3-9 大学院生たちの異世界1
読んで頂いてありがとうございます。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
田上瑞希は、地質鉱物学科の修士1年であり坂田圭吾准教授の教室に属している。専門は要するに鉱山学科なのだ。この学科を卒業すると就職先は、稼働している鉱山の管理もあるが、鉱石を求めて原野を巡って探すフィールドワークも多い。その意味で、女で鉱山学を目指すものは少ない。
しかし、瑞希は父が趣味の様々な鉱石を集めて幼い自分にそれを教えてくれたことから、鉱石大好き少女になってしまった。ちなみに、父の春樹は文系の大学を出て、公務員をしているから、鉱石は本当の趣味である。だから、母は瑞希が反対を押し切って地質鉱物学科に願書を出した時はこう苦情を言った。
「貴方があんながらくたを集めて、瑞希にとくとくと自慢するから、娘が地質鉱物学科などにいくのよ。女が山師をしてどうするのよ。それだと、海外の山の中の現場に行くなんてことになるわよ」
そこは父も心配らしく、『海外のフィールドワークは止めておけ』と言っている。だが、瑞希は決めてはないが、まだ選択肢としてはあると思っている。
何といっても、現場に行って凄い鉱脈を見つけてみたいというのが彼女の願いである。だから、鉱山跡など自ら巡るし、研究室の坂田准教授に率いられて行く、日本で廃坑になった鉱山周辺の鉱脈などの探索は大好きである。
ちなみに、彼女は身長が165㎝、52㎏あって、毎朝10㎞のランニングをして、合気道と杖術を習っており合気道は3段、杖術は2段である。そのお陰もあってか、彼女の体は均整がとれており、ボインでもあって、顔も整っていて可愛いと言われる。
なのに、ボブカットで大体はジーンズにシャツ或いはジャケットであるため、どう見ても女らしいとは言えず、むしろ女アスリートに見える。これは、フィールドワークに備えている訳で、合気道だってちょくちょくやっている単独での山歩きで、危ないと言われてそれならと始めたものだ。
実際に山で2人連れに襲われたことがあったが、状術で返りうちにしている。
瑞希は、異世界に調査に行くという話を、研究室のゼミの時に聞いて思わず聞き返した。他の5人のメンバーも大いに興味を惹かれ、聞きたそうだったが彼女が機先を制した感じだ。
「ええ!坂田先生、それはどういう予定で、どういう構成なのですか?」
瑞希の問いに坂田が最初は淡々と、だんだん熱を込めて応える。
「うん、これはレイナ君の故郷であるイスカルイ王国の要請があるので、優先順位が高い。元々は、まずイスカルイ王国の地勢、社会・政治・経済などの調査を行って現状の把握をする予定だった。その現状に立脚して、社会の近代化と経済成長を促すための諸施策を策定するこという予定だ。
その調査は、当初は本学だけでやろうとしたんだ。業界の後押しもあったからね。だけど、国が前面に出てきてしまって、他の国内大学や研究所さらには米英も巻き込むことになった。だから、だんだん規模が大きくなってかつペースが早くなった。
例えば、まず現地で衛星の打ち上げをやることになった。これは惑星カガルーズ全体を荒く、ミズルー大陸については詳しく衛星写真を撮って地図を作成することになる。とは言え我がN大学は1年ほど前からそれなりの準備をしてきたので、やはり乗り込むのは最初だ。
まずは、人文社会環境、自然環境、政治経済、インフラなどについて12チームが最初に乗り込む予定だった。そして、わが地質鉱物学科つまり資源探査は、半年ほど先の2番手となるはすだったのだ。しかし、イスカルイ王国から強い要望が出されたんだ。現在の金鉱山と、有望そうな金鉱脈のある地層の調査を至急やって欲しいとね。
これは彼等は、地球世界から買いたいものが沢山ある訳だ。まあそうだよね。そして、その代価で手っ取り早いのが豊富な金ということらしい。イスカルイ王国には金山が3つあるが、レイナ君に言わせると、魔法を使って掘ってはいるので、昔の江戸時代よりはましらしいが、原始的ではあるらしい。
だから、既存の金山は拡張して増産したいということだな。まあ、我々も金探査ばかりでは困るが、全く未知の大地だから、他の金属や石油、レアメタルもついでに見つかる可能性は十分ある。なにより、全く未知の地を踏めて、探索できる点は嬉しいと思っている」
最後は、目を輝かせて言う坂田に、瑞希は全く同感であった。そこに修士2年の三宅良治が勢いこんで坂田に聞く。
「先生、我々も是非行きたいです。ですが行けますか?」
「ああ、ここにいるメンバーは希望すれば行けるよ。現地行きは単位にするから、卒業に問題ないようにする。それで、予定は7月25日の月曜日出発になっている。あと20日だな。出発は大学で費用は基本的に政府持ちで要らないことになっている。どうだね、希望するか?」
「「「「はい、希望します!」」」」
