1-6 レイナ嬢、俺の家族との団欒
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朝、俺が起きて、庭でラジオ体操、それから腕立て腹筋をしようとすると、レイナが起きてきた。彼女も俺と同じようにジャージを着ている。白のジャージがすらりとした体に良く似合い、その姿には紫の髪も違和感がない。
「おはよーございます!」
彼女が元気よく挨拶するので、俺も思わずにっこりして返す。
「おはよう。早いね」
『ええ、私は国では毎朝早く起きて走っているのです。ええと、こっちで言えば10㎞位かな。魔法士も体力が要りますから、体力をつけるための運動は義務です』
「ほう、ほう。それはいいな。僕は5㎞位を歩きだな。それでなにか準備の運動はあるのか?」
『いえ特に決まったものはありません。こちらのものがあれば教えて貰いたいです』
「ああ、ラジオ体操というのがある、本当はラジオでのガイドに従ってやるけど、皆学校で教わるから覚えている。じゃあ、いいかい。横で見ながらやった方がいい」
そう言って、俺はラジオ体操を教えた。彼女は本格的に運動をやっている者の特徴で、柔らかく滑らかに動く。なかなか絵になっている。
「こうだけど、これは体の重要なあらゆる部位を動かしほぐす優れた体操なんだ。だけど少し短すぎるので、さっきのように僕は各動作を2回やる」
『なるほど。私の国はこのような体操はありません。なかなかバランスの取れた体操ですね』
その後、俺たちは正門脇の勝手口から外に出る。彼女は、昨日勝手口のロックを指紋で開けられるように登録してあるので、一人で帰っても戸を開けられる。
俺はいつもの田園風景の中の道を歩き出しながら、彼女がすいすいと走り去るのを眺める。はずむような足取りで、たちまち去っていく速さは、陸上選手並みである。だからこそあの締まった体があるのだと思う。だが、こっちはマイペースだと、4月のまだ冷たい空気の中をいつもの早足で歩く。
朝食を取ってくつろいだ9時ごろ、長男の亮一と妻の留美に子供の稔と亜美の4人がやって来た。彼らは5㎞ほど離れた住宅街に住んでいる。彼らの家は電車の駅から近くて、近所には大きなスーパーがあって便利だ。その点でわが家は車以外だと少し不便だけど、通いのお手伝いさんは自転車で来れる近所の農地を持つ主婦であるから問題はない。
孫の2人が「おばあちゃーん」と叫び居間に飛び込んでくる。上の亜美が小5、下の稔が小3でどちらも元気いっぱいである。最初は必ずお婆ちゃんで、お爺ちゃんではない。その後に、嫁の留美が気を使って小走りにやってくる。子供達は峰子に飛びついた後に、座っているレイナを横目で見て稔が言う。
「魔法のお姉ちゃん?」
「ええ、レイナよ」
笑って応えると、2人はレイナの所に行ってお辞儀をして挨拶する。
「私は間島亜美、小学校5年生です」
「僕は間島稔、小学校3年生です」
「はい、レイナ・サリー・カルチェルです。このいえでおせわになります」
「私魔法が見たい。レイナさん見せてくれませんか?」
留美の願いに「いいわよ」レイナはそう言って、『でも外でね』と念話で伝える。
「わあ!頭の中に伝わるんだ」
稔が頭を押さえてはしゃぐ。
やがて、息子一家はレイナと一緒に庭に出ていく。
峰子も行って、俺は一人居間で政治討論の番組を見ていたが、一人早めに帰って来た亮一が俺の向かいに座って、相談があると言い出す。
「レイナをわが社の宣伝に使いたいんだ。広報部から話がでている」
「うーん。俺も考えたんだよな。だけど、うちがやるとよそにも断れん。多分レイナは、近いうちにどんなタレントより知名度、アピール度は上になる。そう思うだろうお前も?」
「ああ、そう思う、なにしろ、あの存在感に美人だ。それに何より魔法が使える。確かに取引先に言われたら断れんな」
「俺は基本的には彼女を、会社などの宣伝には出させないと思っている。だからわが社もそうするが、イメージ戦略には使える。つまり彼女は多分俺の家に嫌がらずに住むと思う。その場合には、例えば俺が会社に行く時に一緒に行き、それがマスコミに出るのはありだろう?」
「うーん。あの有名なレイナが出入りしている会社だからと、いうことだね」
「ああ、そんなところだ。ただな、香川教授とも話をしたんだけど、レイナの魔法を掘り下げていくと、大変なことになる可能性が高いと言っている」
「大変なこと?」
「ああ、彼女の魔法そのものは、機械類を使えば代替できるものが多い。だから、多くの魔法は出来たからって、それほど今の社会にインパクトはない。すでに、そういうことを言っている奴がいるよな?」
