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戦う為に生まれた命



 庭に出ると、俺と彼の戦いが始まる。先手はガイル。スタート地点に着いた途端、突っ込んできた。


「は、そんな武器でワシの一撃を防げるか!!」

「流石にお祖母ちゃん、あの武器の差は」

「大丈夫ですよ、私の見立てでは彼、夫より強いですから」


 レイが、俺とガイルの獲物の差を見て、祖母に懇願する。

 

 ガイルの武器は大剣。長さは身長の2倍。3メートル後半といった所か。それを自由自在に動かしている。

 俺の武器は片手斧。木こり時代からの愛用品であり、戦闘用ですらない。

 武器の差は歴然、頼りに出来るのは、取り回しの良さだけだ。

 

「ふ」

「ぬん、甘いわ」


 右からの斬撃。俺は下を潜り、距離を詰める。


 大質量の大剣を操れる。それ自体が、常軌を逸したパワーを有している証拠。正面切っての力勝負はやりたくない。


(そうは言ってられないんだがな)


 一番の問題は間合いの差だ。


 伐採斧は、長くても1メートル。目測だが、大剣との差は3倍。とてもじゃないが、中距離での読み合いは出来ない。


(一か八かの投擲は通らない。距離を詰めてもパワーに押し負ける。流石英雄、まともにやるとキツイな)


 受け止められない攻撃。回避を選択すれば、間合いの差で俺の刃は届かない。残る手段は、攻撃の完成前をいなすこと。


 狙いはガイルの腕だ。腕を押し、大剣の軌道をずらす。拳法家が好む手法であり、力を使わず、相手に空振りをさせられる。


 見えた横薙ぎの予兆。俺は彼の右腕を下から押す。想定では、大剣が頭上を通り過ぎ、開いた身体に袈裟斬りを入れるはずだった。しかし剣は止まらず、ズレもしない。腕の初動は抑えたはずだ、なのに彼の腕はピクリともしない


 右腕一本で体を弾かれ、ガイルに距離を作られる。


「まずい」


 脇腹に迫る大剣の一撃。俺は剣身の中心面に背を乗せ回転、飛び越えるように回避した。


 着地後足が止まるのを嫌い、2回地面に転がる。大剣の重さから考えて、俺の態勢を整えるに必要な、数秒の猶予は確保した。しかし眼前には、ガイルの姿があった。


「ふ、隙見たり」


 彼は俺を蹴り飛ばす。縦を意識した、飛距離を稼がせない蹴りだ。飛んだ距離は1メートル、大剣の間合いから逃げ出せていない。


「これで終わりだ」


 ガイルは上段に構えている。


(おいおい、おかしいだろ)


 3メートルを超える程の大剣。普通なら、重さと長さに振り回される。しかし、ガイルにはそれがない。それどころか、一流剣士の速さと自由度で扱うのだ。


 そして唐竹割りが放たれた。斧で大剣を受け止める。しかし俺の斧は、特別制でもなんでもない。父が買ってくれた店売り品。両手持ちで対抗したが、持ち手の木材が砕け、大剣は地面に打ち込まれる。


 大剣が地面に接触後、大地は跳ね、砂煙が撒き起こる。


「グラム!!」

「おいおい、これは不味いんじゃ」


 レイとロイの声。心配してるのか? 早口で声に勢がある。しかしスザンヌさんは落ちついている? 客人を殺してしまった、その可能性があるだろうに。


(やっぱ知ってるか)


 戦場において狂戦士が、どういう存在かを。


「グラム、左腕が」 


 砂煙が晴れ、俺は姿を表す。無事を伝える為に彼らへ向かって手を振る。だが彼女が言ったよう、腕をやられてしまった。傷の具合は、左胸の一歩手前まで抉れており、戦闘は不可能。


(これは負けか)


