4-3 ミズルー大陸での動き3
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ところで、レイナがイスカルイ王国に帰国して3年が過ぎた時点では、同王国では各分野で様々な進展があった。最初に力を入れた農業面では、灌漑設備について、既存の農地についてはすでに完成をみており、渇水があっても殆ど被害なしで農作ができるようになっている。
また、地球産の種苗を使って、化学肥料を使い、植え方を適正にする新農法によって、すでに3~8回の収穫を得ていた。結果として、従来からの主穀物である小麦については、1ドノ(1000㎡)当たり420㎏の収量を得て、面積当たり3倍以上の目標は超えている。
さらに、従来からあった大豆や、地球から来た新しいジャガイモ、甘藷、トウモロコシなどの作物、加えてキャベツ、ニンジン、スイカなどの野菜類の導入によって、食の多様性が大幅に広がっている。この結果、人々の栄養改善に貢献することになった。また、元からあったリンゴに似た果樹に加え、地球から持ってきたオレンジやメロンなどの果物も食生活の多様性に貢献している。
なお、この時点では窒素、リン、カリウムの魔道具による化学肥料工場を完成して量産を始めている。この工場は、隣接3国の需要を賄うだけの生産能力を持っており、すでにリンドル王国には本格的に輸出が始まっている。
さらに、鶏や豚や牛に近い家畜による卵や肉の生産、また牛乳の生産による乳製品の普及も始まっている。家畜の飼育によって生じる糞便は、有機肥料に加工し使って、化学肥料に偏重しないようにしている。
また、こうした農産物が増産されても、単価が大幅に下がっては農民にとっては意味がない。この点では、余剰分は周辺諸国への輸出や日本へも輸出に回されて価格が下がらないように工夫されている。一方で、国内では貧しい者達はなかなか小麦は食べられなかったが、好景気による人々の購買力よる消費量が大きく増えている。こうした効果が複合して単価については大きな変動はない。
また、税制については、王国では領主に収穫物の5割を収めるのが原則であるが、実態として小麦以外は見逃されてきた。そのため、農民の手元には小麦の場合で3倍以上が残り、それ以外で小麦の半分相当の価値の収穫が残ることになった。
これはいかにも過剰なので、国の方針として、領主に対しては小麦について、5割の税として金で収めるのも可とした。さらに、小麦以外の収穫については、換金できたものについて半分を税として国に収めることにした。
つまり、食うや食わずで暮らしてきた農民は実質で4.5倍程度の収入があることになった、だが、彼等は肥料や種苗、人工魔石を買う必要があり、手元に残るのは3倍弱に収まった。それでも大きな余裕ができた訳で、その金で果物や肉など今までは手の届かなかった食べ物を買う。さらに、着替えもないぼろぼろの服をなんとかしようとする。
国も地球での知識からその動きを予測しており、当面は地球から自国に比べて圧倒的に安価な服を大量に輸入するが、高級品は敢えて輸入していない。このため、貧しい人々は、地球から大量に輸入した安物の下着類、Tシャツ、スカート、ズボン、ブラウスやジャージなどを買うようになり、ファッションがすっかり地球風になった。
つまり、ミズルー大陸ではまず綿や麻、あるいは羊毛の原料がない。さらに原料があっても自動紡績機や自動織機が無いと織物を安くはできない。安価に化学繊維が作れ、綿花の大規模栽培をしている地球に比べると、どうしても服は何倍も高価になるのが当然である。
だから、当面はファッションにはこだわらず安く新しい衣類を地球から大量に輸入して、平民から着替えもないぼろの衣類を卒業させる。豊かになってファッションにもこだわるようになる頃には、綿花の大規模栽培を始めて、自動紡績機や自動織機によりコストを下げて、地元産を使うようにするのだ。
しかし、豊かな層に最初から地球産の高級品が広がると、地元産に転化する切っ掛けがなくなると王国政府は判断して規制した。繊維産業はその国の文化であるので、王国のファッションは作り上げたいのだ。それは、日本の文化を知っているレイナが、王妃など上層部の女性たちと語らって打ち出した方針だ。
収入が増え、食うものに困らなくなり嗜好品も食べられるようになる。さらに、安いが新しく服を何着も買えるようになる。そうしてみると、服を入れるクローゼットが欲しいが自分達のぼろぼろの掘っ建て小屋が気になる。
民家については、人工魔石でブーストされた土魔法士や木工魔法士による標準的な建築方法が、日本の専門家の助けを借りて策定された。そして、板ガラスも錬金術士によって地元でそれなりの製品はできるようになり、地球に比べ極めて低コストの家が建設されるようになってきた。
これらの家は、各家まで水道を引き込んでいるものが多い。これは灌漑設備整備の際に多くの集落に高架水槽を設置したお陰である。さらにトイレについては、数軒ずつあるいは集落毎に汚水廃水を集めて、スライムによる汚水処理槽を経由して排水している。この場合には、これらの家は水洗便所になる。
この場合には、家の個性や多様性を求めるのは後回しで、取りあえず質より量である。家を建てるということは、躯体は土魔法で作るとしても実に多くのものが必要である。そして、家ができてみると中に家具他様々なものが欲しくなる。結局そこには莫大な需要が生まれ、経済の成長が起きる。
