4-14 地球・カガルーズ両世界の交流5 ―女性魔術師による日本での資源探査
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パーリャは、バスに乗り込みながら、顔をほころばせて片手を挙げて彼女に挨拶する田宮芳樹の顔を見て、思わず顔が熱くなるのを感じた。彼は、身長が175㎝で、スポーツ刈りという短い髪の細マッチョで素朴な感じの男性である。
一方でパーリャは、自分では平凡だと思っているのだが、日本の基準に照らせば十分美人である。身長は160㎝でぽっちゃりしているが、体は均整が取れていて、ちゃんと鍛えているので、動きは鋭敏である。髪は濃い紺であり、目は緑、優し気な顔立ちでフィールドワークが多いため日に焼けている。
パーリャは、坂田センセイと呼ぶリーダーに率いられる『インセイ』という、近い年ごろの皆に会った時は興味深々であった。彼女は、宮廷魔術師というエリート集団の中にあって、傲慢な貴族とは肌が合わず、数の少ない平民の同僚にもこれといって親しい人はいなかった。
殆どを宮殿とその宿舎で過ごす彼女には、交流があるのは殆ど貴族のみであり、街に出れば宮廷魔術師ということで怯えられる。それに比べて、『インセイ』の3人は、傲慢なところは全くなく、男はつっけんどんな者が多いイスカルイ人に比べ優しく、自分で話題を作って話しかけてくれる。
ちなみに、宮廷魔術師は巧拙はあるが、皆記憶術を身に付けており、ミーダイ師にミリナとパーリャ共に、日本語と英語については不自由はしていない。だから、坂田一行とのコミュニケーションは、最初多少ぎごちなかったが、1ヶ月もすれば全く不自由しなくなった。
最初会った時には、3人いる院生の内、女性の田上瑞希は頼れる姉さんという感じであり、田宮芳樹は口数が少ないが優しくて出来る感じで、三宅良治はちょっと調子が良いという印象であった。パーリャの好みとしては、父に似たタイプの田宮であった。
その後、何度も山中の資源探査に同行して、Mストレージで運んだプレハブ宿舎で一緒に山中に住んだ。結界の魔道具があったものの、魔獣にも襲われて何度も危ない目にもあった。そいう生活を述べ6カ月余りも続けたのだから、互いを良く知り合う時間は十分あった。
その中で、パーリャは田宮と親密な関係になった訳だ。そして、今後1年間はまた一緒に過ごせることになる。それも、様々なビデオやドラマ或いはマンガを見せられ憧れていた日本全土を移動して調査して回ることになる。パーリャにとっては、今回のミッションは楽しみでしかなかった。
その後は、田宮から2人で地球世界を股にかけて、探査して回る話を持ち掛けられている。航空ネットワークに覆われている地球は、惑星カガルーズに比べてはるかに便利で安全である。資源探査で高収入を得られることは間違いないから、経済に大きなゆとりがあれば、世界を回るのは快適なはずだ。パーリャは大いに乗り気であった。
そういう感慨にふけっている内に、バスは宿舎基地のゲートを潜って日本側の東京に出る。次元ゲートは国の厳重な管理下にあって、全国6か所のゲートは全て建屋に入っていて自衛隊が管理している。東京にあるものは、霞ケ浦の官庁街にあって、高さ3mのごついフェンスの中にゲート棟がある。
バスが東京側に現れるとそこは、明るく照明された大きな建屋の中であった。潜った先には鋼製の門扉があって、その手前で止めたバスに迷彩服の制服の隊員がやって来る。案内役の経産省の坂口が書類を出して説明すると隊員がバスに乗りこんで来る。彼は、名簿と乗っているメンバーを照合して満足し、「ようこそ日本へ」と言って敬礼して降りた。
バスは開いた門扉を通り抜け、さらに自動で開いた幅4m高さの6mの巨大な扉を潜って漸く東京の街に出てくる。その光景にイスカルイから来た皆は圧倒される、イスカルイの最も高い建物は、国教会の塔であり、その高さは30m強である。
ところが、出てきた場所には目の前に100mを超えるビルが聳え立ち、近くには高さこそそれほどでもないが、巨大な容量の建物が数多くある、さらに遠くにはそばの高層ビル以上の建物が数多くある。それでいて、多くの緑に包まれた広場があり、幅広い道路がきちんと配置されている。
そして、そこには青空の元、5月の陽光に照らされて驚くほど多数の自動車が走り、多くの人々が忙し気に歩いている。その人々の服装は、遠目でもキチンをしているのが判る。
「うわー!」パーリャは思わず叫んだ。ミーダイ師とミリナも、声こそ出さないが目を見開いて、辺りを見回している。見える範囲だけでも、この『トウキョウ』という都市の巨大さが判る。彼女らの反応をN大学の一行が微笑ましく見ている。
バスが、15階建ての経産省の玄関に着き、坂口が書類を示してエレベーターに乗る。エレベーターホールには十数人の人がいたが、イスカルイからの3人の女性を興味深く見ている。イスカルイの人々の容貌はあまり日本人と変わらないが、何しろ髪と目の色が違う。
それに、美人が多いイスカルイでも、心身両面を鍛えている魔術師団の女性はとりわけ容姿も優れている。パーリャは先述のように紺色の髪に緑の目であるが、ミーダイ師がプラチナブロンドに青の目、ミリナが緑青色の髪に藍色の目である。
彼女等にはエレベーターは初経験である。イスカルイ王国においては、地球の工業製品を数多く買っているが、高層ビルのない王国ではエレベーターは必要ないと見做されている。エレベーターのことは、乗る際に三宅が説明して、坂口が昇る階の説明をした。
「これは人が乗って上下する箱です。ちょっとショックがあるので気を付けて下さい」
「では最上階の15階に昇ります。そこの会議室で、説明会を開きます。景色が良いですよ」
