5-8 イスカルイ王国の観光業と魔獣
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レイナのオミルク王太子との結婚式は、日本からの観光ツアーの一つになった。レイナは、節目でもあるので日本で世話になった人々をこの機会に招くことにした。そうなると、主役の自分は結婚式の前後は忙しいので、それほど共にいる時間を取れない。
そういうことで、完成した幾つかの観光ルートの目玉を回って貰うことにした。招くのは長く世話になった間島夫妻に、香川N大学名誉教授他の大学関係者10人と友達となった若い研究者10人である。間島と香川は79歳であるがどちらも矍鑠としている。
コースは式の3日前に王国に入り、魔法アトラクションを見て、目玉コースである古城から以前の王都などの文化コースをまず回る。それから、大河川アスラ―川の渓谷から大森林の中の湖畔などの自然景観コースに続く魔獣視察コースを2日で回る。
そして式当日に王都に帰り式には特等席で参列して貰い、翌日帰って貰うことにした。当日の各国の代表が出席する披露宴は窮屈なので、王都内で催す平民を中心とする祭りに参加してもらうことにしている。
間島栄太郎は、マジマコーポレーションの会長職は75歳で引退した。相談役としての籍は残しているが、会社には月に数回顔を出すだけになっている。だから、時間は十分あるのでレイナに頼まれて、王国の観光業のアドバイザーを務めている。だから、妻の峰子と共にイスカルイ王国には何度も来ている。
王国は日本より少し広い面積に800万人の人口であるので、国全体を衛星写真で見ると濃い緑の大地であり、その森林の隙間に農地が広がっている。人が住むのは、ほんの僅かの面積で、農地の一角を小規模な街や集落が占めている程度である。さらに、その街々を最近のインフラ整備の結果である鉄道と道路が結んでいる。
王国は円形に近い形であり、王都イスルーはそのほぼ中央にあるので、交通網の形成には効率が良く流通でも非常に有利である。国の陸地側の国境周辺は2,000m~3,000m級の山岳で仕切られており、そこから流れ出る川が国の縦横に巡っているので、国全体で水は極めて豊かで安定している。
惑星カガルーズの地軸の傾斜角は12.5度であり、地球の23.4度に比べ約半分であるため、季節の変化は小さい。また、暴風雨の発生は少なく起きても弱い。王国の年間雨量は平均で1,500㎜であり、雨季と乾季もないため、川の水量も安定している。
ただ国中の川は3本に収束して南の海に流れ出ているので、これらの川の流域面積は膨大である。とりわけ王都の傍を流れる、中央のイスルー川の流域面積は国の半分に近いため水量は非常に豊かである。このように、イスカルイ王国は全体として南に開けた巨大な盆地であり、全体に平坦である。
その上、農業において最も重要な要素である水に不自由しないという農業には極めて恵まれた地形である。さらには、周辺国との国境は険しい山岳に阻まれているので、限られた渓谷を守れば良いので、他国からの侵略を余り気にする必要がない恵まれた国である。とは言え、北側のリンドル王国との国境は比較的に開けていて、この部分からの侵略は過去何度も起きている。
ただ、ミズルー大陸全体に言えるが、国の多くを魔獣の住処となっている大森林に覆われており、人は魔獣に怯える生活をしてきた。だから、イスカルイ王国で観光業を営む場合には、魔獣の害を除くことを優先的に考える必要があった。
山岳に囲まれて水の豊富なイスカルイ王国には、観光スポットとなる風光明媚な場所は多数あるが、観光には魔獣の害を防ぐのが前提である。海についても、美しい海岸はいくつもあるが、大海獣がはびこっていて小型船の航行は考えらず、最低でも長さ100m級の鉄船が必要である。
しかし、人工魔石による魔力ブーストと結界に雷の魔道具とマジックバッグによって、軍が大森林に分け入り、すでに観光スポットは切り開かれてアクセスも出来ている。海についても、海獣が容易に狩れるようになってきたので、安全ゾーンを作ることができた。
これは、海獣は基本的に呼吸が必要であるので、モーター駆動の鋼製大型船に捕鯨銃と雷の魔道具の組み合わせで狩っている。そして、魔獣と海獣の肉は大型かつ凶暴なほど魔素が豊富であるためか、肉として極めて美味であるため、古くから高値で取引されていた。
だから、魔獣肉は大型で強い魔獣のものほど高価であるので、これを狩る者達がいる。彼等は魔獣ハンターと呼ばれ、その肉の買い取りやハンターの便宜を図るためにハンターギルドが結成されて、登録している数は国内だけで5万人以上となっている。
魔獣狩りは極めて危険であり、未熟な者では命の危険があるため、実力によって活動を制限されている。そのハンターはA~Eの5段階のランクがあって、Aランクになれば行動に制限がなくなる。だから、彼等は森の奥深く迄潜り、危険な魔獣の肉を狩って高収入を得ている。とは言え、引退するまで生き延びる者は少ない。
