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異世界令嬢、日本に現れ大活躍!  作者: 黄昏人
第3章 レイナ嬢の帰国が巻き起こす騒動
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3-18 イスカルイ王国に脅威になれなかったカーギル帝国

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 カーギル帝国はミズルー大陸では大勢力であった。大陸の面積と人口の過半を占め、人口と経済力に支えられて文化も進んでいる。ただ、この帝国は征服王朝であることから、国民が貴族と平民の区別と差別の上に、征服した側とされた側で1等国民と2等国民の区別があって、はっきり差別されている。


 この構成は、概ね1等国民が2割であり、その10%ほどの貴族が国の頂点であり、残り8割の2等国民の7%ほどが以前の貴族としての管理者であり、1等国民の平民並みの扱いになる。つまり、75%が最下級民であり、休む暇なく働かないと食えないか、さぼっているとしてまたは鞭うたれる。


 そして、この75%はまずそれ以上の階級に昇る見込みはないし、公的な立場に就くこともない。つまり、一生単純労働に明け暮れることになる訳だ。このように衆知という概念がなく、国民の大多数の工夫を吸い上げるシステムがない国の発展は遅々たるものになる。


 とは言え、国がどんどん大きくなっている段階においては、征服した相手の優れた制度や物、または知恵はうまく生かして、相対的に優れた生産性も発揮して国を広げてきた。しかし、やがて魔獣のはびこる大森林を抜けることが出来ず周辺への征服が困難になった。


 さらに、怠惰な皇帝が続いたこともあって、国の身分は固定化され、慣習が判断基準になっていった。当然国全体としては生産効率が上がらず、貧しい者は貧しいままに取り残された。しかし、人口50万人の皇都カーギルは他の地域の搾取の上に成り立っているために、住民は文化香る都市として豊かで文化的な生活をしていた。


 帝国では農業に関しては三圃式が導入されているので、それなりの生産性は確保されている。灌漑設備はさほど整っていなかったが、安定した気候のため飢饉は頻繁に襲うことはなかった。それでも、地方によってであるが、時として飢饉は襲ってくる。


 この場合、流石に帝国は余剰のある地方から食料を持ってくるが、それは農民などの借金となる。このようなことが重なって耐えられなくなった人々は反乱を起こすが、帝国の軍はそれらの反乱を治めるには十分な力を持っていた。このように、全体的に帝国は安定していたが、発展の兆しはなかった。


 そこに現れたのが、青年皇帝のサラマンド・イジラ・マサイ・カーギルであった。彼は皇太子の頃から帝国の停滞を憂いており、若い取り巻きと共に帝国の発展を策した。20歳で、病弱であった父が崩御して皇帝位を継ぐと、かねてから策していた税制改革に乗り出し、増えた税収を元に軍艦の建造にかかった。


 そして、大陸に残った独立国の集団である、イスカルイ王国とその周辺3カ国の征服に着手しようとしたのだ。その端緒に起こったのが、皇都への岩の大量の落下である。それに伴って、上空から大量の紙切れが撒かれて、それがイスカルイ王国からの行動であることが判っている。


「ガイムイ、では判ったことを報告せよ」

 皇帝サラマンドは、内務卿のイジム・ケイン・ガイムイ内務卿に報告を命じた。23歳の皇帝は、こうした場合には謁見の間は使わず、今日のような会議室で関係者を集めて協議をする。これも彼の進めた改革の一つである。ガイムイ内務卿は、元の宰相であり、52歳の働き盛りである。


「はい、陛下。まず、あの飛行体は皇都の東の方から、飛んできています。そして、50㎞ほど東の〇×村より4㎞ほど離れた荒れ地あたりから上昇するのを見られており、その後見える程度の高さを皇都に向かったのを目撃されています。

 つまり、飛行体は皇都の東50㎞余りの所に現れて、皇都まで飛んできたという訳です。そして、皇都の住居街に差し掛かってからは、この紙切れを大量に撒いており、皇宮の周りにはより多くを撒いています」


「ふむ、紙きれというのはこれだの。これは、羊皮紙でなく植物でできたものだ。それに、この字は手で書いたものではないな?」

 皇帝の問いに、内務卿が答える。


「はい、その通りです。最近皇都でも作られるようになった植物紙ですが、わが国のものよりずっと品質が良いようです。さらに、字はいわゆる印刷でなされておりますが、我が国の木版より鮮明です」

「ふむ、判った。説明を続けよ」


「は、では続けます。このように紙を撒いたために、大勢のものが飛行体を続けて見守っております。その聞き取りの結果を申します。飛行体は、紙のバラマキを最後に皇宮の上を数回回って行ってから一旦終わり、さらに高く舞い上がって行きました。そして、建国広場の池の上空に行って止まると、何かを落としました。

 それはどんどん落ちてきて、地上近くでは丸い岩であることが判りました。そして、それは池の端に寄った辺りに落下し、水と泥を巻き上げ、激しい水音を立てると共に、地響きを起こしました。

 そして、その後多分飛行体から念話が皇都に発せられました」


 皇帝が報告を遮って聞く。

「その内容は良い。私も受けた。さて、帝国魔術師長のカメロン、あの念話は皇都の端まではっきり受ける事ができたと報告されている。あの念話を我が魔術師団で出来る者がいるか?」