 手を上げ、降参を示そうとした時。


「狂戦士、下手な芝居はやめろ。お前が俺に勝たない限り、願いは聞かんからな。息子にも言い聞かせる」

「お祖父ちゃん? 勝負は終わりでしょ」

「レイ、この男グラムはな、まだ戦っていないんだ。さっさとその傷も直せ、待ってやる」

(全く、面倒くさい男だ。約束はどうなったよ)


 ガイルとスザンヌさんの反応で確信した。彼らは狂戦士(俺達)を知っている。

 

 俺は傷口を握りしめ、目を瞑る。


「面倒くさい爺さんだ。手札の温存くらいさせてくれよ」


 この場にいるのは俺達だけだ。しかし、見ている者は他にもいる。例えばラカン領主。英雄ガイルが戦うと聞けば、覗く情報屋もいるだろう。だがまぁ。


「畏れを示すか」


 それが、俺のやり方だ。


「グラムの傷が!!」


 彼女の驚く声。無理はないだろう。


 俺が目を瞑ると、左肩から煙が出る。3分後、傷が完治した。


 斧を取りにガイルの前を歩く。彼は警戒していたようだが、俺は別の事に必死だった。


(抑えろ抑えろ)


 視界が真っ赤に染まっている。


 正直、ガイルは強すぎた。騎士に盗賊。少しずつ敵のレベルを上げ、リハビリをしてきたが、大怪我を負ってしまった。おかげで、狂戦士の本能が暴走しかけている。


 斧を拾っても直ぐには挑まない。俺は落ち着くまで深呼吸。視野の赤みが消えたら向かい合う。


「もう、武器とすら呼べないな」


 手の中にある斧を見た。持ち手は壊れ、残ったのは刃部分だけ。石を片手に戦うのと何が違う? 戦闘開始時よりも、俺の不利は広がっていた。


 だが不利? 武器が壊れた事か? 俺は剣士ではない。武術家でもなければ、拳法家でも。俺は狂戦士だ。必要なのは身1つで良い。それだけで、理不尽を世界に表せる。


「狂戦士の戦いを見せてやる。10%フィアー」


 姿勢を低くすると同時、俺の体から黒色のオーラが放たれた。


「真っ向勝負か、面白い。」


 ガイルの振り下ろしを、持ち手の無い斧で弾き返した。


「何?」


 ガイルの腕は頭部近くまで跳ね返る。完全な力負けにガイルは目を丸くする。しかし次の瞬間には、口角を上げ大剣を振り回し始めた


(戦闘狂が。だがもう戦況は変わったんだよ)

「ぬぅ」

「振りが遅くなっているぞ。ジジイ」


 彼の振るう大剣が、少しずつブレ、切り返しが遅くなる。大剣が持つ、取り回しの悪さが見え始めた。


 袈裟を弾いたタイミングで俺は前に出る。懐に潜り込み、ガイルの腹部に右拳を叩き込んだ。

 

「斧を壊した仕返しだ。身に沁みろ」


 足が地面についたまま、ガイルは数メートル後退。口から血を流す。


「お祖父ちゃん」


 レイの心配そうな声。それを。


「狂戦士の覇気か。ハハハハハハ面白い。戦いはこうでなくてはな。それに目も覚めた」


 笑い声で掻き消した。ガイルは一度剣を置き、右腕を見た。彼の腕は震えており、相手が強くなったのではない、自身の体が怖気付いたのを正しく理解する。


「グラム。貴様を敵と認めよう」


 彼の深呼吸と共に放たれる、黄金のオーラ。その余波だけで木々がざわめく。


「はぁ。英雄ガイル、楽をさせてくれないな」


 斧の破片を肩に置き、俺は目を瞑り引き出す。狂戦士が持つ力の源、呪いを黒いオーラとして身に纏う。


 これらのオーラは、勝負を決める物ではない。戦いの質を上げるものだ。


「ついて来い」

「そのお誘い、乗らせて貰おうか」

 

