3-13 イスカルイ王国で進む変革1
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イスカルイ王国では様々な変革が次々に起きている。
先ずは、隣国のリンドル王国との戦争は避けられた。これは、イスカルイ王国が仲介して、リンドル王国が30万トンの小麦を金で買って飢饉を免れたからである。リンドル王国としては、僅か2トンの金でその量の小麦を買えるということは望外のことで、そのことで主戦派はいなくなったらしい。
30万トンの小麦は、日本へは3ヵ月で集まった。だが、日本からイスカルイまではトラックで容易に運べるが、さらにリンドルへの国境までの300㎞を運搬する必要がある。結局、自衛隊が協力しMストレージ10個を使って車とヘリコプターで、リンドル王国の国境の町まで運んでいる。
その運搬は、リンドル王国の倉庫の容量と輸送能力に合わせたので、5ヶ月以上を要している。
さらにイスカルイ王国は、自国で行う予定の農業改革の導入を、国境を接するリンドル王国に加えてコサンド王国、タイラー皇国にも行うように働きかけている。要は飢饉による戦争を避けたいのだが、無論3カ国ともメリットしかないのですぐさま同調した。
その間に、イスカルイ王国では、N大学の調査団が国中を調査して、地勢、植生、動物・昆虫、気候などの自然環境、人口、都市分布、政治・経済・産業などの人的環境を調べ上げ、今後の経済成長計画に生かすデータベースを構築している。
この間に、日本とアメリカ、イギリスの外務省は、イスカルイ王国のみならず、リンドル王国にコサンド王国、タイラー皇国とも国交を結んだ。この内容は、両国は交流するということで、人の出入りと通商を許容して、地球側の3国はイスカルイ王国他の3カ国の経済発展に協力するというものである。
そして、3カ国はイスカルイ王国には大使館を設置し、他の3カ国には駐在員事務所を設立している。コミュニケーションは基本的に、話し言葉は日本語と英語から大陸語の翻訳ができるスマホによっている。書き言葉も、日本語と英語から大陸語の初歩的な自動翻訳はできるが、まだ誤訳が多い。
現状で、どちらも完璧に近いのはレイナのみであり、N大学の言語学の新名彩香准教授が書き言葉はできるが、会話はややつたないという状態である。従って、国の間の公式文書はレイナと新名彩香准教授が2人で添削している。
調査に当たっては地図が極めて重要であるが、すでに人工衛星が3基打ち上げられて、ミズルー大陸の衛星写真は出来上がっている。さらに、カガルーズ世界全体の状況の概要も判明している。
その結果に元づいて、宿舎ゾーンに隣接して出来た会議場の小会議室で、『カガルーズ世界の概要』と称した説明会が開かれた。これは、イスカルイ王国の国王カ-マイン・ジズラ・イスカルイ3世と王太子オミルクに王国の大臣連に高位の貴族達20人ほどが集まったものだ。
ところで、王と王太子は王宮からここまで、日本政府が贈った特注のランクルでやってきている。本来であれば、王室の馬車の前後に50騎ほどの騎士に守られてくるのである。だが、防弾ガラスのランクルの方が早いし安全ということで、最近はランクルで出歩いている。
ちなみに、王都の道路は土魔法で固められており、主要道路はコンクリート舗装のように滑らかである。だから、王宮から宿舎ゾーンまでの幅20mで5㎞の道はランクルだと殆ど振動がない。しかし、歩行者や馬車や荷車が通っているが、クラクションを鳴らして人や馬車を避けさせる。絶対王政の国だからできることだ。
小会議室は壁の1面に200インチの画面が掛けられており、説明役の長瀬地文学科教授が、挨拶の後にまず惑星カガルーズの半球を映す。なお、半球は1基しか飛ばしていない静止衛星の画像なので、裏側はない。
「「「「「おおー」」」」」
彼等は地球の半球の映像はすでに見ているが、「これが、惑星カガルーズの半球です」という言葉に思わず嘆声が出る。長瀬は日本語で喋って、それをスマホのアプリで翻訳しているが、まだ翻訳ソフトは初歩的なものなので、レイナが都度補足している。
「直径は1万3千㎞ですから、地球より少し大きいですね。重力加速度は9.9m/秒でこれも地球よりわずかに大きいです。自転の速さは24.5時間/周、太陽の周りの公転速度は452日と10時間です。
こちらの半球には3つしか見えませんが、大陸は5つあって、この北半球にあるミズルー大陸は2番目の面積です。また、陸地の面積の割合は35%です。大気の圧力は1,055ヘクトパスカルで、やはり地球より高めです。大気中の成分は酸素が21%であり、窒素が残りの殆どです」
長瀬が一旦言葉を切るが、その間に説明の単位などをレイナが説明している。
「さて、これが、ミズルー大陸の写真です。このように北を上にして、東西に7千㎞と長く、南北は3千4百㎞とその半分程度です。緑の森の部分が50%ほどですが、中央部が砂漠になっていて、北は雪や氷に覆われて白くなっています。
イスカルイ王国は、大陸の南東部であり、頂いた地図と、こちらに来て測量した結果から国境を示すとこのようになります。
また、リンドル王国にコサンド王国、タイラー皇国について、頂いた地図から国境を描くとこのようになりますが、それらの地図の縮尺、方向などのゆがみが大きいので余り当てになりません。
