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異世界令嬢、日本に現れ大活躍!  作者: 黄昏人
第4章 地球と異世界カガルーズの交流とその余波
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4-5 その頃地球では2

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 次にMジェネレーターであるが、現実に世の中を変えつつある。これは、魔法で銅塊から電子を取り出すことで発電するものである。その代替として、銅の原子が分解されてエネルギーに転換されている。つまり、核分裂でなく核融合でもなく核分解である。


 従って発電量に対する銅の質量の減少は極めて僅かであり、フルパワーで発電している場合に概ね1年に一度銅シリンダーを交換する程度である。これは、質量の低下に相当する銅の空隙がシリンダーの中に形成されて、電子の発生が阻害されるのだ。


 とは言え、この場合には質量の低下は1%以下であるので、再度銅を溶解して減った銅を追加して鋳直すことで再生できる。この費用は、発電した電力に比べれば1㎾h当たりに0.01円にもならない。つまり、発電に必要な燃料費はほぼゼロと言ってよい。


 その上に発電機としての可動部は、魔力を発生するためのMラジエターのみであり、このことはメンテナンスの必要が殆どなく、維持管理要員も変電・受電設備の管理者が兼ねられるレベルである。発電費用は設備の償却や人件費を含んでも、0.5円/㎾h程度である。


 しかし、電力会社としては、まだ償却が終わっていない発電設備の償却費用、電力の送電・配電網の償却費用及び維持管理費用に加え、料金徴収や全体の管理などの費用が必要であり、日本の電気料はビーク時の半分程度に下がった程度である。


 そして、電力会社は大口消費者がどんどん離れていくという苦境にある。例えば、1万㎾を受電して1日に10万㎾hレベルで受電している消費者は、下がった料金でも1日に100万円程度払う必要がある。これは年間3億6千万円の費用を要する。


 一方で、この場合は発電機として2万5千㎾のMジェネレーターを設置すれば良いので、変電配電設備の改造を入れても2億円は要しない。そして一旦設置すれば、その後は㎾h当たり1円以下の費用を負担すればよいのだ。コストに敏感な民間会社はこぞって自前で発電機を設置することになる。


 このように、大口電力の消費者が減る電力会社は、採算性が悪くなるので料金が割高になる。すると大口消費者がますます逃げ出すという悪循環になる。このため、電力会社は送配電網を含め諸設備の整理にかかっているが、その費用も掛かる。この為、個人消費者が本来はもっと安くなるはずなのに、一時に比べて半分ほどにはなった料金で当分は我慢するしかない。


 ちなみに、日本に限らず先進国では火力・原子力発電所は迷惑施設になる。また水力発電所は人里離れた地に建設されるので、大規模発電設備は需要地とは遠く離れたところになる。このため、大規模な送電設備が日本中に張り巡らされている。


 このコストは電力費に反映され、Mジェネレーターの建設推進によって無駄になったものもあるが、償却期間が過ぎていないものは費用に加わる。一方で大口需要者の場合に自分の工場に発電機を持っていれば、この・受電・送電の費用は要しない。


 とは言え、元々電力会社がMジェネレーターの早期建設に必死になった原因は、どこまで上がるか解らない石油・天然ガス価格の上昇と、それに吊られて上昇を始めた石炭価格である。さらに、Mジェネレーターの建設が進むと、建設費と運転費の極端な安さを認識することになる。


 だから、電力会社はまだ償却の終わっていない施設までお構いなしに代替を行っているが、これは、短期的にはコスト増大の要因になった。このように、問題をはらみながらも電力会社の化石燃料の消費は殆ど無くなっていった。


 しかし、電力会社で使う石油・天然ガスや石炭は、所詮日本全体のエネルギー消費量の20%余である。日本国としては、今後全てのエネルギーを化石燃料からMジェネレーターに変えたい。輸送部門でのそのための魔道具が、Mバッテリーと回転の魔道具であり、順調にエンジンから変わりつつある。


 とりわけ、トラックやタクシーなど長距離を走って、燃料費が利益に直結する営業車は、交換用のパーツが売り出されて早々に交換が進んだ。自家用車についても、60%以上はすでに交換が終わっているが、その趨勢をみて政府は、2年以内のエンジンを電気駆動車に交換するように義務づけた。


 これは、公的には治まる気配のない地球温暖化の防止のための措置であるが、一面では石油消費の減少を狙っている。これは、米英をはじめG7+1で結束しての動きであり、石油の枯渇を警告したレポートを口実に価格の大幅アップを行ったOPECに対する対抗措置である。


 彼等は石油・天然ガス価格を、数年で倍以上にして第2の石油ショックを狙ったことが判っている。その企みはMジェネレーター、Mバッテリーなどの登場で阻止された格好になった。現時点では、最も石油離れの進んでいる日本の場合で、石油と天然ガスの輸入量は魔道具導入の前の年の58%減少している。


 化石燃料の代替は、電力会社の発電の燃料、自動車の燃料が大きな柱である。しかし、様々な工場での熱源の燃料の代替もそれらに劣らず重要である。これは、熱発生の魔道具として実用化されて、精力的に大小規模の工場に導入されている。


 また、家庭での風呂や台所の熱源を電力に替えることが重要であり、これは結局オール電化の導入であるが、その推進のためにすでに3年以内の導入を義務となるように法制化されている。


 しかし、これらの動きは、産業界に大きな変動を促しており、それは新しい需要を生んでいる一方で、消えていく需要もあって苦痛を味わう業界もある。新しい需要は魔道具であり、消えていく産業として最も大きなものはエンジン製造である。