 ガイルは飛び上がった。今度は跳躍も含めたジャンプ斬り。ガイルは地面に狙いを付け、大剣を叩きつける。そして生まれた砂嵐と、足元を揺らす地震。


「なんてパワーだよ。地盤を刺激した事が原因で、明日、噴火が起こっても知らねえぞ」

「大丈夫だ。そうなった場合は、ワシが止めれば良いんだからな」


 揺れに抵抗しようと俺は踏ん張る。しかし足を止めた影響で砂塵からは逃げられず、目を閉じる事を強いられた。


 砂が目に入るのを防ぐため、視界を塞ぐのは合理的だ。しかし両目を瞑ってしまえば、ガイルの姿は追えなくなる。


 俺が選んだのは、片目のみを開ける事。足りない視覚情報は、耳で補い予測する。


 ダンという踏み込み音。砂塵の中から見えたのは、左右の2連撃。俺は足を止め、斧の破片で迎撃する。


 激突直後、俺達の腕は同じ角度まで上がっていた。威力は両者互角だ。


「さっさと折れろ老いぼれ、孫の前で負けたいか」

「うるさい、やるなら限界まで戦うんだよ」


 戦いは。まだまだ続く。


 *


 ーレイ視点ー


 両者の戦いに、私はのめり込む。


 今までの私は、戦いに興味がなかった。持ったのは最近。村の事件で己の無力を知り、強くなりたい欲求が生まれた。


 しかし、息を飲むほど夢中になるのは、まだ早いと感じている。面白さというのは、深みに嵌まる事で理解していく物だと私は考えていたから。

 

 私が熱中した理由は、きっと悔しさだ。同年代の彼が、遥か遠い場所にいる。同じ年月を生きている筈なのに、立っている場所の差はなんだ。


 私は拳を握る。それが見ることしか出来ぬ、私に許された感情の発散方法だから。

 

「うん?」


 突如、私の拳が包まれた。手から視線で追っていくと、隣には祖母がいた。


「レイ、焦らなくてなくていいわ。でも今は、これだけは覚えなさい」


 お婆ちゃんはグラムに目を向ける。その目は、戦いがどちら有利で進んでいるかを教えているようだった。


「レイ知りなさい。この世には、戦う為に生まれた命がある事を。それを象徴するのが彼の一族、狂戦士」


「狂戦士」と私は何度も呟く。体に染み込ませるように。追いつきたいという願望を、形作る為に。


 更に知るため、祖母に目を向ける。


「お祖母ちゃん、狂戦士の一族って?」


「詳しくは知らない」祖母は前置きをした上で。


「身体能力は人間を超え、瀕死の重傷を負っても数時間あれば完治する。傭兵として活動し、戦場を転々としていたけど。5年程前だったかしら? 別大陸の国を乗っ取り、今はそこを根城にしているらしいわ」

「それが狂戦士の一族」


 両者の戦いは深夜まで行われ、私は眺め続けた。


 お祖母ちゃんとロイが、子供達を寝かせ戻ってきても。ずっと、ずっと。

 

 結果は引き分け。だがお祖父ちゃんはグラムを気に入り、彼の願いである、ドラン砦の兵士と成れるよう取り計らった。


「ドラン砦」


 その場所は、私の心に残り続ける。強くなり、恩を返す舞台として。



 一方領主邸では、こんな話がされていた。


「そういえば領主様、例のグラムっという男が、ガイル様と引き分けたようです」

「ほぉ、あのガイルと互角か」

「はい。ただ、ガイル様は本気ではなさそうでしたが」

「あのグラムという男も同じだろう」

「ええ恐らく。なるほど口だけではない、という訳ですね」

「ああ、私も最初は口だけの可能性を危惧していた。狂戦士が在野に1人生きている。それはつまり、一族から追放された落ちこぼれか、裏切り者の2択だ。護衛もいないこと、そして追われている様子もない事から、前者。落ちこぼれだと思っていた」


 人の目と耳は何処にあるかはわからない。そして戦に勝つ第一歩は情報戦。だから、誰にも知られてはいけない、彼の全力はまだ。

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