「うん、そうだね、確かに。でも、あれだろう、次元収納とか、遠隔でものを動かすとか、機械で出来ないこともあるよね」
「そういうこともあるが、香川が言うには魔法で生じている現象は、現状の科学から見ておかしいというか、説明がつかないらしい」
「そりゃあ、魔法なんて科学で説明がつかないだろうよ」
「俺が言うのは、つまり別の魔法科学みたいなものがあって、それの物性は我々のものとは異なっている。そして、それを使えるようになるのではないかということだ」
「ううーん。なるほど、彼女の魔法を徹底的に調べたら、違う世界が開くということか」
「そう。俺たちが知っている世界では、原子なんかを扱うのは極めて困難だけど、その魔法科学の世界では言ってみれば裏口から簡単に操作可能になるのではないか、と言っている。また、我々の常識では次元の壁を超えるなど不可能だけど、それもあるやり方で出来るのではないかとかな」
「ほお、つまり、俺たちの常識が変わってしまう訳だ。それは、結構大事になりますね」
「ああ、商売の種になり得る。わが社も結構何でも屋だから、チャンスはある。1人か2人にN大に送り込め。無駄にはならんと俺の感が言っている」
「なるほど、父さんの感は侮れんからね。卒業生を手配するよ」
娘の長瀬みどりは、昼過ぎに旦那の長瀬遼太郎と一緒に、小学校4年の長男の翔を連れて来た。娘は、月間文芸の記者をしており、旦那は公認会計士である。彼らは、遼太郎の両親と一緒に埼玉の家に住んでいる。だから、みどりは子供を持って働いていられるということだ。
午前10半ごろに来た娘一家を、息子一家に我々夫婦とレイナが玄関に出迎える。娘一家の里帰りは、年に1度程度であるので、今回はそれ以外になる。なので、レイナの出現がそれを引き起こした訳だ。さらに今回はみどりにとっては、レイナへの取材旅行でもある。
「只今、正月ぶりだね。皆さん元気?」
玄関に入って来たみどりが言い、遼太郎と翔が「「こんにちは」」と挨拶する。
迎える方も口々に「「「「いらっしゃい」」」」と迎えの言葉を発する。
取りあえず居間に入って貰って、席に落ち着いたところでレイナが挨拶する。取りあえず落ち着いてお茶を飲んだところで俺が話し始める。
「皆、いらっしゃい。遼太郎君も忙しいところを良く来てくれたね」
「ありがとうございます。仕事は相変わらずですが、なにしろレイナさんのことです。個人のニュースがNHKにあれだけ放映されるのはありませんでた。その時の人が、お義父さんの家にいる訳ですので、是非会って会社で証言しないと首になります。ハハハ!」
遼太郎はそう言って笑うと、みどりもニコニコして言う。
「私は、編集長から直々にインタビューをして記事を書けと命じられました。で、カメラマンなどを連れてくるように言われたのですが、里帰りを兼ねるということで、一人で来たのよ。出張旅費はちゃんとでます。そういうことで、レイナさんお願いしますね。出来次第でボーナスが懸っているの」
そう言って、頭を下げるみどりにレイナもにっこりして応じる。その後。いとこどうしで小学校3,4,5年で似通った年の子供たちは集まって遊ぶ。また、俺たち夫婦と長男夫婦、遼太郎の5人は近況を話し合い、みどりはレイナにインタビューである。
昼食は料亭からの仕出しである。女手はあるので、料亭などに出かけるより、その方が楽ということで、そうなった。家のテーブルを置いた広間は十分その程度の広さはある。
仕出しが届いて、御馳走にはしゃぐ子供たちを始め、久しぶりに会った俺の家族の元気な姿に、隣の峰子も上機嫌である俺も思わず頬が緩む。
レイナは、むしろ子供達より御馳走に夢中になっていて、「「「「いただきます」」」」の声で夢中になって、食べものを取り皿に取り分けて食べている。彼女の話によると、イスカルイ王国は食べ物の種類味に関しては日本に比べれば大幅に遅れているという。折に触れ彼女はこのように強調している。
「だから、私はこちらで食べるのは大変楽しみですし、何とかこの美食を故郷の人々にも味わって欲しいと思っています」
確かに食事は命を繋ぐものでもあり、また人の3大欲求の一つでもある。美味しいものを食べるのは、最大の喜びであり、そのために日本人は昔から大いに努力してきたと思う。俺は夢中になって、でも上品に食べているレイナを見ると何時も楽しくなる。
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