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プロローグ 処刑場の道


 これは俺が望んだ収束点。この結末に導きたくて、今まで骨を折ってきた。


「グラム将軍。貴方は強敵だった」


 惜しむような男の言葉。俺は肩を落とし、胡散臭そうに目を細めた。


「ハイド様の策略にハマった、俺への同情ですかね」

「はぁ、斜に構えて取るなよ。全部俺の本心だからな」

「といっても、この状況じゃぁ」


 俺は両腕を上げる。そこには手枷が付けられており、自由はない。


「足枷は外れたから良いが、正直。力が抜けんだよこれ」


 この枷には、狂戦士が持つ力の根源。呪いを中和、浄化する白龍の加護が込められている。


「しょうがないだろ。グラム将軍、お前は負け、今から処刑されるのだから」


 そう、俺がいるのは真っ白な通路。この先に行けば、スタジアムを整え作られた、俺の為だけの特別な処刑台がある。


 そして始まってすらいないのに、スタジアムを揺らす歓声が俺の耳に届く。


「祝勝会ってとこか? 大陸統一の?」


 それにハイド、銀髪の男が頷く。


「ああ、俺達の障害は、いつのまにか国ではなくグラム将軍、貴方個人にすり替わっていた。だからこそ惜しいんです。貴方を殺すのが」

「生き残る方法は、お前らの奴隷になることだけだったか」


 俺は口角を上げ、左手の中指を立てる。


「ふざけんな。7国同盟がある、それにレイもいるんだ。そう、簡単にはやられねぇよ」


 男性は首を振る。そして憐れむように目を細めた。


「わかってない。貴方がいない彼らなど、恐るに足り得ない」

「そ、過大な評価、ありがたく受け取るよ」


 俺は足を止める。


 廊下の終点が見えてしまった。スタジアムの中心、フィールドが。


「これにより、我がニクス帝国は大陸統一を果たす。その宣戦布告として」


 聞こえる皇帝の演説。力強く、そして感極まった物が声に混じっている。


 それとは別、矛盾するようだが、皇帝の演説にはどこか熱量の足りない胡散臭さも感じるが。


「ありがとうハイド賢者、ここでお別れだ」

「ああ、将軍グラム。さよならだ」


 外から現れた2人の男性。俺を迎えに来たのだろう。彼らは俺の前後を挟み、スタジアムの中央に連行する。

 

「貴様」

「何をしている」


 だが俺は足を止めた。左右を挟む処刑人、彼らが俺を進ませようと、手枷についた鎖を引っ張るが動かない。


「ハイド、あの時の約束、忘れてないか?」


 俺は振り返り、ハイドに声を掛ける。彼は突然の事で頭を傾げた。


「約束?」

「そう。俺がもし、この危機を抜け出したら」


 今まで体に溜め込んだ呪い、それを一気に開放する。


「礼儀として、一番最初に殺してやる」


 だが出ない。白龍の加護が俺の呪いを、体中に留めてしまう。それでも周囲の3人は息を呑む。


「やっぱでないか」


 俺は頭をかき、顔を逸らしながら笑みを浮かべる。そして動けない処刑人、彼の肩を叩く。


「またせて悪かったな。では行こうか」

「ああ」


 連れられ、階段を登る。


 階段を1段上がるごとに、未練が俺に言う。引き返せ、まだやり直せると。


(父さん。トゥワイス、もう少しで俺は果たせるよ)


 だが未練では、俺の欲求を止められない。階段を3歩上がった頃には、姿形も残っていなかった。


 そして処刑台に立った時、お別れをする。


(さようなら。今までの俺。優しき理性よ)


 この戦いに参加する、そのきっかけがあの事件。俺はそれを思い出す。


 首上に刃が添えられる、その時まで。


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