皆一斉に手を挙げて参加希望を伝える。それを満足そうに見て坂田は更に説明を続ける。
「そうか。ええと注意事項を言うとね。現地はやはり日本に比べて危ない。人に関しては盗賊などの問題はないそうだが、森林のそばでは魔獣が出ることがあるらしい。だから、各人が結界の魔道具を支給されることになる。その装着と使い方の訓練は出発までに行う必要がある。
それから現地の移動だが、我々の場合には遠距離はヘリコプター、オスプレイだな。そして近距離はミニバイクだ。ミニバイクについてはフィールドワークに使うということで、君らは乗れるはずだな?」
「「「「ええ、大丈夫です」」」」皆声を揃えて頷く。
「それと、我々みたいな奥地でなく人里に行く班は、ランクルを使う。そして、機材食料や諸々の運搬にMストレージの100㎥の小型版を各班に割り当てるとのことだ。我々の場合には機材がちょっとあるので2つだな、それがあるので、バイクを含めて荷物の運搬は心配ない。
ただ、Mストレージは自衛隊で使っているけれど、一般には使用禁止の魔道具だからね。扱いには気を付けて欲しい。当面は僕が管理するけどね。
また、護衛がつく。現地の騎士団の団員が我々2人対して1人位つく予定だ。彼等は剣や槍の他に雷の魔道具を装備しているから、実力的には問題ないはず。そして、彼らの移動にはミニバイクを使うので、その猛訓練をしているはずだ。しかし、君らも体力は使うから、出発までは体を鍛えておけよ」
そこで、瑞希は手を挙げて聞く。
「先生、我々に結界を魔法具と言われましたが、もうできたのですか?」
「ああ、魔道具そのものは出来ていたんだけど、大型を軍事用に試作している段階だったらしい。しかし、各人用だとMラジエターが必要なのでは人が運べないだろう?」
「ええ、あれも持って歩くのはちょっと困りますね」
「それで、漸く魔石の合成が出来たんだ。だから、まあ個々人で持てるようになったという訳だ」
「ははあ、なるほど。随分手こずっていたらしいですが、応用物理学科の名波先生頑張ったのですね」
「ああ、今回の調査には非常に助かる。キュアラーもMラジエター無しで使えるからね」
「ところで、向うの宿はどうなっていますか?」
修士2年の、瑞希の先輩だが、同様に学科に入ってきた変り者の女性である岸田涼子が聞く。彼女は瑞希ほどワイルドでないので、宿は女性としては気になる所だ。
「ああ、土魔法で長屋式の宿舎を作っているらしい。1部屋に2つのベッドで、バス・トイレ付だ。これは近い将来地球からの観光客を呼ぶための中級ホテルにするつもりで、それなりらしいよ。だから、電気や水回りは日本の設備を入れているし、食堂で食事もできる。
ただ現地では今の所、調味料を使い慣れていないので、余り味は期待しない方がいいらしい。
だから、インスタント食品は持っていったほうが良いな。しかし、その宿舎は王都の拠点のみであり、我々のような山に入り込むような場合には、テントでなく2人が住める箱型の小屋を持っていく。テントでないだけMストレージの有難さだな。バスト・トイレのユニットもある」
今度はさらに瑞希が聞く。
「ところで、イスカルイ王国の人が護衛に付くということですが、いざというときのために、我々も武器を持たなくてもいいのですか?」
坂田が腕を組んで考えて応じる。
「うーん、武器って何を持つんだ?まあ、杖術2段の田上君は杖、剣道3段の松浦君は刀を持っていってほしいな。しかし、しかし素人が刀を持つのじゃ危ないし、銃を持つと周りに対して危ないし、雷の魔道具は魔力を持たない者が持っても意味ないらしいしね。
ただ、結界の魔道具と言っても、中位の魔獣にはO.Kでも滅多にでない強力な魔獣では耐えられないらしい。それに、護衛の人と言葉の問題、結界を張るタイミングの問題もあるし、日本語の判る護衛も欲しい所だな。この点は明日会議があるので、話してみるよ。何かあってからでは遅いからね」
その後、異世界行きに参加を希望したメンバーには、参加要領が配られた。成人の瑞希は親の承諾は必要なかったが、やはりちゃんと父母に承諾を取るべく説得した。
「はあ、異世界、イスカルイ王国のそれも奥地に行くのでしょう?魔獣がうようよいるらしいじゃないの。危ないので止めたいけど、どうせ瑞希は私のいうことなど聞きはしない」
母が拗ねたようにいうのに、瑞希は悲しそうな顔を作って返す。
「ええ、止める訳にはいきません。皆に迷惑をかけてしまう。ごめんね、こんな娘で。お母さん」
ちょうどその時、ニュース番組で、N大学のメンバーが異世界に行くとの放映があり、国が主導しての話であることが解説された。拗ねていた母もそれを見て諦めて言う。
「まあ、これほど騒がれることのメンバーに選ばれたのだから、喜んでやらなくちゃいけないのね」
作者のモチベーションアップのため、ブックマーク・評価をお願いします。