 しかし、国全体の産業構造を変える規模の動きは巨大な需要を生んでおり、その中で国も必死に失われる雇用を代替すべく奮闘した。この中で、失業者が増えることはなかったが、長年培ってきた技術が無用のものになるなどの苦痛を味わう人が多く発生した。


 つまり、このような努力の結果を含めて、先述の化石燃料58%減の成果が生まれている訳だ。そして、5年後には化石燃料の利用は90%減になると想定されている。この場合は、燃料としての利用でなく石油や石炭は化学材料としての利用になる。


 この場合には、石油化学工業としては全く中身が変わってくる。石油を普通に蒸留して改質していくと、ガソリン、軽油、灯油、重油やタールに別れるが、原油の質によってその割合は異なる。ところが、将来の日本が欲しいのは、潤滑油やプラスチックの材料としての化学材料であり、燃料は不要なのだ。


 このため、原油を改質して化学材料にするための研究が始まっているが、なかなか難航している。ただ、石油のみでは難しく、石炭を粉状にして混合することで、望んだ物質が得られるという結果が出つつある。しかし、将来決定的に足りなくなることが判ったのは、アスファルトの材料である瀝青材である。


 道路の舗装については、基本的に20年に1回は打ち替えが必要であり、全世界に張り巡らされている道路網を考えれば、瀝青材の需要は莫大である。これについて、注目されたのがイスカルイ王国で行われている土魔法による舗装である。


 実のところ、日本の国交省の専門家がイスカルイ王国に行って、長持ちする魔法による舗装の技術基準を作る手助けをしている、その縁で、近い将来の瀝青材の不足を見越して、イスカルイ王国から土魔法士ムピタイ・ジラークと魔道具化の知識を持つ王国魔術師エリナ・ナイマを連れてきて、魔道具化を行った。


 ムピタイ・ジラークが人工魔石の助けで使う土魔法を、エリナ・ナイマがミズルー大陸語で魔方陣を書く。それをN大学の研究者が、プログラミング語で魔道具にするのは簡単である。彼等2人には2ヵ月日本に滞在してもらい、様々な条件で魔法による施工を頼んだ。


 そして、条件を変えるごとに性能を変えた魔道具を製作した。つまり、魔法士であれば、自分でその場で条件を変えることができるが、魔力操作ができない地球人は出来ない。だから、条件ごとの魔道具が必要になる訳である。


 彼等の協力のお陰で、魔道具を用いた舗装のノウハウが積み上がり、それはM舗装具を用いた舗装基準として出来上がった。魔法での施工という得難い協力をしてくれた彼等には、参加した専門家たちは感嘆すると共に大いに感謝した。


 だから、感謝の意を表すために週末毎に観光に買い物に連れて行き歓待した。日本行きに参加した2人にとっては、そのように歓迎され尊重された日本での経験は心地よいものであり、また日本での見聞は彼等にとって実り多いものであった。


 特に、試験施工ごとに重機を使ってあっという間に土を掘り・動かし、土や砂利等の材料を持ってくる機械力は驚くべきものであった。さすがに、人工魔石によるブーストはあっても、魔法ではその機械力には太刀打ちできないという思いを噛み締めた。


 また、彼等にとって最大のインパクトは日本の交通網である。イスカルイでは転移の魔法や飛行魔法もあるが、使える者は稀である。その点で、日本ではバス、電車、新幹線を普通の人が使え、自家用車も殆どの人が持っている。更には飛行機があり、誰でも乗れるものである。


 彼等は、仕事の場の関東から飛行機で九州や北海道に行き、名古屋や京都、大阪、仙台、新潟には新幹線で行った。すでに、イスカルイ王国でも鉄道は一部開通していて彼等も乗ったが、新幹線に乗ってみると文字通り桁が違う思いであった。飛行機に乗ることは、また別格の感動する経験であった。


 帰国後、土魔法士ムピタイ・ジラークと王国魔術師エリナ・ナイマは同僚に、日本での思い出を大いに吹いて回った。その後、日本では資源探査や建設工事に魔法を使うという話がでて、土魔法士と魔道具化ができる魔術師を呼ぼうという動きが出てきた。

 その際に、日本に行く人を募るとすぐに希望者が集まるようになったのは、2人のお陰である。


 ところで、鉄などの精錬に関して、化石燃料を使わない手段の開発は手こずった。研究された手法は主に2つである。まずは、コークスの代わりに電力による高周波の利用が研究された。さらに、熱の魔道具も研究されたが、こちらは、製鉄に使う程の大きな熱容量を持つ魔道具は出来なかった。


 結局、コークスを使う場合の効率に比べ半分の熱効率であったが、高周波溶鉱炉の開発に成功した。現在、日本にある12基の溶鉱炉は運転しつつ、4基が一度に建設中であり、あと1年もすれは稼働する予定である。建設中の炉の運転を見とどけて、次の炉にかかるので、全部が電気炉になるのは、5年程かかると見られている。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 地球さんはレベルアップしましたとか銀河連合日本、ソード妖夢オンラインみたいな異文化との接触が丁寧に書かれている作品はとてもすき [一言] 中東は御木本翁の際にも現代で言うGDPが大変なこと…
[良い点]  魔法により色々と新しいことが出来たり、効率化したりと良い面ばかりが書かれているのではなく、発電網や過去の発電施設の償却の為になかなか電気料金が下がらないとか、エンジンが過去の技術になった…
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