一方で、農産物の増加で領主の収入は3倍近くになり。灌漑設備等の負担分の返済が必要であっても、従来の2倍以上の増収になっている。となると、彼等は家を地球式の衛生設備と家電によって清潔で便利な住処にしようとする。そして、何と言っても行動の便利さを求めて自家用車を買う。
車はどう考えても地球からの輸入品以外に選択肢はない。しかも、貴族からすれば相対的にその価格は多少豪華な馬車と変わらないのだ。車を持つと、領内のガタガタの道路が不満になる。そして、土魔法士がいれば、路面を固めて『舗装』にすることは簡単で安い。
ただ、舗装構成の知識なしにやみくもに『舗装』をしても、トラックなどの重量車が通るようになると、すぐに壊れてしまう。だから、王国建設局による魔法による標準舗装法の冊子が発行されて、土魔法士も知識としてそれを頭に入れることで『舗装』すると耐久性も十分なものができるようになった。
建築の躯体も同じであるが、舗装も土さえあれば、土魔法士がその人件費のみで施工できる。後に日本に呼ばれた土魔法士が、家の建築や舗装を実施してみせると、専門家からは『理不尽』だと悲鳴に近い声が上がったという。
こうした、個人と領主による建設を中心としての国内の大消費に加え、国も全力で農業関係を含めたインフラ整備に励んでいる。すでに国のほぼ中心に当たる王都から、港町のキラーマイルまでの480㎞は片道2車線の舗装道路と鉄道が開通している。
さらに王都から放射状に国内の各都市へは、少なくとも2車線の道路が通っている。また、隣接する3ヵ国の首都とはすでに片側2車線の舗装道路が繋がり、リンドル王国王都リーラルとはすでに鉄道が繋がっている。またコサンド王国王都のカトマン、及びタイラー皇国皇都タイラーとは鉄道が建設中である。
このため、周辺国への動脈ができているので、必然的にイスカルイ王国で有り余る穀物や、新しい農産物は盛んに輸出されて、同国の経済成長を支えている。そうなると当然互いの人の交流も盛んになるので、イスカルイ王国の農業の在りかた、インフラ整備を真似るようになる。
その結果、周辺国も農業改革やインフラ整備が急速に進み始め、同様な経済成長が起き始めている。また、それは地球からミズルー大陸への大量の工業製品の輸出が伴うことになる。つまり、自動車、鉄道の機関車、家電製品などの製造は、当分はミズルー大陸の工業力の及ぶところではないので、地球から輸入するしかないのだ。
だから、これ等の機械や装置は繊維製品や様々な家庭用のグッズと共に、洪水のように地球からミズルー大陸へ流れ混んでいる。このための次元ゲートは日本の1ヵ所のみでなく、アメリカに2ヵ所、イギリスに1ヵ所設けられている。
その代価は現時点では金などの金属である。イスカルイ王国のみならず、各国の優れた土魔法士は資源探査と金属の抽出に駆り出されている。現状では金やプラチナの他、各国で超高額な希少金属であるロジウムや、イリジウムなど金額が大きいものが発見されて抽出されている。だから、当分は地球からの製品購入の代価には支障がない。
金属以外でも、大規模な油田がコサンド王国で、さらに大規模な石炭鉱床がタイラー皇国で発見されている。しかし、Mジェネレーターの普及で、燃料としての石油・石炭の必要性はなくなった。一方で、化学材料としてこれらについては、森林資源の保全を考えると今後も有用である。従って、石油・石炭資源の活用をどうするか、地球側の知恵を借りながら揉んでいる段階である。
また、インフラ整備が進んでいるのは交通のみではない。都市における上下水道、電力網の整備と都市間の通信網整備も進みつつある。イスカルイ王国の王都イスルーでは、土魔法による上水管の埋設と地下の下水路の建設が終わり、下水処理場も完成している。
スライムを使った下水処理場は、地球の標準になっている活性汚泥法なみの性能を持っており、かつ設備は非常に簡易である。だから下水が完備すると、現在汚水を垂れ流して悪臭とジンダ川の汚染源になっている10本を超える王都からの汚水管も無くなる。
しかしこのためには、王都の全ての家が完成した下水渠に汚水を流す必要がある。つまり、家庭の汚水管を道路に埋設されている下水渠に接続する必要があるのだ。その為には8万戸に及ぶ全ての家に、水道管を引いてトイレを水洗化するために改造の必要があるし、台所等の排水も現在の雨水渠から下水渠に繋ぎ直す必要があるので、結構な費用がかかる。
現状のところ王宮や公共の建物はこの接続が終わり、すでに上下水完備になっている。だが、個人の一般家屋においては、金銭的に余裕がある富裕層からこの工事が進んでいるが、全ての家に行き渡るには3年程を要すると言われている。
電力については、基本的にMジェネレーターを発電所として、地下埋設した電線管に通した電線で各戸に接続する。費用面から、王都全体を1つの電力網にせずに8ヵ所の発電所と電力網の組み合わせの分散型を選び、現状では4か所が完成している。
まだ、電力網が完成していないが、電化製品を直ぐに使いたい富裕層の家は、Mバッテリーを使って自分の家の給電を行っている。
通信は、イスカルイ王国内はタワーを使った発信によるインターネット網が繋がっている。これを受けた、すでに小規模であるが地元の2局の放送局ができて放送サービスを開始している。現在王都周辺の住民の1/3位の人はスマホを持っているので、そうしたサービスが成り立つ状況になっているのだ。
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