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最後の一欠片


 俺は眼前の火を見ていた。これをして既に2時間。前もって薪は用意してある。適時、放り込み考える。どうしたら、ここに来た目的を果たせるのかと。


 悩んでいると、人影がやってくる。現れたのは金髪の少女。軍服ではなく、カジュアルな服装のレイだ。

 

「で、大活躍のグラム様は、こんな森奥で何をしているんですか?」


 俺がここまでするのは何故か? と暗に聞いてくる。それとは別に、眉が寄り、苛立ちは隠せてないが。

 

「トゲのある言い方だなレイ。何だ? 最近邪魔が入って不機嫌なのか?」


 腰に手を置き、睨みつける彼女。一言で頬が膨らみ、わかりやすいなと、俺は鼻を鳴らす。


「誤魔化さないで下さい」

「誤魔化しているのはお前だろ。とにかく俺は、彼と親睦を深めているんだ。邪魔をしないでくれ」

「邪魔って……知らない」


 彼女は足を踏みしめ家の中に入っていく。


「そっちいくの?」

「……」


 山を降り、街に帰れば良いものを。相変わらずの意地っ張りに溜息をつく。

 

「おいグラム。連れが増えるとは聞いてないぞ。もしかしてお前の彼女か? 部屋を開けるから2人で寝てくれ」


 家から男性が飛び出して来た。緑髪の優しげな顔立ち。甘やかしてくれそうな男性だ。お玉を持った姿は減点だが。


「違う。はぁ、俺は野宿するから、アイツの事を頼むぞ」

「そうか……口では言ったが、あの子に優しいんだな」

「レイに対しては厳しいよ俺は。アイツは保険だ。俺が折れた場合、後始末をさせる為の」 


 彼はやれやれと、首を振りながら対面に座り、目を細めた。


「冗談だろ? お前は優しい奴だ。そんな事はしないさ」

「俺にどんな幻想を抱いてるかは聞かない。だけどな、優しいだけでは何も得られない」

「わかってるよ、そんな事は」


 彼は表情を緩める。空を見ながら、何かを思い出すよう語り出す。


「俺がお前の話に乗らないのは、善良でありたいからなんだ、弓を持たない間は、命を奪うことはない。自分が犯した罪と向き合える」

「……」


 無言を貫く。彼が何をして欲しいかはわかっている。聞いて欲しいのだ。彼という人間が積み上げた、実力、評判を一切無視し、ありのままを見て欲しがっている。


「やっぱりお前は優しいよ。俺を否定しない。ここに来る奴はな、勿体ないとか、父が泣くとか、俺を説き伏せようとする。黙って聞いてくれるのはお前だけだ」


 出せたのは溜息。ただし、呆れと理解が混じった物だ。


「本当にどう口説こうか?」

「楽しみにしてる。俺はお前が嫌いじゃないから、長居してくれるのは歓迎さ」


 彼は家に戻る。俺が意識を集中させると、聞こえるのはレイとアレイスターの会話。


「すいません急に押しかけて」

「いいって。俺はグラムの友達だから、それくらいはさせてよ。代わりと言ったらなんだけど、出来れば彼の話を聞かせてくれるかな?」

(言っとくが友達ではない)


 彼と初めて会ったのが一週間前。友人と名乗られるには関係が浅すぎる。


「関係が浅いとグラムは思ってそうですけど?」

(そうだレイ。言ってやれ)


 心の中で茶々を入れる。


「そうかな? 例え出会ったのが今日だったとしても、波長が合えば友人だと思うけど。ほら、気があう相手っているじゃない?」

「確かに」

(流されんな)


 己の行動に呆れ、空を見た。何故ここまでしているのか? そもそも彼は何者だ? 奴の名はアレイスター。俺が掲げる夫婦龍討伐の、最後のピース。


 しかし、勧誘状況は芳しくない。


「どうしたもんかな?」


 思い出すのは彼と出会った日の事だ。山奥の家に訪れた時、彼は先客と言い争っていた。


 *


 数時間掛けた山登り。嫌でも自然と触れ合う機会が生まれる。思い出されるのは父の事だ。


「父さんは山も好きだったな。飯は上手い、空気は美味しい、そして落ち込んだ時に元気をくれる。俺が海に行っても変わらないでしょ、とツッコんだら、困り顔をしてたっけ」


 山小屋で寝込む父を看病をする。高山病だった訳では無い、父は身体が弱かった。山が与える環境の変化、空気の薄さ、温度の変化に身体が付いていかず、父は山を登ると、高頻度で熱を出していた。

 

 そんな思いをして尚、父は寝言で述べていた。


「グラム。山は良いぞ」


 そこまでして山なのか? 魅力は未だにわからない。

 

 俺が父と山を登った理由。それは父さんの、好きな事に付き合える。親孝行が出来ているようで嬉しかった。

 

「いい加減、我が軍門に下れアレイスター。貴様にはそれが相応しい」


 現実に引き戻したのは、山に響き渡る怒声。


「先客か?」


 上手く行っていない様子。情報収集の為、家の外壁に耳を貼り付ける。


「何度も話しましたよね。俺は軍門には下らない。弓も使わない」

「ふざけるなよ。父から引き継いだ弓術を無駄にする気か?」

「決めるのは俺であって貴方ではない。それに用意出来るんですか? 俺が父を超えたと言い張れる獲物を」

「貴様、私達を侮辱するつもりか!!」


 足音が近づいてくる。そして玄関が開いた。

 

 話しを聞いた限り、しつこそうな連中だ。家主は自身から離れることを選んだ。


 えっとつまりだ。窓下に貼り付いている俺と目が合う。


「新しいお客さん?」


 彼は嫌そうな顔をしていた。同じ要件じゃないのか? 疑いを持った心の声が聞こえてくる。運が悪いことに、彼へ、強引な勧誘を行なっていた男達にも見つかってしまった。


「グラム将軍!! 貴様もアレイスターの勧誘に来たのか?」


 思わず手で顔を覆う。

 先程までは疑念だった、彼の顔が確信に変わる。コイツも男達と同じだと、レッテルを貼られた。


「貴様もか、今直ぐ帰れ!!」 


 アレイスターは森に姿を消した。そして彼を追い出した連中は、家の家具を荒らし帰っていった。

 

 俺はというと。


「まずは家の片付けでもするか。奴らのせいで、話しをするのも苦労しそうだしな」


 父が言っていた。 物の合否は、相手を理解する事から始まる。そして自分に興味を持たせれば、勝ちは直ぐそこだと。


 俺は倒れた家具を直し、雑巾を借りて床を拭く。そして家の中を物色した後、彼が向かった森に走り出す。

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