「ええ、私も含めて10人ほどは可能ですが、出力を上げるために恐ろしく魔力を食います。だから、あの時間念話は続かないか、またはその後魔力は空になりますな」

 帝国魔術師長のカメロンが面白くなさそうに答える。


「ふむ、魔石を使えば、魔力は足りるが、なかなか費用が高いものになるな。まあ、しかし可能ではあると。さて続けよ」

 皇帝が応じまた、内務卿に説明を命じる。


「はい、その念話の後、飛行体は皇宮の上に移動して、移動しながら岩を落としていきました。皇宮の内部には建物を避けて50発落ちています。皆さんも落ちてくる風切り音と地面に落ちた音、さらにその振動は味わったことと思います。

 さらに、飛行体は皇都を満遍なく飛び回り、慎重に道路または広場や池に落としています。数は500個程度であると考えられます。飛行体は約2時間かけて岩の投下を終えると、北の方に去っていきました。


 被害は、死者は7人で、負傷者25人、馬車が3台潰され、岩がぶつかって飛んだかけらで壊れた家が10軒あります。死者は、まともに潰されたのは2人おり、他は壊れたものが飛んできてのものです。負傷者は例外なく落下によって飛んできたものに当たった者達です。

 ただ、岩は殆どが、地中に頭が見えないくらいにめり込んでおります。ですので、その岩を埋めこんでしまえば、道路や広場を復旧するのはさほど困難ではありません」


「ふむ、今回のイスカルイ王国の企ては見事に遂行されて成功を収め、民は皆それがどういう意味かを知った訳だ。内務卿が調べた限りにおいて、民の反応はどうだ!」


 質問した皇帝に対し、苦渋の表情の内務卿は応える。

「はい。近くで経験したものはその凄まじい振動に生きた心地がしなかったようです。そして、それを堂々と宣言したことで、一等国民は、皆怒っており報復すべきと言っておりますが、内心ではそれを許した帝国政府に怒っております。

 2等国民は、恐れながらも、イスカルイ王国という存在が現れ、絶対と思っていた帝国にほころびが出たと思っているのが本音のようです」


「なるほど、当然の反応であるな。しかし、それを切っ掛けに何等かの行動に移るほどのことではないと、そういうことだな。内務卿?」

「はい、その通りでございます」


 しばらく考えていた皇帝は、今度は、魔術師団長に問う。

「ふむ、イスカルイ王国の我々への『警告』はなかなか抑制的であった訳だ。我らは、それに対して何も反撃ができなかったわけだが、カメロン、何らの方法はあるか?それに、そもそもあれは何だ?」


 この質問に対して、魔術師団長のカメロンが答える。

「はい、最初の高さであれば、魔石を使えば風魔法が届いたでしょう。ただ、傷つけられたかどうかは解りません。しかし、その後高度を上げられた高さであると、何とも出来ない高さです。まあ、念話で抗議してはみましたが、全く遮断されました。

 飛行体については、遠視の魔法で私も見ましたが、絵で描くとこのようなものです」


 カメロンは持っていた絵を差し出すと、皇帝の秘書官がそれを皇帝の前に持っていく。

「あれは全てが金属で覆われた馬車のような乗り物で、上に回転翼がついてそれが回って浮かび進む仕組みです。ぱたぱたという音は回転翼が風を切る音です。私の遠視では乗っていたのは2名であり、多分大きい収納袋を使って岩を落としたものでしょう」


「あのようなものは作れるか?」

「絶対にできません。また、少なくとも数年前は我々より進んだところのなかったイスカルイ王国もあのような物は作れません。従って、彼等は我々より大きく進んだ存在と接触して、そこから手に入れたものと思います。魔法袋も同様にして入手したものだと思います」


「ふーむ、進んだ存在か、そうだの、それしか考えられん。ところで、カイローム軍務卿、現時点でイスカルイ王国への侵攻は無理だな?」

 皇帝は今度軍務卿に聞くと、逞しい軍務卿は頭を振って悲し気に言う。


「はい。あのような攻撃があれば、地上と海上で行動するしかない我らの軍は対抗できません。漸く10隻を揃えた大型軍艦ですが、あの岩を落とされれば艦底まで貫かれて轟沈です。また、地上を行くわが軍は、あの大岩を落とされて逃げまどうのみでしょう」


「うむ、貴卿らの客観的かつ冷静な分析を評価したい。そういうことであれば、わが帝国は、イスカルイ王国に対し友好を求めるべきであろう。幸いにして彼等は、わが帝国と血で血を洗う戦争を始めるつもりはないようだ。そして、かの王国が進んだ存在と結んでいるなら我らも結びたい。

 我らは長く停滞してきて、豊かなのは皇都のみであり全体としては貧しい。漏れ聞こえるイスカルイ王国の状況は、多数の新たな試みが始まって全体が好景気に沸いているという。我らもそれを取り込みたい。外務卿、アサト・ジラム・ミーザル。イスカルイ王国へ行き国交を結んで参れ。良いな?」


「はは、かしこまりました、陛下」

 ミーザル外務卿は、畏まって命令に応じる。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  すごい! このサラマンド・イジラ・マサイ・カーギルという若き皇帝、あれだけの情報のみからカーギル帝国にとっての最適解を導き出している!  逆に言えばイスカルイ王国としては、今はともかく、…
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