3-2 次元ゲート開く
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次元ゲートが開いた。日本側は、N大学の医学部の第23診療室であり、イスカルイ王国側はカルチェル伯爵家の王都邸の居間である。今回は疫学的検査を徹底することにしたので、出発側が医学部になったのだ。ただ、その後は工学部の空き教室303教室に移す予定になっている。
レイナが出現したとき、実の所医学部に行って詳しい検査をするべきであった。しかし、間島からの異世界のレイナの話には半信半疑であった。このため、医学部から風早良治准教授が間島邸に駆け付けた時点では、簡易検査キットを持って行っての検査を行ってO.K.と判断したのみであった。
無論後にレイナは医学部で精密検査をして、いかなる面でも伝染性の感染症には罹患していないことが確認されている。今後、イスカルイ王国には、レイナ以外にも多くの日本人が行く予定にしており、それらの人々が病原菌を持ち込まず、罹患して持ち帰らないことを担保する必要がある。
ただ、レイナがすでに日本にやってきて安全であったし、日本で風邪すらひかず、病気になることもなかったという実例がある。このため、防護服を着ていくようなこともなく、レイナがまずゲートを潜り現地に行って、検査キットでサンプルを取って持ち帰り検査することに落ち着いた。
レイナは、ゲートをくぐる前に女性医師の佐竹准教授が触診を含む検診を行い、血液、唾液のサンプルを検査に回すために取った。その後、医学部からの3人の他、香川名誉教授と間島他工学部の5人ほどが見送る中をゲートに向かう。
ゲートの操作を行うのは女性の佐知准教授である。その横に、彼女と協力して100を超える魔道具を作って漸く次元ゲートにたどり着いた片山が見守っている。片山は、魔道具の開発を効率化したということを評価されて博士号を取得して、助手から准教授に昇格している。
「次元ゲートON、レイナさん、座標を合わせて!」
佐知が大きな声で言い、ゲートの門の部分に意識を合わせたレイナが「はい!やってます!」と叫ぶ。そして脳裏に、少女時代を過ごしたなつかしい自分の部屋を意識に浮かべる。そして、それは意識に鮮明に浮かび、ゲートにも同じようにクローゼット、机、ベッドがある落ち着いた部屋がはっきり見えた。
レイナは頷いて皆を振り返って言う。
「うん、私の部屋です。それでは皆さん。そう3日間お別れです。佐知准教授、3日後にお願いします」
ちなみに彼女の服装は、間島邸に現れた明るい色のワンピースのドレスである。日本のものに比べると、布そのものの品質が劣る。
「解った。ここの座標は記録されたから。3日後にね」
佐知が頷いて言うのを確認して、レイナは部屋の全員と目を合わせて別れを告げる。
「では皆さん。3日間のお別れです。3日後に現地で話をつけて、さらにサンプルを持って帰ってきます。
ではさようなら」
そして、自分の部屋を向いてゲートにかかっていて、すこし抵抗のある半透明の膜を超える。そして
再度振り向き手を振って言う。
「佐知さん。ゲートを閉じてください」
「了解、ゲートを閉じます」
佐知がスイッチを押すと、ゲートの中はぱっと切り替わり、部屋の景色から透明になって、部屋の反対が見えるだけだ。
レイナは、懐かしい部屋を見回した。ベッドカバーを含めて全てきちんと整えられ、綺麗に掃除がされている。机の上には、読みかけの木版画の本が載っており、ペンはキチンとペン立てに立てられている。
『私が帰って来るのを信じて頂いたのだ』
そう思ってレイナは涙が溢れてきたが、いつまでもこうしてはいられない。彼女は腕時計を見た。勿論日本で買ったものだが、地球の1日24時間に対し、カガルーズ世界は24.5時間である。だから、イスカルイ王国では、今後毎日0.5時間ずらす必要がある。
ちなみに、自分の父の伯爵のチャール、母マリアヌに兄リチャド、弟アーク、妹サンドラとマリーには地球からカガルーズ世界の時間に合わせた腕時計を買ってきた。こちらは、1日10時であり、1時は10分、分は10秒である。
時計は文字盤を作り、針を電子的に制御してその制御部分の開発を頼んで3千万円かかった。その代わりに男女用各1,000台を2千万円で買ったので、時計1本当たりは2万5千円である。
などと、レイナが感慨にふけっていると、ドアがガチャリと開いた。
母だ、懐かしい母だ。ドアを開け放ったまま、部屋に踏み込んでくる。
「レイナ!帰って来たのね」
小柄な母が、広げた腕の中にレイナが駆け寄って抱き着く。
「お母さま!会いたかった、会いたかったわ!」
お互い抱き合って涙が零れるが、そこに一番下のマリーがやってきて、横から抱き着く。大体において、ミズルー大陸では女性の方の魔力が高い傾向にあるが、カルチェル家では、レイナ、母、マリーの順になっている。彼女らはレイナの魔力が現れたのを感じて、やって来たのである。
