4-10 地球・カガルーズ両世界の交流1 ―ミズルー大陸の状況
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地球とミズルー大陸諸国との交流は加速しつつある。これは、全体として見れば、地球においての先進国と途上国の関係に近いものである。すなわち、ミズルー大陸諸国から地球側に、主として鉱物資源を供給して、代わりに地球から工業製品を輸入するという関係である。
ただ、地球における先進国と途上国の関係と異なるのは、鉱物資源の発見はミズルー大陸の魔法士が行い、特に希少金属や金銀などの価値の高い金属は魔法で抽出してインゴットで送り出す点である。通常、地球において資源国で精錬までを行うケースはまれであり、鉱石の形で輸出する。
つまり、ミズルー大陸諸国は付加価値の高い形の輸出をしていることになる。加えて、普通は途上国の資源の発見、鉱山の開発は先進国の主導で行われる。このため資源国の手取りは低くならざるを得ない結果になる。しかし、レイナの介在によってミズルー大陸諸国は、全く自国の手で実施している。
これは、先進国が金属のインゴットを他国に売るのとまったく同じであり、資源を最大限に活用していることになる。この成果は、ほぼ全て魔法士の働きによるものであるが、それもレイナが持ち帰った地球における知識あればこそである。
ミズルー大陸諸国は、これらの金属資源を売ることで、大量の地球産の製品を買っている。これらの大部分は、自らが持たない科学知識に基づいた生産設備を備えた工場で作られる大量生産品である。これは、日用品としての衣服、住宅に使うガラス、各種金属加工品、風呂、食器、各種家電などがある。
さらに、個人、商人向けに乗用車、トラック、バイク、船外機なども大量に輸入されている。加えて、インフラ整備に必要な機材・機器として機関車、列車の車両、街灯などの大型機材がある。
イスカルイ王国を始め、ミズルー大陸諸国はこうした地球からの輸入によって、生活を便利に近代化している。だが、これ等の国ではこの輸入を可能とする経済成長が起きている。この大部分が、人工魔石による魔力のブーストによって力を増した魔法士による生産力増加によるものである。
農業については、いずれの国も灌漑設備の改良又は新設、圃場整備、魔道具によって作られた肥料の導入を行っている。この点はイスカルイ王国では、肥料工場の建設を含めてすでに整備を完了している。加えて、生産性が高く味の良い地球産の種苗を使い始めている。この点は、すでに3年ほどは新しい農法による収穫を得てその成果を確認している。
これらの農法の特徴は、地球の農法を大いに取り入れたものである。一方で、地球のように農機具を使う必要がなく、農民の魔力で土を耕し、肥料を混ぜ、播種する。農民は殆どが土魔法の他、植物魔法の才能を持っているが、魔力が弱く結局は力仕事で耕作を行っていた。
しかし、人工魔石を使って、耕作を含め刈り取り及び脱穀までは地球の農機具を使った農民以上の効率を出せる。また、籾摺りについては、従来から風魔法士が籠を使って籾摺り機レベルの作業を行っていた。従って、農業については、農機具の地球からの輸入はないが、農民の人件費を地球並みと考えてもむしろ地球よりコストが低い。
農業の改革の結果、イスカルイ王国では従来からの主食である小麦について、同じ面積で3倍以上の収穫を得るようになった。このため、国内での5割ほどの需要増があっても半分弱が余剰になった。余剰分の半分は近年不作であった帝国に輸出して、残りは日本に輸出している。
日本への輸出価格は、地球産の2/3程度なのであるが、イスカルイ王国では十分な価格なのでウィンウィンの関係である。また、小麦以外の作物が果物を含めて広く作られるようになり、さらに家畜の飼育も広がり、イスカルイ王国のみならず、周辺諸国の人々の栄養状態は大きく改善された。
さらに、道路、鉄道、上下水道、電力、通信に係わるインフラについても、イスカルイ王国では大きく進展して、中位都市まではほぼ完備しつつある。一方で、大幅に伸びた農民の収入とそれに伴う消費拡大、それに都市内外のインフラ整備によって、平民の収入も大きく伸びている。
このため、農村やその近隣の街の住宅については、いわゆるバラックであった家を、土魔法を使って改築・新築するものが大幅に増えている。この場合には、灌漑設備の改良の一環で分岐するか、または井戸を掘るかで家庭内に水道が引かれ水栓を設置するようになる。
さらに、標準化されたスライム浄化槽によるトイレの水洗化も進んでいる。加えて、これらの改築、新築された家にはクローゼットやテーブルなどの家具が備えられ、さらに室内灯、電気コンロ、冷蔵庫程度は普通になりつつある。
農村集落、地方都市においては、Mジェネレーターの小型版が設置され、最小で10軒以下、最大1000軒程度の発電、配電設備がどんどんできている。だから、地方にも先述したような輸入された電気器具が普及しているのだ。
首都や主要都市には、インフラとして上下水道が敷かれ、町全体をカバーする発電・配電設備がすでに設置されている。なお、通信については、こうした大きな都市に基地局が設置されて、基本的に無線によるネットワークが王国全体に広がっている。
大きな都市内の家は建物は従来からそれなりであるが、水回りの設備の設置と電線の配線に伴って家を改修する場合が多い。その結果屋内の水栓と水洗便所は普通になりつつあり、風呂も各戸に設置されつつある。ただ、火魔法士がそれなりに居るので、風呂を沸かすヒーターの普及はそれほど進まない。
