4-15 地球・カガルーズ両世界の交流6 ―女性魔術師による日本での資源探査2
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資源探査は、最初は日本唯一の採鉱中の金山である鹿児島県の菱刈鉱山で行われた。この鉱山の発見は江戸時代であるが、1985年に本格的に採鉱が始まり、すでに累計260トン以上の金が採掘されている。現在の採掘量は年間6トン余りであり、まだ相当な鉱脈が眠っていると期待されている。
この金山の特徴は鉱脈の金の含有率が非常に高いことで、平均で40グラム/トンもあり、他の金山の10倍に近い。坑道は既に100kmを超えているので、その外周部で探査すれば新たな鉱脈を発見する可能性は高い。菱刈については、採掘に困難のない部分の鉱脈は、鉱山の存続のために抽出しないことにしている。
3人の魔術師とN大の4人に、経産省から来た三宅技監と部下の2人の技術者が菱刈鉱山に乗り込んで調査することになっている。その前に、3人の魔術師とN大の4人は1日休みを貰って、はとバスに乗って東京見物をし、地下鉄に乗って秋葉原など東京見物を楽しんだ。
無論N大の者達は案内役であるが、結構自分達も楽しむことができた。ちなみに魔術師たちは小遣いとして日当1日1万円を貰っている。食費や宿代、交通費など必要経費は全て日本政府持ちなので、この日当は持って帰るお土産代ということだ。
その翌日は飛行機で鹿児島意に行き、菱刈鉱山のある伊佐市に車で移動して菱刈ホテルに泊まり翌朝から探査にかかるが、当然鉱山会社と調査の打ち合わせを行った。なお、イスカルイ王国からの魔術師を疲れさせないために、なるべく歓迎会みたいなものはしないように迎える鉱山会社には頼んでいる。
到着したのは昼過ぎであったが、出迎えた菱刈鉱山の関係者と、坑道の詳細図面を提示してもらって探査の場所を決めた。
「ええと、いずれにしても、外周の坑道で探査をして、まだ掘っていない外側の探査をしたいと思います。ですから、具体的にはここから始め、次はここです。抽出については比較的金の量が少なくて採算性が悪いところを選びたいと思います」
会合の席で提示された地図を指しての坂田の話に、鉱山長という現場責任者の立場のごま塩頭の山崎氏は、どうも魔法による探査と抽出は信じられないようだ。坂田は、内心無理はないと思いながら、説明を続ける。
「ああ、魔法による操作は恐らく実際に見ないと信じられないと思います。ですが、私共には数多くの実績があります。その実績によれば、探査する位置から120m以内に鉱脈があれば必ず見つけられます。そして、半径120mの範囲であればその範囲を確定できます。さらに、鉱石の特定の点に金などの鉱物の含有率も探知できます」
「120m!ボーリングでも100m以上は容易なことではないですが、それが魔法で探査できるわけですか?そして、サンプルを取らずに含有率まで判るとは……、探鉱屋はあがったりですな、ハハハ」
山崎は無理をしたように笑う。とは言え、鉱山の事業所長も同席しており、サラリーマンとしては逆らえない。そして彼は話を続け、坂田が応じる。
「探査もそうですが、金の抽出という魔法を是非見てみたいものです」
「はい、多分抽出も実施できると思っています。私も何度見ても目を疑う魔法ですよ」
翌日、最初の試みであることから、魔術師3人、N大研究者4人に経産省の2人の全員が、所長と山崎を含む鉱山の関係者6人と坑道の西の端までやってきた。そこは、西に突き出した坑道であり、上には150mの岩石と土砂が被っており、下もまだ探査されていない地区だ。つまり、ほぼ半径120m全体が未探査の鉱区である。
坂田が椅子に座ったパーリャとパソコンなどの準備の終わった田宮を見て声をかける。
「ではパーリャさん、お願いします。田宮君プロットはいいな?」
「はい」
「はい、スタンバイO.Kです」
パーリャと田宮がキッパリ返事をする。この際、ミーダイ師はなにもしてないようだが、実際は弟子たちの魔力の動きを追っており、必要とあらばサポートに入る構えだ。もっとも、最近ではそのような事態は起きていない。
