5-19 終章 その後の地球とカガルーズ世界
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誤字脱字のご指摘ありがとうございました。
今回で完結です。ご愛読ありがとございました。
西暦2040年、レイナは王子2人、王女2人の4人の子持ちである。彼女は27歳であるが、カガルーズ世界の年数は地球年の1.26倍であるので地球年では34歳である。王家に嫁ぐ女性にとって、最大の義務は子供を作ることであるので、そう言う意味ではレイナはその義務を十全に満たしている。
ちなみに、国王カ-マイン・ジズラ・イスカルイ3世は現在51歳であり、まだまだ元気であり、地球の科学技術が導入されている現状において、70歳程度までは元気に過ごせると考えられている。だが、王は55歳で引退して、オミルクに引き継ぐと明言しており、その時点でレイナも王妃になる。
彼女は、現在の王太子妃という比較的自由な身で、時間の半分は子育て、1/4は公務、1/4は事業経営に携わっている。事業経営というのは、彼女は主として日本において魔道具を実用化するに際しての莫大な権利料収入があり、資産は最大で日本円で千億を超えていた。
しかし、彼女にとっては現金を持っていても無駄である。そこで、間島栄太郎の教えに従って、金が入る都度イスカルイ王国の事業に投資していった。その事業は王国が日本に比べ遅れている分野であり、王国の人々の利便性・快適性を高め、経済を活性化して人々の収入を高めることに注力したものであった。
その初期の段階においては、小さなイスカルイ王国の経済規模に比べて、レイナの収入は大きかった。だから、彼女の興した諸企業は国内の急速な経済発展をむしろリードすることになった。また、彼女は起業に当たっては、ほぼすべてを自己資本で賄うことができたためその展開は極めて早かった。
そして彼女は、自分の利益を得ることには関心が低かったため、従業員の給料を採算のとれるギリギリまで上げた。これは、イスカルイ王国の人々の収入水準を短期に上げることに繋がったが、他の商会から苦情が入った。だが、王室と王国政府と強い関係を持つレイナに圧力をかけられる存在はなかった。
無論自分で、直接率いるのは無理があったので大部分は人に任せた。不慣れなことと、任せた者の能力が十分でなく、失敗するものも多く、資産面でレイナの資産はトータルとしては半分になった。しかし、国の経済成長に寄与し、人々の生活を改善してきたことは事実であるので本人は満足だった。
さらに、いくつかの企業は国の代表的な存在になってしっかり根付いているので、レイナは王太子妃にして経済界でも大きな存在である。これらの企業の経営は無論人に任せているが、レイナがオーナーの立場の会社が8社あって、ある程度係わらざるを得ないのである。
イスカルイ王国の生活水準は、すでに日本に近づいており、一人当たりのGDPも7割程度になっている。この点は、人口が現在1千万人弱のコンパクトな国であることが幸いしている。イスカルイ王国の人々は、急速な経済発展であるために年々生活が改善されるのが実感できている。このため、よく知られているレイナの業績への理解から、彼女を取り込んだ王室への高い支持に繋がっている。
ところで、惑星カガルーズには人工衛星がすでに20基以上巡っており、その内10基はミズルー大陸諸国が打ち上げ運用している。従って、衛星写真を元にした惑星カガルーズの世界地図は既に出来ている。だから、ミズルー大陸の他にマイライ、イスム、アオゼン、キュウライなどの4つの大陸があり、それぞれに都市があることは早くから判っていた。
これらについては、5年前から地球の国連の後押しで、ミズルー大陸諸国から人員を出して目ぼしい都市に訪問を始めた。これは、日本の援助によりイスカルイ王国で完成した1万トン級駆逐艦2隻と3万トン級の空母によるものである。
このように軍艦で訪問したのは、これらの都市のある多くの場所で、戦争としか言いようのない数千から数万の兵による戦闘が起きていることが観測されている。だから、到底武装無しで乗り込むことはできないという判断から、武装した艦船にヘリコプターを乗せた艦隊を送ったのである。
それから5年をかけた調査によって、カガルーズ世界の全てで102ヵ国、12地方の国・地方の境界を入れた地図が作成された。さらに、各国の人口・制度・経済状況などの事情も概ね把握できている。この結果から、現在のカガルーズ世界の全人口は2億人を超える程度と推定されている。
ただ、地上の35%程度のエリアは、原始的な生活をしている人々が散見されるのみである。それに、訪問した国々は、自分達が地球と出会う前と精々同等、多くはより貧しく、さらには互に争っている。だから、征服は出来てもなかなか取り込むのは手間がかかることが確実である。
嘗て地球における大航海時代は、富や資源を求めてのものであった。だが、現状のミズルー大陸諸国は国内を豊かにすることで、精一杯の状態であり、他の世界に植民しようなどの余裕はない。それに開発すべき土地は、魔獣を容易に狩ることが出来ている今では国内にいくらでもあるのだ。
つまり、他の大陸に出ていく動機が今のところない。その点では、最も開発が進んでいるイスカルイ王国は、最も近く戦乱が殆ど無く比較的平和で豊かである、キュウライ大陸の諸国と国交を開こうとしている。ちなみに、3年前に設立したミズルー大陸諸国連合は、他世界からのカガルーズ世界への植民を禁止している。
これは地球の相当な数の国が、カガルーズ世界の国を成していない地域に植民するという決議を国連で行おうとした。その情報をレイナは日本の友人から得て、自国政府を動かして現在では友好関係を築いて連合を組んでいる諸国に働きかけた結果である。
