3-11 大学院生たちの異世界2
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地質鉱物学科の坂田圭吾准教授が率いる院生5人と本人は、新築の宿舎の小会議室で集まっている。宿舎ヤードには宿泊棟10棟、食堂・管理棟が1棟があり、小会議室は食堂管理棟にある。彼等は、昨日宿泊棟の建物本体と同じものが、2人の魔法士の魔法によって僅か8時間で建つところを見ている。
「それにしても、坂田先生、魔法って凄いですね。昨日の魔法を見て感動しました。建てていたあれは14m×32mの平屋でしょう。日本だとどの位の期間かかるんでしょうね」
修士1年の三宅良治が言うと、2年の田宮芳樹が応じる。田宮は叔父が工務店をやっていて、高校・大学と建築のバイトをやっているので、その分野には詳しい。
「用地を均して転圧して、砂利を敷いて、基礎と壁の縦の鉄筋を組んで基礎コンを打つ。それから、壁の鉄筋を組んで型枠を設置して、壁のコンクリートを打つ。コンクリートが乾いてから壁の型枠を外す。さらに天井の鉄筋を組んで型枠を設置してコンクリートを打つ。
さらに、コンクリートが乾いてから天井の型枠を外すと外形は昨日作ったものになる。だから、大体2ヵ月だな。それも、結構な資材費がかかる。昨日のあれ、人件費だけだろう?とんでもなくコストは低いよな。でも、全体の建築費は半分位かなあ。設備はこっちでは出来んし、ガラスもまだ日本から持って来ているしね。でも叔父貴はあの魔法士を雇いたいだろうな」
「ああ、僕も昨日のあれには驚いた。しかし、昨日もレイナ君が言っていたが、魔法士に対しては人工魔石による魔力のブーストがあればこそあの早さだ。その意味で、1年以上魔石作りに苦労した応用物理学科の名波先生のお陰だぞ。
まあ、でもあの魔法による建築を見ると、魔法を使えば鉱山を開発する時は楽だろうな。それに、土魔法士は土を触ると、その礫と砂や土のばらつきに、土の質とかの構成が解るらしい。昨日聞いたら言っていた。だから……うーん」
坂田の言葉に、2年の田上瑞希が半ば立ち上がって机から身を乗り出し、坂田に向かい口を開く。
「ええ、私も聞いていました。それが出来るのだったら、鉱脈のある所に行って、地層に触れば構成している鉱物を含めた構成が解るのでは。深さにもよりますが、金とか銀それに他の金属は土とは随分違いますよね。だから、土の構成を探査出来る魔法士の方に、地層と鉱石のことを学んで貰うのですよ。
そして、サンプルを触って感じてもらっておけば、見つけるのは容易なのではないですか?そして、彼等は魔石で魔力をブーストできます。もし、これが可能なら、地球でもやって貰えますよ。鉱脈を見つけるのは運の部分が大きいですからね。そこに魔法による資源探査!どうです?」
「う、うん。そうだな、そうだ。まず、やってみよう。そのためには魔法士の協力者を探さなきゃ。レイナ君は忙しいだろうから、弟のアーク君に聞いてみよう」
坂田は、まだ自分では漠然と考えていたことを、纏めてしまった瑞希に内心驚いた。
しかし、魔法士に協力して貰わないと始まらないので早速アークに連絡を取る。なお、宿舎ゾーンの地域とレイナの住むカルチェル邸及び王宮にはスマホが繋がる。
彼等のスマホには、初期版ではあるが、日本語とミズルー大陸語の翻訳ソフトが入っているので、イスカルイの人とはほぼ意思疎通ができる。そして、カールはまだ学生の身ではあるが、いいチャンスだからということで、レイナのアシスタントを務めていて、調査団のコーディネイトに当たっている。
「もしもし、アーク君?坂田です」
「はい、アークです」
アークは大陸語対応のスマホを持っており、ある程度日本語は喋れるようになっている。そして、調査団の主要なメンバーは連絡先に入れているので、スマホに着信があると誰からかは判る。
「はい、アークです。サカタ先生ですね、なんでしょう?」
「はい、私達の調査で土魔法士の方の協力をお願いしたいのです。もしかすると、資源の調査が凄く早くなるかもしれません。ですから、土魔法士の方を選んで暫く協力頂きたいと思います」
坂田はできるだけ平易に喋った。
「ええと、土魔法士を選んで、暫く一緒に行動してほしいということですね?」
「はい、そうです。その通りです。その目的は、金などの在り処を早く確実に探ることです」
「なるほど。土の魔法士がいれば、金などの在り処を探ることができるということですね?」
「ええ、それが目的ですが、まだそれが出来るかどうか判りません。ですが、もし出来たら、我々の調査はずっと早く進みます」
「わかりました。ちょっと、魔法士のことですから姉に相談してみます」
「はい、ではお願いします」
アークは、王宮のレイナの事務室で、レイナと秘書の妹のミランダと一緒にいて、コーヒーを飲んでいる所だった。コーヒーはレイナが日本で気に入って、大量に持って帰ったものだ。アークとミランダも付き合うが、アークは砂糖なし、ミランダはスプーン3杯入れた位でちょうどいい位である。
「姉上、坂田様から着信があり、土魔法士を欲しいということです。つまり、土魔法士だったら、金などを探せるということですが、どうですか?」
