4-9 その頃地球では6
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イスラム国(IS)の掃討作戦では、12ヵ所同時に空間ゲートで侵攻して、ぞれぞれの作戦を繰り広げた。IS本部のある、シリアのレジイでは戦車5両と迫撃砲及び各種無反動砲、携帯ミサイル類も揃え、200人が侵入した。戦車は日本の10式戦車が使われた。
これは、魔道具先進国らしく駆動部をMバッテリーと回転の魔道具に替えていることが決定理由である。さらに、敏捷性において最も優れており、C41システムによって相互の戦車が有機的に補完し合える点も評価されている。
なお、使われた10式戦車は、駆動がMカー方式であるため、騒音は極めて押さえられている。部隊の戦車兵は自衛隊出身者が担当し、他は米英の混合部隊であった。将来的には8ヵ国の混合部隊になるが、全員が各国の精鋭としても、まだ連携の訓練が不十分であることが考慮されたのだ。
レジイの基地は300m四方の要塞化されたコンクリートの塊であり、500人を超える人員に要塞砲や機関砲、ミサイルで防衛されていた。まず要塞の正面ゲートから500mの距離で、空間ゲートから躍り出た5両の10式戦車が、120㎜滑空弾を10秒に1発の間隔でつるべ撃ちする。的は、要塞の正面ゲートの鉄扉及び、3階建てのコンクリート壁全体であり、それらを満遍なく撃ちぬいていく。
撃たれた徹甲弾は、2重の16㎜鋼板のゲートや25㎝厚のコンクリート壁を軽々と貫通して、内部で爆発する。さらに、戦車の後ろからトラック群が続き、迫撃砲で曲射によって上部から要塞を叩き、別のトラックが、側面と後方に回り壁やゲートに無反動砲やミサイルを叩き込む。
トラックに乗っている者には、真っ暗な闇の中に連続して起こる火箭と光の爆発は、色とりどりとはいかないが中々美しいものに思えた。しかし、攻撃を受けている方はそれどころではない。朝の4時に突然始まった爆発の連続に、要塞の中にいた相当な割合の者達はなにもする間もなく殺された。
とは言え、要塞には多くの監視カメラがあり、監視室において少数の夜勤者が監視していた。しかし、長年何事もなく過ごしてきた彼らは、完全に気が緩んでおり半ば眠っていた。だから、ゲートから現れた10式戦車は見逃したが、流石に砲撃を始めると気が付き緊急警報を発した。
その警報と、戦車からの最初の5発の着弾はほぼ同時であった。それで叩き起こされた者達は、警報に続く監視室からの繰り返されるアナウンスの声に狼狽えるばかりである。
「戦車、戦車が撃っている。起きろ、反撃せよ」
そして、アナウンスは始めて間もなく止んだ。戦車砲弾により部屋が崩壊したのだ。
だが、少数の者は事態を把握して迎撃しようとする。ISの最高司令官であるアムラ・ラビ・ムイーラもその一人であった。警報と爆発音に叩き起こされたが、横に寝ていた女が悲鳴を上げて抱き着くのを突き飛ばして、最低限の服を着て地下の指令室に駆け込む。
指令室は、爆撃を受けても耐えられる丈夫な構造であり、外に繋がる地下通路もある。10m四方の指令室には、すでに2人の男が集まっており、さらに続々と入ってくるが、いずれも寝起きのままでまともな服装ではない。
その間にも、爆発による振動が続き、その爆発音が重なって遅れて聞こえてくる。爆発の振動によって、部屋の天井から、ばらばらと砂っぽいなにかが降ってくる。また部屋の灯りも瞬いている。振動と音に顔を顰めながら、ムイーラはすでに部屋にいた第3軍司令官のカジムに聞く。
「カジム、どういう状況だ?」
「ああ、多分世界平和軍という奴らだ。空間ゲートという奴だろう。突然現れた戦車が最初に来て撃ちまくり、続いてトラックに乗った連中が全包囲でこの『基地』にミサイル、榴弾、無反動砲弾を打ち込んでいる。多分上の階は持たんだろう。間もなく崩壊するな」