ただ、すでに存在している国にその国の許可を得て、地球人が住むことは禁止していない。さらに、地球側も同じように魔法の使えるカガルーズ世界の人々が各国に住むことは許容している。このため、現在ではミズルー大陸には6万人を超える地球人が住み、地球には5万人を超えるミズルー大陸人が住む。
それらの双方とも、6割は日本とイスカルイ王国間の人のやり取りである。イスカルイ王国へ行っている日本人は、自然豊かなイスカルイ王国に住みたいと言う人で、技術伝達に当たる人々が大部分である。逆に日本に来るイスカルイ王国は、魔法を使って土木建築や生産現場で働く人が大部分である。
イスカルイ王国は自国に住みたいという日本人は、ただ住みたいという者は受け入れておらず、有用な専門性のある技能を持つ者に限って受け入れている。日本が受け入れるのは、企業がイスカルイ王国人の一定の技能の魔法士を募集した場合において、国内の雇用にマイナスの影響が出ない範囲である。
ちなみに、日本の出生率は1.98で改善はしているが、人口は減少を続けており現在ほぼ1億である。今後も減ることになるが、概ね20年後に8千5百万人で下げ止まると予想されている。GDPは、550兆円余りであるから、殆ど増えてはいないが一人当たりにすると15%ほど増えている。
また、魔道具の導入で産業や人々の暮らしの効率が良くなって、必要な生活費は相当下がっている。これはエネルギー費が明確に下がっていること、さらに資源の発見が続いていることが功を奏している。そのため、資材コストは安定しており、更に生産コストも下がっている。
その結果、人々が日常に支払う電力費は大幅に下がり、上下水道費、交通費なども少し下がっている。食料については、農業改革によって輸出能力が増してきた異世界ミズルー大陸諸国からの輸入が増えて、価格は横ばいになっている。
このように、人々の収入は大きくは増えていないが、暮らし向きは良くなっている。また、人々の意識も変わってきており、いわゆる『贅沢』ということに価値を置かなくなっている。その中で『働き方改革』も普通に実行されるようになり、過重労働がほぼ根絶されている。
加えて、キュアラーによってとりわけ高齢者が、関節の痛みを中心とした体の欠陥からほぼ解放され、また認知症も根絶されて生き生きとして暮らしている。さらには、若い者がガンを中心とした病気や不慮の事故で亡くなることはなくなった。
このように、経済的にゆとりがあり、健康にも支障がないということで、人々が快適に生活をおくれるようになった。
余暇の過ごし方であるが、旅行の人気が非常に伸びている。これは、次元ゲートの観光利用に続き、普通の人が、空間ゲート及びMストレージの使用が出来るようになったことが大きい。今や日本からイスカルイ王国やミズルー大陸諸国へ行くツアー客は年間1千万人に及ぶ。
また、世界中の国々への観光目的の日本からの出国者が年間延べ5千万人に及ぶ。ちなみに日本への観光目的の入国者数は地球の世界から5千万人、ミズルー大陸諸国から5百万人である。これは、過剰なインバウンドによりある程度受け入れを制限しての結果である。
制限なしに受け入れたら日本への入国者は年間1億人を超えるとされている。このように集中するのは、遠隔地からでもゲートによって、何処へでも即時に移動でき、荷物を簡単に運べることの利便性がまずある。さらに、距離によって料金は高くなるものの、地球の裏側でも10万円のゲート使用料という移動料金の大幅な低減がある。
ただ、問題は時差であり、地球の裏側に行くと昼夜が逆転するため時差ぼけがあり、折角の旅行が楽しめない。この点は、寝溜めにより時差ボケを克服する魔道具に薬を併用する手法が開発されている。これは、基本的には出発前に時差に合わせた寝溜めをすることで、目的地に着いた時にはそちらの時間に体が順応しているというものである。これは時差が12時間であれば、8時間の寝だめが必要である。
さて、先述のように現在は空間ゲートとMストレージの販売と利用は、制限は多いものの民間にも解放されている。ただ、次元ゲートはまだ政府による管理しか許されていない。この解放は、空間ゲートについてはその存在を検知する魔道具が作られたことによる措置である。
つまり、公認されたゲートしか使ってはならないという法があり、違法のものは検知される。そして、違法ゲートの所持と運用は極めて重い刑罰を科せられる。現状の所では、違法ゲートは見つかっていないが、違法使用は何度も摘発されている。
Mストレージも同様に、その存在の検知魔道具とスキャナーの登場によって市販が可能になった。だから、空港、駅や大きな販売店などの出入り口にはゲートが設けられて、Mストレージの所持と、中身の検知を行って、危険物や禁止物の持ち込みを監視している。
そのことで、容量2㎥までは買うのに許可は不要であるが、それ以上100㎥までは買えるのは企業のみであり、それ以上は販売されない。そして、製造・販売卸しは政府機関のみの独占になっていて、2㎥を超えるものは全てが登録されている。
ただ、空間ゲートは交通機関運営の保護のために、国に1ヵ所以上かつ半径500㎞圏に1ヵ所という制限が設けられているので、短・中距離の移動には航空機が使われている。しかし、500kmを超える長距離の空路は殆ど全滅状態になっている。航空業界も魔道具の犠牲になった一つの産業である。
魔道具のある世界では、異世界との交流もあって、資源の枯渇による将来の不安が殆ど解消された。また、世界平和軍の存在もあって、核戦争のみならず戦争の恐怖から解放されたと言っていいだろう。
今の世界は、エネルギーと資源に困らず、魔道具による効率のよい産業がある。それがあれば、短期的に人口が90億人を超えても、途上国の人々が豊かさを手に入れることでそれはいずれ減る。人類は異世界カガルーズと交流しつつ次の百年、そして千年を生きていくだろう。
暇ができたら、また何か書いてみます。