その意味では、イスカルイ王国については、国境は接している国と調整する必要はありますが、都市の位置や、山頂の位置は測っていますので、中の配置は合っているはずです。そして、この写真から起こした地図はこれです」
「「「「おお」」」」
海岸線、川、湖、都市や農地、山地を線図で描いた地図の映像が現れ、会場が沸く。
「この国境線が正しいとすると、形は概ね円に近く大体直径は750㎞位で、面積は43万㎢ほどですね。私どもの国日本が37万㎢ですから少し広いということです。しかし、皆さんが大森林と言っている森が7割を占めていますから、それほど居住に適している面積が多い訳ではありません。
また、森林がこのように人の居住区を分断しています。ですので、魔獣が住むという森は危ないので、こうした森林は切り開きたい所です。
そして、南で200㎞ほどが海に接していますので、将来ミズルー大陸の別の国々や別の大陸と交易する場合には便利です。さらに、今回我が調査団が、お国の土魔法士の方々の力を借りて発見した鉱脈を含めて、様々な金属などの資源の鉱山の位置はこのように示しています。金、銀、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン、コバルト、アルミニウム、石炭、石油などと実に多彩です。
以上が概略ですが、私の説明になります」
そこで、国王カ-マイン3世が立ち上がり拍手をして口を開く。
「素晴らしい、素晴らしい内容だった。衛星を打ち上げてこのような貴重なデータを取って頂いたことに感謝したい。ところで、先ほどの『写真』は、先日打ち上げた『衛星』で撮ったものかな?そして、それは今も我がカガルーズの周りを周回しているということかな?」
「はい、陛下その通りです。最初のものは高度36,800km、次のものは高度500㎞の高さで撮影しました。高度36,800kmの高さであれば、静止衛星として常時このミズルー大陸の上空に滞空することになります」
長瀬が答えると、国王は更に口を開き感謝の言葉を述べる。
「解り申した。ちなみに、最後に配置を見せて頂いた鉱山の地図は大変ありがたい。これらの鉱脈の発見についてはすでに報告頂いた。しかし、まだこの地図が完成していなかった。このようにみると、わが国も中々に資源があることが判る。
これは、サカタ殿が、地形から調査する地点を絞って頂いたお陰である。そして、金については、すでに発見した鉱脈から340トンもの金塊を抽出できている。しかも、まだ坑道を伸ばせば、さらに採取できるとか。
実のところ、わが国は経済成長のために日本から買いたいものが沢山ある。その原資に悩んでいたのだが、この資源のお陰で目途が付きそうだ。サカタ殿のチームの皆、それに土魔法士による効率よい探査と抽出の手法を見出した、レイナ嬢と、ミーダイ師に感謝する」
その後、暫定的に出来上がった地図によって、都市計画学科美山教授が、国つくりのグランドプランの骨組みの概要を述べる。これは案を出して、国としての意向を汲もうという意図のものである。
「貴イスカルイ王国はこのように、円形に近い形であり、中心に首都イスルーがあるというネットワークとしては理想的な形状です。これは国土において、物流と人の流れを作る交通ネットワークが重要ですが、この形であれば放射状に道路などを巡らせば、最短で都市間を結ぶことができるからです。
しかし、現状においてはそのネットワークが、魔獣が住むという大森林で分断されています。ですから、この部分、この部分、この部分の森林は切り開く必要があります。聞くと、最近もたらされた魔道具で森林の魔獣の退治ができるとか。ぜひこれらの部分を切り開いて、ネットワークを完成して貰いたい」
レイナが判り難い部分を補足して、さらに美山教授が続ける。
「また、都市間のネットワークの他に、産業上の条件の整備も必要です。先ほど長瀬教授が示した資源の位置はその一つであり、それらの大規模なものは、先ほどの交通ネットワークに接続する必要があります。さらに、農業については水が必須であります。
幸い、イスカルイ王国では、年間雨量が平均2,000㎜余と大変多く、中心を縦断して大河が流れ、そこに流れ込む支川も多いため、灌漑設備の設置は容易です。そして、すでに、王国の手で土魔法士によって灌漑で設備は鋭意整備されつつあります
私共の調査団の農業系のものが、お国の灌漑設備の計画を見せて頂きましたが、殆ど妥当なもので、いくつかの点について、助言させて頂いたことで足りております。なお、農業においては肥料も極めて重要であります。この点は、すでに魔道具により3大栄養素である窒素、リン、カリウムの製造工場を建設中です。そしてその規模は、イスカルイ王国のみならずリンドル王国などの需要も含んだものです」
美山教授の説明に対して、建設大臣のヒラーム侯爵から質問があった。
「交通ネットワークと言われるが、それは当然道路も含まれようが、お国にある鉄道はどうなのかな。また飛行機は?さらに、川を使った船はいかがかな」
「はい、首都を起点とすると、最も遠い位置は港湾都市のキラーマイルで420㎞です。後は300~350㎞で、国内の飛行機は不要でしょう。私は道路は勿論ですが、鉄道も引くべきと思います。船については、部分的には可能ですが、鉄道があれば必要性は低いと思います」
美山教授が答える。その後も次々に質問が出て、会議は2時間を超えて続いた。
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