アークの言葉に、レイナはなるほどと思った。彼女は全属性なので土魔法も使える。そして、土魔法士が土から家を建てるのを見ており、その際に土の状態を探ってから、その形質を変化させることも知っている。彼女も軽く真似てみて、深さ方向で数mの土の状態を探ることが出来たのは経験している。
『その際に金などを分類できるか?できるな。触ったことのある鉄、金、銀、銅、亜鉛などの感覚には覚えがある。どの程度の範囲が可能か?やってみるか』
「アーク、ちょっと出てくる。今連絡のあった件で坂田さんに会って来る。すこし時間がかかるかな」
そして、レイナはスマホを出して、坂田を呼ぶ。
「もしもし、坂田先生?」
「ああ、レイナ君、早速だね。さきほどアーク君に頼んだ件かな」
「ええ、私も土魔法は使えますので、少し試してみます。今先生はどこに?」
「今は宿舎ゾーンの食堂・管理棟だ」
「では、その玄関前に行きます。そこで、実際に試してみましょう。それで、探査が進むなら、これは重要なことです。なにしろ我が王国は貧乏ですから」
「え!行くって?」
「ええ、転移ですからすぐです。私の方が早いですよ」
坂田は、机の上の書類を整理して片寄せ、皆に向かって言う。
「おい皆、レイナ君が来るんだって、試してみるってさ」
皆は坂田の電話を聞いているので、中身は承知している。だから否やはなく、貴重品を持って部屋を出て玄関に向かう。
レイナの王宮オフィスでは、「ではね。そう1時間もすれば帰ってくるよ」そう言って、レイナはドアを開けて廊下に出る。部屋の中で転移すると、人がいた空間に空気が流れ込み、突風が吹くので禁止されている。だから、転移に出発・到着共王宮では外かベランダで行うことになる。
レイナが食堂・管理棟の玄関に出現したときには、丁度坂田のチーム6人が玄関を出た時であった。
「はーい、レイナさん。忙しそうだね」
瑞希が小さく手を振ってにこにこしながらレイナに駆け寄る。大学で、瑞希からレイナに積極的に近づいて、彼等は友達になっている。
「はーい、ミズキ。どう私の故郷の王国は?」
「うん、空気がきれいだね。気候もいい。でも、まだダサいね」
「うん、だから、そこを変えるんだよ。さて、坂田先生、先生の考えた探査をやってみましょう」
「ああ、レイナ君。早速ありがとう。しかし、このアイデイアはどちらかと言うと、田上君からだね」
「へえ、ミズキ凄いじゃない。私こそ思いついて良かったんだけどね。さて、やってみましょう。ケイ素やカルシウムの他、金、銀、鉄、銅、亜鉛、スズ、アルミ、マンガン、ニッケルそれに石炭・石油程度の見分けはつきます」
坂田は期待に満ちた目でレイナを見ている。
「ふーん。全金属の見本があれば、それらも判るかな?」
「ええ、そうですね。実際にやる時は、出来たら見本を傍に置いて探査するのが一番かな。まあここでやってみます。魔石を使って全力で魔力を使って、どの位の範囲を探れるか確かめたいと思っています」
レイナは腰に付けている魔石のケースに触れ、「探査!」とつぶやき、魔力を全力で振り絞って地面に意識の針を突き込む。彼女は約10分ほどの間、最初は真下、更に段々回しながら横に振って、届く限りの距離で意識を巡らしていく。その中で淡々と述べている。
「うう……。ケイ素、アルミ…、鉄…、カルシウム…、…………、マンガン、銅、亜鉛、石炭……、金…、銀…」
レイナはしゃがんだ姿勢の見るからに集中している状態から覚めて、直立して閉じていた目を開けて口を開く。
「うん、疲れるけれど、確かに鉱物は微量でも見分けがついて解る。ほとんどはケイ素、アルミウム、鉄、カルシウムで後は微量です。特に金や銀はごくごく微量の細かい粒です。ただ、固まっていればすぐ判ります。ええと、深さ150m位はいけましたので、半径が150mの半球状に探査が出来るということです。
これはいいですよ。土魔法の探査は使えますね。ただ私は時間に余裕がありませんし、土には慣れていません。私は、宮廷魔術師のエニーナ・ミーダイを推薦します。宮廷魔術長に話は付けておきます」
坂田はそれを聞いて、大喜びして言う。
「おお、それは凄い。結局資源探査は鉱物を直接見つけないと無理なんです。だから、様々な方法で地層によって見当をつけて、ボーリングで地層を採取して確認するわけです。それが、深さ150mの範囲の鉱物を、魔法で探査できるということは凄いことです。それで、レイナ君は魔力が最大級らしいですが、他の魔法士も魔石を使えば、同じくらいの深さの探査可能ですか?」
「うーん、普通の土魔法士は魔石を使っても私ほどはちょっと無理かも。100m位かな。ただ、エニーナだったら私位はいけますよ」
そこに、瑞希が口を出す。
「ええと、レイナさん。土魔法使いは離れた所から土の形質を変化させますよね。だから、探査した鉱物を魔法で抽出して引き寄せられないのですか?」
腕を組んで考えこんだレイナは、やおら地面にしゃがみ込んで呟くように言う。
「抽出!」
すると、その手に5cmほどの径の銀色のボールが現れた。
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