ハンターは、必ずしも魔獣狩りのみでなく薬草や森の果物・根菜などの採取、さらに森林の中の鉱物の採取も行っている。彼等の役割は、食肉目的のみでなく村や街を守るための魔獣狩りも重要である。彼等は大型かつ凶暴な魔獣も相手にするので、当然一般人に比べて強い。
彼等は平均的に魔力が大きいので身体強化を自在にでき、槍や剣技を鍛え魔法も達者な者が多い。
観光拠点作りのための魔獣狩りは、当初人工魔石によって魔力をブーストした国軍の部隊が、結界と雷の魔道具に大容量のMストレージを使って実施した。これは、これらの魔道具は地球では軍事機密の品であるため、ハンターに渡す訳にはいかなかったためだ。
ただ国軍は、衛星写真によって地形は判ってはいても、土地勘はないため高ランクの魔獣ハンターを雇って森に分け入っている。こうして、開発が進むと魔獣も多数狩られることになる。その肉は輸出品を探してしている王国政府によって地球にも持ちこまれた。
まず王国は、日本の食肉業界と提携して魔獣肉の徹底した安全性の検査を行った。その結果、安全性が確認されてからは、各種料理店に供給して試食が行われた。その過程で、海獣も含めて魔獣の肉は、大きく強いほど魔素の濃度が高く普通の肉ではあり得ない濃厚な味が認められた。
それに加えて、顕著な肉体の活性化の効果が認められた。美味い上に元気がでる肉となると、支給品を提供した料理店は全てが仕入れを希望して、㎏10万円を超える高値でも売れるという見込みとなった。それを受けて、王国政府は魔獣の肉や強靭な骨などの有価物を定量的に輸出することにした。
大型魔獣の骨や腱については、有機物で軽いのに鋼材を超える強靭さから、様々な構造材料に使われ始めており、高値で売れることになった。関係者にとっては、地球という従来の3倍を超える値段での売り先が確保できたのだから、供給体制を整えなくてはならない。
だから、国は国軍の管理の下に、ハンターを労働者として雇い、結界と雷の魔道具にMストレージ並みの容量を持つマジックバッグを使って、肉などの有価物の採取と輸出の体勢を整えた。ハンターへの支払いは高給ではあったが、高ランクハンターにとっては余り割の良いものではなかった。
しかし、人数を揃え結界に守られて、指揮官の指揮の元で行う狩りには殆ど危険性はなかった。つまり、中堅クラス・初心者にとっては、命の危険は殆どなく、仮に大けがをしてもキュアラーで回復する。だから、大森林深部での作業が、殆ど命の危険がない安全でそれなりに稼げる職場となった訳だ。
作業はまず狩りである。魔獣は通常の獣とは行動が異なる。魔獣は魔力の流れつまり魔素の濃い流れに引き付けられる。それに、魔力の強い人間の魔力器官に引き付けられることも確かである。だから基本的に、彼等のテリトリーに踏み込むと襲ってくるのが常である。
このため、観光ポイントの開発に当たっては、その位置に向けて進めば、どんどん襲ってくるので、それを結界で守りながら狩っていけばよかった。しかし、魔獣から1~2㎞離れると、その範囲外の魔獣は襲ってはこないという調査結果が出ている。
だから、魔獣を数多く狩るには、狩る側が常時移動して引き付ける必要がある訳である。一方でスタンピードという数万の魔獣が溢れる現象があるが、これはある程度の魔獣が動くと、それに釣られて魔獣がどんどん増える現象と説明されている。しかし、本当のところは判っていない。
いずれにせよ、レイナの結婚式の時点では、基本的な方法は5人から10人のチームが森林をバイクで走り回って、出てくる魔獣を雷の魔道具で狩る。狩った魔獣は、マジックバッグに収納してそれを解体拠点に運んで、解体する。解体は基本的に刃物に魔法を併用して行う。
この際には、魔力を刃に沿わすことで、それほど力を使わずとも切断が可能である。つまりこれは、魔力によって対象の結合力を弱めてそこに刃を食い込ますことで容易に切断するものだ。刃渡り1.5mの刀と、この切断魔法に身体強化を併用すると、最大の魔獣であるインドレラの直径1.5mの首を骨ごと切断できる。
こうして解体して濃厚な魔素を含む血を抽出して集め、食肉部をばらして分別する。内臓の筋肉部は食肉になるが、その他の内臓は使い道がないので体液を抽出して乾かして粉砕して肥料にする。腱と骨は乾かして、ばらして分別する。これらの内の食肉と腱と骨が地球への輸出品になる。抽出した血と体液は、水分を飛ばして栄養剤、家畜の飼料などになるので、捨てるとことがない。
このように、軍人とハンターは魔法を有効に使って簡易な設備で魔獣の肉などを輸出して、王国の輸入超過の歯止めに貢献している。間島は立場上こうしたことも知って、魔法というのは本当に便利なものだと思う。ちなみに年々体の衰えを自覚するこの頃、温暖でまだ世の中が緩やかなイスカルイに住むのもいいと思うのだ。
明日と明後日は更新できないと思います。




