄嗟の事たが私に戸惑いはない。階段から落ちた誰かを、助けるんだと焦っていた。


 私は修道女を振り払おうとする。


「レイ、焦っている時ほど冷静に、忘れちゃいけないよ」

(お父さん)


 父の言葉に従い、私は大きく息を吸う。冷静さを取り戻せば、今まで見落としていた疑問が浮かんでくる。


 行く手を阻む少女の声だが、何処かで聞き覚えがある。


 綺麗な声だ。例え万人の中であっても聞き分けられるほど。


「まさか」

「いや〜〜、チョロいね」


 彼女は階段から落ちる演技をし、私を誘き出した? 浮かぶ推論。急ぎ距離を取り、ファイティングポーズを作る。


 私がした一連の行動を、修道女は笑顔で見守っていた。


「ありがとうレイちゃん、私を部屋の中に入れてくれて。私の名前はアリス、村のシスター見習いであり、祭運営の1人です」


 修道女は胸を張り、両手を広げ、私との距離を詰め始めた。


「レイちゃん、覚悟」

「嫌です。私は」


 私は後退るが、ベットの段差で踵を滑らす。背面からベットに倒れ込み、天井を見上げた。


 近付く足音、興奮した息遣。何より、収穫祭に連れだされる事が、怖くてしょうがなかった。


 私は目に涙を貯め、キッと修道女を睨む。


「帰ってください」

「いいから、私に任せなさい」

「信じられません」


 修道女がではない、私自身が。

 

 生まれ育った街でさえ、私は人付き合いが上手く出来なかった。同年代には瓶を投げられ、親は謝りこそしたが、後日以降は子供揃って無視を始める。腫れ物のような生活は、トラウマ以外の何物でもない。


 荒れる呼吸を抑えるため、私は蹲る。しかし治まらず、背中を大きく丸め、顔を布団に埋めた。


 息苦しさから私を救ったのは、手を包む暖かさ。


「大丈夫、ほら続けて」


 顔を上げると、修道女と目が合う。彼女は穏やかに微笑むと、私の背中を撫でた。そして大きく息を吸い、正しい呼吸のペースを教えてくれる。


「大丈夫、ほら続けて?」

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」


 私が落ち着くまで、彼女は待ってくれる。そんな優しい《ずるい》人が相手なのだ。抵抗出来ず、部屋の外まで連れ出された。


「友達が待ってます、行きましょうか?」

「でも……私」

「大丈夫、ほら繰り返して。ふふ、でも覚えておいて。私は貴方の味方だから」


 振り返り、彼女はニコリと笑う。自室に後ろ髪を引かれるが、手から伝わる暖かさを惜しみ、思わず足が前に出る。

 

 階段を降りるたび、心臓が痛む。

 

 家の玄関で扉を開ける。直視する夕日に目を細め、私は朧気な視界で外に出た。


「綺麗な子」

「金髪かよ、おしゃれだな」

「ねぇ、どこから来たの?」


 外には、私と同年代の少年少女が居た。

 

 降りかかる言葉の嵐に目を開き。私は発する音に自動で向く、所謂首振り人形となっていた。


 助け舟を出したのはアリスさん。


「そこまで。まずは自己紹介でしょ。はい貴方から」


 私は肩を掴まれ、輪の中心に押し込まれる。

 

 集まる視線。新参者がまず自己紹介をしなければ。わかっている、わかっているのだが……言葉が出ない。声を出そうにも、喉の中腹が痙攣し、雑多な音しか鳴らない。


「ええっと、わ、わたしの名は」 


 失敗すれば頭が下がり、音の適正距離は離れてしまう。誰にも聞こえない筈だ。それでも、再度挑戦しようと思えたのは、彼らの表情を見たから。溢れんばかりの笑顔だった。私に興味がある、歓迎してると、本心から信じられる程に。


(もう一回頑張ろう)


 勇気をくれる物だった。私は意気込み、腹一杯に息を吸い込む。


「ちょっと待って、私隠れるから」


 しかしアリスさんの一言で、意気込みは砕かれた。

 

 膝を曲げ、彼女は丸くなる。それを囲むよう、子供達は立ちふさがり壁となった。


「一体何が?」


 珍妙な行動に、私は頭を傾げる。


「グラムが来るの」

「グラム?」


 アリスさんの口から出た名前。誰を指しているのか? 彼女の姿が見えない以上、察する事は不可能。


 少しすると、少年が森から歩いてくる。


 子供達の目が、落ち着きなく揺れる。誰から隠れているのか、ようやく私にも理解できた。

 

「彼は?」

「アイツは変わり者のグラムだよ」

「俺達と同い年の癖に、遊びよりも仕事、金とうるさい奴なんだ」

「まったく。木こりの親父や狩人の兄ちゃんは、アイツを見習えとか、うざったらしい事ありゃしない」


 少年が去ると、彼らは文句を漏らし始める。しかしどの発言も、不満というより大人達に認められた、彼への嫉妬。


「ほら、みんなそこまで、まずは自己紹介」


 アリスさんが手を叩き、彼らを宥めた。


 再び私に集まる視線。もう怖くない。顔を上げ、クッスと頬を緩める。


「私の名前はレイ、よろしくね」


 各々の自己紹介が終わり、収穫祭に私達は参加する。

 

 警戒していた、村人からの拒絶はない。別け隔てなく扱ってもらえた。受け入れて貰えたこと。何より引っ張ってくれる人が、存在するという事実に、私がどれほど救われたか。

 

 吹っ切れた私は、目標を立てた。村に住む、同年代全員と友人になる。


 辺境の村という事もあって、子供の数は少ない。それでも、1人を覗いて友人になれた。


「ダメダメ、こんな時にアイツの事を考えるなんて」


 村で過ごした1年は、紛れもない宝物。「フフ」と笑みを溢し、私は枯れ葉が覆った道を歩く。


「アリスさんには一杯お世話になったなぁ〜〜。さっきの喧嘩も解決しても貰ったし」


 私は先ほど、友人と喧嘩をした。取っ組み合いになりかけた所を、通りかかったアリスさんに止めて貰ったのだ。


 彼女の歳は15歳、私の2つ年上だ。憧れの彼女を呼ぶため、私は教会に向かった。


「おじゃまします」


 立て付けの悪い扉を押し、中に入る。


 教会に彼女の姿はない。変わりに居たのは騎士と神父様だけだった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