「では、探査を始めます」
パーリャの柔らかい声が坑道に響く。坑道内では、最近は発電機を使うことなどなく、電源は全てMバッテリーになっているので、坑道内は遠くからポンプの水の音が聞こえるだけで静かであるので、彼女の声がはっきり聞こえる。
パーリャは椅子に座って目を瞑り、魔力を地中に伸ばしていく。人工魔石は彼女の腰のケースに入っており、そこから彼女は魔力を一杯に引き出している。パーリャの傍には、田宮が組み立て式の机にパソコンを開いて椅子に座っている。
「うん、ありますが、細いですね。では田宮さん位置を送ります」
パーリャがつぶやくように言う。
起点は床に打ったピンであり、パーリャと田宮は互いに頭の中に座標を描いていて同調しており、パーリャが伝える鉱脈の端の位置を、田宮がCADにプロットしていく。それを、鉱山関係者が息を飲んで覗き込んでいる。
山崎はこの鉱山の現場責任者である鉱山長として、数百筋以上の曲がりくねった鉱脈を掘りだしてきた。その経験からすれば、今画面上に描かれている径2.5mほどの鉱脈は本物のように思える。それも今の位置からやや斜めの下方に35mの位置から始まっているので、ボーリングで探り当てるのは至難の業だ。
結局その鉱脈は直径2.5mほどで長さ110m程度であるので、容量は約540㎥だから1400トンの重量であり、平均50g/トンであるため70㎏の金が入っていることになる。さらに、探査範囲内には縦横にある程度の鉱脈があったが、半径120mの範囲で全体として3トン程度の金であった。
「ええと、これだけの範囲で3トンというのは少し少ないですね。採鉱するにしても効率が悪いのではありませんか?」坂田が山崎に聞くと、首を振ってこたえる。
「いえ、3トンといったら、金属価格で300億円です。それにこれだけ掘る場所がはっきりしていれば、十分以上に採算に乗ります。いや、凄いですね。元々、こちらの方は見込みが薄いということで、掘られていなかったのですよ。それが、これだけ金があれば、当然掘ります」
そこに事業所長の木山という人が恐る恐るという感じで声をかける。
「坂田先生、その抽出というものをやってみて頂けませんか?ぜひどういうものか見たいのですが」
その言葉に坂田が応じて、ミーダイ師の了解を得ようとする。
「そうですね、いずれやって貰うつもりでしたから。ミーダイ師、宜しいですか?」
その要請に、ミーダイは快く応じる。
「解りました。では、この辺りの鉱脈の枝について、最初はミリナ、それからパーリャ、それから私で2回ずつやりましょう」
パソコンの画面に描かれた鉱床の枝の一部を指さしながら、やることを説明するミーダイ師の言葉に怪訝な顔をしている鉱山の一行に坂田が説明する。
「今ミーダイ師が言われたのは、抽出は一回に出来るのは200㎏強で、大体1ℓ位の円筒形のインゴットになって出てきます。つまり、1個20㎏位ですね。それが10個強出来る訳です。
そこで、集中が切れるので一旦休憩ですが、1時間ほどすればまたやれるようになります。余り疲れない範囲でしたら、各人2回までということです。
ちなみに、そのインゴット一つの抽出に要する時間は1分くらいです」
「ええ!20㎏の塊が出てくるのですか?それも1分ごとに!」
木山が思わず叫ぶ。
「はい、それは不思議な光景ですよ。ご覧になれば判ります。では、ミリナ君やってくれるか?」
坂田は応じて、ミリナに始めるように指示する。ミリナは、専用の座り心地の良い椅子を出して、その上にクッションを乗せて座り心地を確かめていたが、坂田の声に元気よく目を瞑って応える。
「はい、いきます!」
坑道内の気温は18℃で快適であるので、 彼女は魔術師の制服を着てマントなしである。すこし膝を開いているがパンタロンなので問題ない。両手を開いて膝に置き、口はぎゅっと結ばれている。彼女は明るく照明灯の光にはっきり見えている。