エレべ―タの動きは滑かであったが、初めてのパーリャは最初少しグラついて田宮が支えた。そして、彼女は探査の能力によって、自分達が凄い速さで登っているのを知覚して地球の科学に改めて驚いた。目的の階に着き、部屋のドアを開けると目の前の大きな窓から東京の景色が一杯に広がって見える。
「わあ!すごい」
パーリャが窓に駆け寄り、75mの高さから見下ろす東京の景色を感嘆する。ミーダイ師とミリナも少し遅れて、速足で窓に近寄る。
「会議は30分後に始まりますので、御ゆっくりして下さい。私は飲み物を用意してきます。坂田先生、少し席を外しますのでその間宜しくお願いします」
坂口はそう言って、坂田准教授が了解するのを確認して部屋を出て行った。
「はい、承知しました」
窓辺では、田宮がパーリャに、坂田がミーダイ師に、田上瑞希がミリナに窓の外の東京タワーや目立つビル、公園などを逐次説明している。ちなみに、坂田はまだ独身であり、年齢はミーダイ師と同じ38歳である。無論実際の期間としての年齢はミーダイ師が1.26倍上である。
弟子2人から見ると、ミーダイ師と坂田はいい雰囲気のように見える。既に王宮の魔術師の中で確固たる地位を築いているミーダイ師は、魔法とその研究に夢中で殆ど男性と付き合いはなかった。逆にそのことで有名であったが、貴族の同僚の魔術師に平民と侮られて強引に迫られ、随分嫌な思いをしたらしい。
パーリャはその意味では思っている。日本には平民・貴族も無いらしいが、田宮や坂田はその教育を受けたレベルと知性から言って貴族以上の存在である。しかし、そのことで傲慢になることはなく、彼女らのことを常に気にかけてくれて優しい。だから、ミーダイ師は坂田先生に魅かれているのでないだろうか。
彼女らが東京の景色を堪能するうちに、コーヒーが運ばれてきた。また、坂口が再度やってきて、さらにぼつぼつ出席者が集まり始めた。最初にやって来たのは、資源エネルギー局長宗田とその部下5人であるが、前に会った室井参事官も加わっている。
そこで挨拶などをしている内に、さらに、大臣の亀井鎮郎が秘書を2人連れてきた。結局、経産省の出席者が18人、企業の出席者10人が出席しての会議になった。企業は、日本の鉱山を運営している大手3社の幹部である
今回の日本での探鉱の計画は、基本的なベースを坂田准教授が作り、それを元に経産省と企業が協議・調整して決めたものである。なにしろ、魔法による資源探査など経験したのは坂田のチームのみであるから、そうならざるを得ない。坂田には、経産省と企業から潤沢な研究費が支出されている。
参加する院生は、この調査そのものが、博士論文と修士論文のテーマになる。だから、調査に専従しても全く問題はないのだ。だから、計画の説明者は必然的に坂田となる訳で、彼は用意したプロジェクターで説明する。
まず、坂田は魔法による探査の具体的は手法を説明して、その後ビデオによって、現地でのその適用の実際を見せた。出席者には探鉱を専門とする者数人いたが、一様に目を見開いて驚愕していた。
その手法は、何度も繰りかえす内に洗練されたもので、以下のような手順である。
1)パーリャ又はミリナが探査した結果を念話で受け取りながら、院生が3次元CADのよってパソコンの画面に鉱脈の範囲を示す。但し、深さの限度は120m程度である。
2)その範囲の100~1000㎥程度の範囲毎に金属の濃度(g/トン)を検知する。
3)その探鉱された地点ごとに半径120mの範囲の狙った金属の抽出を行う。
サッと手が上がって50歳代の始めに見える官僚から質問される。
「産業技術総合研究所の探鉱室の成田です。ええと、その魔法による探査は大体120mが限度であるということは、その下に鉱脈が広がっている場合には、穴を掘って中で探査をするということですか?」
「仰る通りです、何しろ探査される方が土魔術師ですので、穴を掘るのはお手のものです。だから、20mずつ掘り下げて、探査をしていきました。土魔法はボーリングと違って、掘った壁を固められます。ですから壁が崩れることはないので安全です。
とは言え、径1.2mの深い穴に入るのは気持ちのいいものではありません。ですので、掘っての調査は100mで留めております」
坂田の答えに、質問者が頷いた。次に、局長からの質問があった。
「2点質問があります。まず1点目は探査と抽出を魔道具化できないかという点です。また2点目は、先ほどの抽出は素晴らしいものですが、金のような貴重金属は良いとして、含有率が数%以上の比較的濃度が高い場合にコスト的に成り立つかという点です」
「はい、探査と抽出は因子が多すぎて魔方陣が書けないようです。従って現状では魔道具化ができません。それから、2点目ですが、抽出を一旦始めると途中で休んでという訳にはいかないようです。そして、人工魔石でブーストをしても、抽出量200㎏程度が限度ということです。
金の場合はそれでも20億円以上になりますから、十分ペイします。銀でも2600万円ですから、まあO.Kでしょう。つまり、人並み外れて優れた魔術師でさえ1回の抽出量は200㎏程度ということで考えて頂けるといいと思います。つまり、鉄とか銅などは従来通り採鉱して精錬することになります」
坂田の答えに局長は頷いた。
「なるほど、よく解りました」
その後、具体的にどのように探査を行うかについて説明があり合意が得られた。この基本的な方針は、既存の鉱山の周辺から探り、金鉱山については、鉱床が見つかったら抽出も行うこととした。最後に魔法を使った探鉱・抽出に感動した大臣から、締めくくりの挨拶が終わって説明会は終了した。
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