また、交通手段として、バイクと自家用車は道路の改良に合わせて急激に普及しつつある。イスカルイ王国ではすでにバイクが100万台、自家用自動車が10万台のオーダーに乗っている。これらは、人工魔石と回転の魔道具によっているので、地球より効率的である。
また、鉄道網がどんどん広がり、さらにバス路線がどんどん伸びていて、その沿線においては、普通の交通手段になっている。このように物質的な豊かさが急激に進展する中で、イスカルイ王国では日本に倣った教育制度が行き渡り始めた。
日本の教育状況については、レイナが帰国した時の紹介のビデオには含まれていて、見た者はそれなりに感銘を受けた項目である。実のところ、イスカルイ王国並びに周辺諸国では、日本の江戸時代より進んだ教育が行われていた。
これは、一つには全ての民が多少なりとも魔法を使える国において、便利なそれを身に付けるには基本的には学ぶという姿勢が必要であるということがある。施政者も魔法をより効率よく使うことが、生産力を上げて税収を上げる手段と考えており、半ば義務として初等教育を行っていた。
またそれは、魔法を使える人々の生産性が、幼い子供の労働力を当てにしなくても良い程度であったということでもある。つまり、読み書きと算数レベルの教育はほぼ全国民に行われていた。そうすると、その中の優れたものについては、本人も周りもさらにレベルの高い教育を求めるということになる。
そういうことで、日本で言う中学レベルの教育は各領で行われており、伯爵領以上ではより高度なレベルの教育が行われていた。レイナの家であるカルチェル伯爵領しかりである。その上澄みが、王都の魔法士学校を含む王立学園である。
そういう下地があったので、国が教育を法制化して内容を統一して義務教育を6年としてスタートしたのは、レイナ帰国後2年のことであった。さらに義務教育ではなかったが、中等教育3年、高等教育3年とした制度と教育内容も定められた。
ちなみに、印刷技術については、植物紙・インクはすでにあり錬金術師もいるので、活版印刷はすでに普通に使われていた。だから、従来の教育にはすでにこうした印刷物が使われていたので、教科書を印刷することはできる。
問題は、その中身と教える人の理解と指導力であるが、ここに時間を要したのだ。教えることのできるレベルの人は、イスカルイ王国などで元の教育レベルが高かったのでそれなりの数はいた。ただ、新たに加わった内容を理解するには時間を要したのだ。
レイナは、母国の教育に地球の科学を加えたかった。だから、日本にいる時から、初等教育としての理科や算数の教本を作っている。また、さらにレベルを上げた化学、物理、数学、生物などの教本を、初等の教本共に日本の例に倣いながら大陸語でパソコンに打ち込んでいた。そして、帰国に際して、これらを大陸語に印刷して、各千部を用意して持ち帰った。
ちなみに、日本語及び英語と大陸語はすでに翻訳ソフトが作られており、当然大陸語の活字もできている。これは最初大陸語の魔方陣をプログラミング語に翻訳するのに開発されたものだ。それをベースに、レイナが私費を投じてこうしたソフトとして完成したのである。
勿論これはまだ初期のものであるが、N大学の語学の研究者の手も入って実用に問題ないレベルであった。だから、日本語か英語のできる人がイスカルイ王国に行っても、スマホの翻訳ソフトで一応の意思疎通はできるし逆も可能である。
すでに、日本と米英の次元ゲートから物品のみでなく人の行き来は盛んに行われているが、この翻訳ソフトは必須のアイテムになっている。
レイナの作った『教科書』は、貴族である領主、王国政府の学校や官僚に配られ、センセーションを起こした。最初は内容を信じない者も多かったが、実際に試してみた人は信じざるを得なくなり、その話が伝わって政府レベルで正しいと認められた。この『教科書』はミズルー大陸中に広まり、海賊版も含めて印刷された数は100万部を超えたと言われる。
だから、その『教科書』の内容は初等教育、中等教育や高等教育用に作られた教科書の柱になったが、教える人が理解しないと使えない訳だ。だから、内容が平易な初等教育は順調に滑り出したが、中等教育や高等教育については、教員の育成に時間を要したことになる。
このように少なくともイスカルイ王国は、中世から1900年代半ばに僅か数年でジャンプしたようなものである。そして、王国は人の出入りを制限していなかった。さらに、周辺諸国への直通道路が完成し、高速バスが運行され始めたこともあって、訪れた多くの者がその繁栄の実態を見とどけた。
そして、彼等もイスカルイ王国から伝えられた手法で、資源探査を行い概ね必要な原資を得ている。発展のキーになるのは人工魔石であるが、これはイスカルイ王国が国内価格で輸出している。そして、王国は自国の実施したこととその工事状況、及びその結果を惜しみなく見せている。
無論イスカルイ王国内では、ノウハウは独占すべきとか、気前が良すぎて危険であるとの意見も出た。だが、過去隣国から飢饉の際に侵攻された経験もあり、レイナと王太子の説得で国王が決断した結果である。このため、近隣諸国も数年遅れで、イスカルイ王国の後を追っている。
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