4-6 その頃地球では3
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書き溜めがなくなったために、投稿できない日が生じることになると思います。
レイナの母国への帰国以来4年半後の時点で、自衛隊は体制の見直し中である。この時点では、すでに世界の核無効化は達成されている。米英から強制的に核無効化されたR国とC国は、わずかに残った潜水艦と海上艦艇に積んでいた核兵器も申告して無効化を受け入れ、その後のIAEAの査察も受け入れた。
これは当然指導者が変ったためであるが、R国は部下に殺され、C国は自分のやり方の限界を知った指導者が自ら身を引いた。また、R国は未だに世界からはぶられた状態が続き、経済は真っ暗闇であり、C国は昔に戻ったように、周囲に関して低姿勢になることで、経済は回復途上にある。
これは、R国は現在石油・天然ガスを中心とした資源国であり、その輸出制限は解けたものの、Mジェネレーター、Mバッテリーのお陰で、石油・天然ガスの消費量が絶賛減少中であるためだ。一方で、C国はすでに工業・農業に関してすでに人材・生産設備・インフラを高度に整えて価格競争力もある。
だから、周りから嫌われる真似をしなければ、普通に輸出は盛んになる。一方で、KT国の新たな指導者は国を開いて、先進国の援助を要請して他国企業を受け入れた。この状態では、国際的に孤立できない彼等は同様にIAEAの査察を受け入れた。
さらに、G7の一員であるフランスとイギリス、そしてアメリカは自主的に核兵器の無効化を進めた。また、インドとパキスタンは相互監視の上で無効化し、イスラエルはIAEAによるイラクの無効化の査察を条件に自らの無効化に応じた。
この際に、核弾頭を魔道具で同位体に変化させて、核分裂を起こさないようにしても、高放射性廃棄物になる。この点は、N大学がこれらの国から要請されて、新たな原子変換を起こす魔道具を開発することでこれを解決した。
これは魔道具で低放射性廃棄物中の物質の原子変換をさらに起こすことで、廃棄物の放射能を弱めることができるものだ。この魔道具は、核弾頭の無効化後の核物質のみならず、核廃棄物の放射能の低減に使われるようになった。
この魔道具は、Mジェネレーターの普及によって、無価値になった原子力発電所の廃炉に大いに活用された。また、R国、C国やKT国などの核兵器保有国も、この魔道具を要求して受け入れられている。
自衛隊の改編は、現在G7+1(+1はオーストラリア)によって設立されようとしている、『世界平和軍』設立の準備行動の一環である。これは、核無き世界においては、押さえつけるものが居なくなってむしろ地域紛争などが多発・激化する恐れがあると懸念されたことによる。
そのための対策として、G7+1による『世界平和軍』が構想され具体化されることになったのだ。これは空間ゲートの利用を前提とし、戦力をG7+1各国のみから抽出して地域紛争あるいは国家間紛争を、武力によって強制的に介入して停止しようとするものである。
この構想は、紛争の調停・停止に殆ど何の貢献も出来なかった国連の反省を生かしたものであり、国連の枠組みは残したものとなる。国連において、過去地域紛争に介入が難しかった大きな原因は、一つには国境を超えて十分な戦力を係争地への輸送が容易でなかったことがある。
その意味で、空間ゲートとMストレージがあれば、容易に地域紛争レベルを抑え込むことができる戦力を、直ちに必要な場所に送り込むことができる。その一例が、日本と米英が係わったM国の軍事政権打倒によって示された。
『世界平和軍』の本部は、アメリカ中西部のデンバー近郊の米軍基地跡に置かれることになった。また、紛争対応の緊急展開部隊を、各国から派遣された人員で構成して、本部に配置することになった。各国の派遣の人員は、基本的に人口と経済力を勘案して送ることになっている。
日本はG7+1ではアメリカに次ぐ人口大国なので、相当な人員を出すことになるが、問題になったのは『憲法』である。『各国の善意を信頼して戦力を保持しない』などと寝言を書いている憲法を持っている国が、戦力で紛争を叩きつぶす意図の世界平和軍に加わるのはいくら何でも都合が悪い。
だから、国会で憲法改正が提議されたが、その際には、政府としてその必要性を国民に訴えた。その論点は以下の通りである。
1)現行憲法は、アメリカが日本に再軍備させないために作ったものである。
2)確かに、それで軍事費を抑えられ、戦争に巻き込まれない効果はあったが、世界から奇形の国、アメリカの”ぽち“と見られるようになった。
3)C国とR国が脅しのために本土上空をミサイルで通過させたことに対して、米英国軍が両国の核を無効化した。その技術は日本から出た魔道具であり、その部隊は日本から発ったにも係わらず、憲法のために核無効化の実行に加われなかった。
4)今後、G7+1国による世界平和軍の構想があるが、日本は現行の憲法のままでは参加できない。つまり、自分の国の運命も決められない国のままである。
国会では、改正に賛成の者の方が多いが、衆参両院で2/3の賛成が必要である。客観的にみれば、どう考えてもおかしな条文を含んだ憲法を変えるのに、衆参両院の2/3の賛成が必要という規定は不自然である。しかし護憲派なる者達が多いことは事実で、その殆どは若い頃に洗脳された年寄りである。
典型的な議論は、以下のようなもので、これには一定の支持がある。
「そもそも、あなた方は、KT国、C国、加えてR国ありで安全保障環境が厳しいから改憲と言っていたでしょう?ところが、それら3国はすっかり体制が変ってしまいました。少なくとも、これ等の国が今後5年や10年で前のように好戦的な国になるとは思えません。