カジムが答えるが、その間にもどんどん入ってくる人数が増えている。中には、悲鳴を上げている者や、負傷している連中も増えている。負傷者にはキュアラーが使われているが、重症の場合にはすぐにはちゃんと動けない。キュアラーは、負傷した部分を急速に回復させて救命は出来るが、すぐに機能を取り戻す訳ではない。通常はそれで支障が無いはずなのだ。
「ふむ、と言うことは、お前の部隊とも連絡が取れない訳だな?」
ムイーラは、自分のスマホで、部下との交信ができないのを確認しながら言うが、果たしてカジムは連絡が取れないと応える。
「ああ、連絡は取れん。そもそもこの部屋の通信は死んでいるようだ。多分アンテナまでの架線がやられているな」
「ふむ、そうであれば、外に出るしかないな。換気が止まっているし、この部屋だけでなく、廊下にも人がいるから空気がもたない。さて、地下の脱出路がばれていないか、どう思う、エイキン?」
ムイーラは次に諜報部門のトップであるエイキンに聞く。
「うむ、ばれている可能性は高い。さほど地下道については兵に秘密にしていた訳ではない。そもそも、こういう奇襲は考えておらず、それほど地下道は重視していなかったからな。とは言え、上のビルはすでに廃墟だろう。ばれていようがいまいが、行くしかない」
エイキンが、持ち前の無表情の冷たい目で答えるのに、ムイーラはふっと笑って応じる。
「その通りだ。どの道俺らには降伏という選択肢はない」
ISの幹部連中と、指令室に逃げ込んできた兵達合計55人は、ムイーラの命令で銃を構えながら縦横2.5mの地下道を慎重に進んだ。無論、下っ端が先頭である。非常灯のスイッチを入れるが弱々しい。
実の所、その時点ではすでに抜け道の出口は、平和軍の10人程の部隊に確保されていた。その部隊の指揮官であるベン・ロジャーズ中尉は、扉の南京錠を切断して中を覗きこみ、人影が無いことを確認して、装備担当の部下に命じた。
「よし、ニル伍長、スイッチ付き催眠弾を10発出せ」
ニル伍長はMストレージから要求ものを床に出す。
「中尉殿出しました」
「よしカインズ軍曹、部下4人とこれを各々2発持って100m先に置いてこい!」
「は、承知しました。おい、お前ら4人、それを2つ持って俺に続け」
ヘッドライトをつけている軍曹は、片手に2つの催眠弾の取手を持って、部下が同じく持ったのを確認すると、「GO!」静かに叫んで真っ暗の中を走り始める。そして、100mと判断した点で足を踏ん張って止まり、床に催眠弾を置く。そして、部下が同じ動作をするのを確認し、部下に声をかける。
「野郎ども帰るぞ!」
4人は軍曹に続き、互に邪魔にならない間隔で走る。ゴールの中尉の傍に着くと、半ば開いている扉をくぐり外に出る。その5人にロジャーズ中尉が声をかける。
「よくやった。外で休め!」
後は待機である。やがて、5分ほど待って外がうっすらと明るくなってきた頃、扉を少し開けて通路を監視していた中尉の耳に、がやがやという声がかすかに聞こえた。さらに、通路に明かりがうっすらと灯る。非常灯が灯されたのだ。そして、通路の100m程先に人影を見たロジャーズ中尉が横にいてスイッチボックスを持っている兵に命じた。
「よし、催眠弾全てのスイッチオン」
「了解、催眠弾全てのスイッチオン」
復唱した兵が手元のトグルスイッチを次々に倒す。
遠目にも、煙がもうもうと吹き出すのが判る。それに気が付いて叫ぶもの、何か命じる者などの声が俄かに大きくなる。そして、2回銃の発射音が聞こえたが、1分もしない内にそれらの声と音は止んだ。
このようにイスラム国(IS)は、大部分の上層幹部は総司令官を含めて殺されるか捕獲された。総司令官のムイーラと、残忍で最も人を殺したとされる諜報部トップのカインズは、催眠ガスにより意識を失う前に自分の頭を撃ちぬいて自害した。