やがて彼女の膝の先に金色のもやもやが現れ、それは急速に滑らかな金色の円筒形になって、ガランと重い音を立てて床に落ちる。鉱山関係者は目を見開いて、その様子を見ていたが恐る恐るその円筒に近寄り覗き込む。そして、互に顔を見合わせて声を潜めて言う。
「「「「金だ」」」」
山崎はそれを見て気が遠くなる思いであった。色から判るが、多分あれは殆ど純金である。我が菱刈鉱山の場合は、山から金鉱石を掘り出し、工場で粉砕して選鉱で極力金の濃度を高めて送り出すまでが役割である。選鉱された金交じりの粉末は、四国に送られてそこで精錬されるのだ。
菱刈の鉱石は例外的に金の含有量が高いので、金にするコストは低いがそれでも金グラム当たり2千円程度はかかっている。今は、グラム1万円を超えているので、十分以上利益が出るが、価格が安くてギリギリの時期もあった。だから、金の含有率が低い金山は閉山になっている訳だ。
それが、あの魔法使いは、計ると大体30秒で多分20㎏はあるだろう純金のインゴットを生み出した。30秒で2億円以上だ!金の卵を生むガチョウというが、まさに金を生む魔法使いだ。いや、確かに目で見ないと信じられないわ。
山崎が感慨にふけっている間にも、金の円筒はどんどん生まれてくる。それに1本が生まれるインターバルが坂田の言った1分より明らかに短い。ミリナの足元が一杯になり、彼女は一旦目を開いて、椅子を横にずらしてまた始める。
「坂田先生、ミリナの抽出は随分早いですね。1本30秒くらいです。やはり、鉱石の含有率が高いことが効いていますかね?」
田上瑞希がそっと尋ねるのに坂田が答える。
「ああ、そうだろう。トン50グラムという鉱石は初めてだからね。だから、ひょっとすると一人一回当たりの抽出量は倍位いくかもな」
果たして、坂田が言ったように、ミリナは22本の金のインゴットを抽出した。続いてパーリャが抽出を行っている内に、各インゴットの重量と成分分析が行われた。結局、金の純度は99.99%以上であり、インゴットの重量は19.5㎏~21.8㎏までばらついていて平均は20.9㎏であった。
つまり、ミリナは約15分で460㎏の純金を抽出したことになる。そして、パーリャが520㎏、ミーダイ師が750㎏であった。そして2回目の抽出で、発見した金鉱脈からの金は全て抽出してしまい、3.15トンの金を生み出した。とは言っても、容量は160ℓだから風呂一杯の量であってたいした量ではない。
しかし、近年イスカルイ王国と金の話が話題になって、少々金の価格が下がり気味であるがグラム1万円は超えている。だから、僅か1日の探査と抽出で315億円以上を稼ぎ出したのである。
契約では、魔法による探査により発見した鉱脈の精錬後の価格の5%をイスカルイ王国が受け取る。
さらに、操業中の鉱山については、国がその鉱脈によって生じた利益の20%を税として受け取る。操業していない場合は、発見者として国が仕切ることになる。魔法によって抽出を行った場合はまた別であり、抽出生成物の価格の30%をイスカルイ王国が受け取る。
残りを、操業中の場合には20%を国が税として受け取る。つまり、鉱山側はほぼなにもせずに半分の150億円以上の利益がでたのだ。また、操業していない場合にはイスカルイ王国の取り分を除いて国が70%を取る。
150億円は菱刈の鉱山会社の昨年の純益を超える金額になる。山崎は混乱しながらも考える。
『さきほど発見した鉱脈を採掘して選鉱するには、多分80億円くらいかかるだろう。その経費無しに、150億円が得られた訳だ。しかし、一方でその人件費分の35億位の雇用が失われ、四国の精錬工場に渡す30億ほども向うにしてみれば失われた訳だ。
これは、この抽出は最小限にしないと、会社が解散になってしまう。親会社は万歳だろうが』
抽出とその結果の計測が終わったのは午後14時半で早かったが、抽出は疲れる魔法なので、その日の探査はそれで終わった。そして、魔術師3人は夕食までホテルの部屋で休んでもらった。しかし、その後はあちこちで大騒ぎになった。
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