そうであるから、尊い平和憲法を変える必要な全くないのです。あなた方は、また日本を戦争に巻き込もうとしているから、そのように憲法の改悪を企んでいるのです。私は、憲法改悪には反対です」
また、彼等は世界平和軍の構想についても、様々なお花畑論を展開して反対している。
「そもそも、世界平和軍等という存在は、経済的に優位な国々が世界を好きなようにしようとして、気に入らない者を武力によって抑圧しようとしているのです。それも空間ゲートとか言う、怪しげなものを使って主権国家に侵略しての話です。
日本がそのような怪しげな組織に入るのは断固として反対です。また、その世界平和軍とG7+1の国家機関のみが、核無効化装置を使え、空間ゲートも使ってしかもMストレージを使えるというのは、公平ではありません。直ちに全世界に公開すべきです」
しかし日本はすでに魔道具先進国であり、まずキュアラーの世界への供給によって世界の人々の健康に大きな貢献をしている。続いて、Mジェネレーター、Mバッテリーによって、化石燃料が不要になる未来を開いた。
このことで、エネルギーの枯渇の不安を解消し、地球温暖化を食い止めることを可能にして将来の人類の文明維持発展を保証した。一方で、エネルギーに係わるコストを劇的に下げることで、今後環境汚染無しにエネルギーを潤沢に使えるようになった。
さらには、安全保障の面でも、核無効化、空間ゲートやMストレージによって、核戦争の恐怖を拭い去り、軍事の概念を変えてしまった。残念ながらその実行は、憲法の制約で日本の手では出来なかったが、日本発の魔道具によった結果であることは確かである。
こうした動きの中で日本人の自信は高まり、世界においてそれなりの役割は果たすべきという世論は、最初はネット世界で、その内に一部の頑な層を除いてはすでに醸成されていた。このことで、世論調査の結果、特に憲法9条関係の改正はすべきという賛成意見は72%を上回っている。
ちなみに、議員への調査では、衆議院は改憲賛成者が2/3を上回り、参議院ではギリギリであった。参議院のその状況に多くの有権者が危機感を募らせている。このため、反対の議員に対して多数の抗議が寄せられ、議員を支持している組合などからは強い働きかけがあった。
結果から言えば、憲法改正は成立した。参議院で最大野党民心党は、所属議員に反対するように指示していたが、30%もの所属議員が造反したのだ。このことで、自衛隊から世界平和軍へ人員と装備を拠出することが国会で議決され、今後の自衛隊の在り方が議論されている訳だ。
現状では、世界平和軍の規模は、全体で20万人、実戦部隊が15万人であり、本部に詰める要員が8万人でその内緊急展開部隊が5万人であるということがすでに合意されている。そして、本部以外の要員は各国の基地に詰めることになっている。
一方でアメリカの本部に詰める要員は、各国1万人ずつであり、残りは各国に建設される支部基地に配属される。各国支部に配属される人数は、アメリカが4万人、日本が1.5万人であり、残り6.5万人を6カ国で分け合っている。日本の支部基地は、日米安保条約の解消に伴い、米軍が引揚中の岩国基地が予定されている。
この中で、各国で問題になっているのは国軍の存在をどうするかである。つまり、世界平和軍があり、地域紛争、国家間紛争を強制的に止めるのであれば各国軍隊は必要がないはずである。では、自国の軍は廃止して良いのではないかという議論が起きているわけだ。
一方で現在において軍は、昔のように侵略のためということは無くても、取られた領土を取り返すためということはあるもののレアケースだろう。むしろ、他国からの侵略の歯止めの役割を期待している人が大部分である。一方で軍の役割は、戦争に限らず大規模自然災害時の対応もある。
また、軍は非常に大きな組織であるから、GDPの大きな一つの要素であるほどの金食い虫であり、大きな雇用先でもある。だから、それが突然消えると、国の経済と社会に大きな混乱をもたらすために、必要が無いという理由では簡単に潰せない。
そういうことを踏まえて、G7+1の各国の首脳と軍関係者が集まった会議で喧々諤々の議論が行われ、一応の結論がでている。一つには、将来の各国と世界の安全保障は『世界平和軍』が担う。つまり、対外安全保障を各国が担う必要はない。
その意味では、陸軍における戦車や大砲などの大型銃器にミサイル、空軍における戦闘機や爆撃機・攻撃機にミサイル、海軍における潜水艦を含む戦闘艦艇など正面装備は各国では不要になる。しかし、自然災害に限らず災害対応に関しては、軍規模の訓練された人員や機材が必要であることも確かである。
従って、各国に準軍的な組織、例えばアメリカの州兵的な組織を作ることが、G7+1の国々の中では合意された。また、これらについては、テロ程度には十分対応できる軍備を備えることになった。それでも高価な正面装備を備えないので、同じ兵員数としても予算は大幅に減ずる。
ちなみに、軍事費については現在日本が1.5%程度で他は2%を超えている。だが、世界平和軍への費用拠出は各国で2万~5万人の派遣の分担金と、8ヵ国で15万の軍の正面装備の負担金になる見込みであるので、現在の数%まで落ちる。
そして、将来の各国の准軍隊は当初において、現在の国軍の状態より人員はさほど減らさない予定である。だがそれでも、正面装備の調達が大幅に減るので、軍事予算は1/2~3/4に減り、最終的には1/3レベルまで下がる。これは、世界の軍事産業に大きな打撃を与えることになる。