無論あちこちの小規模な支部は残り、残党は数百人オーダーで残ってはいたが、幹部がほぼ壊滅することで資金源を断たれ、その後まともな活動はできなくなった。ちなみに、ISに対する作戦で平和軍にも9名の重軽症者が出たが、キュアラーによって皆回復した。
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イスラム国(IS)は、やっていることは只のテロリストであるが、宗教には深く帰依していた。その点では、FARC(コロンビア革命軍)については、幹部から下っ端までクズの集まりである。その認識は、コロンビア政府も同じであり、世界平和軍から大統領にせん滅の話を持って行くと大喜びであった。
しかし、政府として動くと必ず情報が漏れる。それで、当面は大統領と首相のみが知っていて、信頼できる部下のみに、そういうことがある可能性があることを知らせることにした。そして、作戦が始まった時に邪魔をしないことを命じることを要求した。
当然、時期など詳しいことは話していない。また後で平和軍を非難はしないことも約束させた。平和軍のFARCに対してのターゲットは、本拠である10㎞四方の要塞地帯、首都ボゴタの3ヵ所の事務所と倉庫、ジャングルの麻薬工場、3ヵ所の麻薬のプランテーションである。
ボゴタの事務所はゲートから現れたチームによる麻酔弾によって、全て中にいた者が捕まった。
麻薬工場は、戦闘ヘリのアパッチによるMストレージを使ったミサイルの攻撃で跡形も無くなった。ただ、工場の中には周辺から働きに来ている者もいるので、攻撃の30分前に「直ぐ逃げろ、この工場は破壊される」とヘリからアナウンスした。
同時に工場守備部隊の機関銃陣地、ミサイル陣地を潰し、アナウンス中に出てきた携帯ミサイルを持った者を片づけている。アナウンスに応じて工場から100人以上が一斉に逃げ出した。だが、それを撃とうとした者がいたので、ヘリから機関銃掃射で片付けた。
予定の時間になって、5機の戦闘ヘリは工場から1㎞離れた位置から工場に向けてミサイルを連続して撃つ。工場のギャング共は5機のヘリでは、30m×100m×2棟の工場を余り破壊出来ないと考えていた。だが、あいにくヘリはMストレージを持っていた。
この2棟の工場は、各々800発のミサイルを食らい跡形もなくなった。また、プランテーションは大量のナパーム弾を撃ち込まれ焼きはらわれた。その際の周りのジャングルへの延焼が起きたので、ヘリに積んだMストレージの水が散水されて消化された。
要塞地帯は、人工衛星からの偵察と聞き取りによって、本部棟、事務所、兵員棟、武器庫、ミサイル陣地、機関砲陣地などを綿密に把握された。それらに対しては、基本的には自衛隊の10式戦車が10両、戦闘ヘリ10機によって徹底的に叩いて回ることになった。そこで、反撃が無くなったところで、兵員輸送車に乗せた歩兵を送り込む作戦である。
戦車はゲートを通って直接、要塞内に入り込み、ヘリはゲートを通したMストレージから出す。戦車とヘリにはMストレージが積まれているので、砲弾とミサイルや機関砲弾は大量に持っている。この場合、攻撃されている方は、何時まで経っても終わらない砲弾、ミサイル、銃弾の嵐に心を折られる。
そのため、歩兵が乗り込んだ時には、要塞内に生きているギャングは、全てが反撃することなく降伏した。結果として、FARCは主要な基地が襲撃されて、大ボスは戦車の砲弾で死に、半分以上の戦闘員が戦死した。さらに、構成員で捕まらず生き残った者も、FARCが落ち目とみたコロンビア政府により徹底的に追われ捕まった。
さらに、G7+1が背景の世界平和軍の協力で、徹底的に追及して資金源を断ったので、今後回復の余地は無くなった。別の組織が後を継ぐ動きを見せたが、平和軍の諜報部の情報でコロンビア政府が急襲してその芽を断った。彼等も、FARCにはこりごりしているのだ。
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