その日レイナが出現したのは夕刻であったので、母と2男のアークに妹のサンドラとマリーとの夕食である。父チャールは、長男リチャドと一緒に領地にいるのだ。領政という仕事だけど、面積は1200㎢で人口は10万人だからちょっとした市である。だから、その行政の手間は半端ではない。
15人ほどの王都邸の使用人とも挨拶をかわしたが、殆ど人の出入りはなかったようだ。レイナはMストレージに入れた業務用冷蔵庫に野菜、肉、魚を満載して持って来ている。さらに、別の収納庫に小麦粉、米、イモ類、各種食料油、塩、砂糖、醤油、ソース、マヨネーズ他の調味料を大量に持ってきている。
だから、邸の調理人を指揮して、それらを使って料理を作った。母、弟に妹たちは冷蔵庫の存在、大量の食糧や様々な食品に目を丸くして見ている。さらに、レイナがそれらを使って、調理を作るのをテキパキと指揮するのにも驚いている。前には料理などしたことが無かったはずなのに。
そして、外が暗くなった後の食堂を見渡してその暗さに驚いている。こちらにいる時は、暗いと感じなかった30W位の明るさの魔灯2つの明るさは、30畳ほどの食堂では日本の照明に慣れた目には全く暗い。母や弟妹は照明を見て頭を振っているレイナを見て、首をかしげている。
そして、彼女がくにゃくにゃ曲がる線がついた2つの球を取り出し、それを使用人に指図して魔球の取り付け具に固定させるのを見守る。そして、その線の端の尖ったものを箱に差し込むと部屋がいっぺんに昼間のように明るくなった。LEDの100W電球2つに照らされた食堂は、日本の夜間の照明に劣らない。
「さて、じゃあ、出来た料理を持ってきて!」
室内にいて、その明るさに呆然としている使用人たちにレイナが声をかけると、彼等も気を取り直してキッチンから食堂に料理を運び始めた。
「レイナ姉上、凄い魔法ですね!」
すでにレイナより背が高くなった弟のアークが声をかける。
「いいえ、これは魔法じゃないのよ。私のいた日本にある魔道具でない道具です」
「魔道具でない道具?」
サンドラが反問する。
「ええ、日本には魔法や魔道具はなかったの。でも私が魔道具を持ち込んで、それを使えるようになったわ。でも、食事もそうだけど、このような道具によって日本は私たちの王国よりずっと便利よ」
レイナは頷いて応じる。彼女は皆に、魔法を失敗して日本に飛ばされ、1年半の間そこに居たことは説明している。
そこに続々と台車に載せた料理が運ばれてきて、テーブルクロスに覆われたテープルに配置される。酒は、ビールとワインを用意した。酒精の強くない王国の酒類は、12歳以上は許されているので、最年少の10歳のマリー以外は飲める。だから、マリーにはオレンジジュース、他はビールで乾杯である。
レイナは、日本で20歳相当以上ということで酒は解禁であったが、基本的にはビールか同程度のアルコール度のサワーしか飲んでいない。母には後に日本のワインを勧めている。
「新しい料理も、しっかり見えた方が良いでしょう?さあ、召し上がれ!」
レイナが、飲み物の説明後に、簡単でこちらでは珍しい料理として、唐揚げ、醤油味の魚の煮つけ、野菜炒めなどを都度説明しながら食事が進む。見慣れない料理に、恐る恐るナイフで切り、フォークで刺して食べる皆であったが一口食べると夢中になる。
女性陣は満足そうに食べ終わっても、食べ盛りのアークはまだ一人夢中になって食べている。
「アーク、まだデザートの果物やアイスクリームがあるわよ。そのへんにしたら?」
「あ、ああ、しかし、本当に美味いね」
「当分は食べられるものは持って帰ったから、当分は食べられるよ。それに王国でもこれらは普通に食べられるようにする心算よ」
レイナの合図で、料理を下げ、スイカ、メロン、リンゴ、オレンジなどの果物を持ってくる。
「さて、これが日本で売っている果物よ。すこし値が張るけれど、平民でも普通に食べています」
そして、各々について切り口を見せながら、自ら切り分けて皿に盛って各々に配る。後には料理人にやってもらえるようにそれを彼等には見せている。
最後の締めくくりは、アイスクリームである。レイナが自ら冷蔵庫の冷凍部から大型の箱から掬い取って、ワイングラスに持って皆に配る。
満足して、ゆったりしている皆に声をかける。
「どうでした、私が行っていた異世界の日本の料理は?」
「うん、素晴らしい。それにさっきの冷蔵庫か。それに照明、そんなものが普通に使われている、日本に行きたい」
真っ先に口を開いたアークの言葉であったが、妹2人も料理は絶賛して、やはり日本に行きたがった。
最後に母の言葉である。
「私は王宮の晩さん会にも出席しました。それは華やかではありますが、これほどの多種類の美味しい味の料理はありませんね。特に果物はこれほどの物はありませんし。それにアイスクリームもありましたが、これほど滑らかではありませんし、美味しくなかったですね」
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