2-17 自衛隊の魔道具の活用
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自衛隊は、キュアラー、Mジェネレーター、Mストレージさらに空間ゲートによって装備改変を行っている。
キュアラーは、戦闘や作業で事故がつきものである自衛隊にとっては極めて有難いものである。実際のところ傷病兵は、その仲間にとっては殺されるより厄介な存在である。何故なら、その運搬・看病のために、他の数名も戦力にならなくなるからである。だが、きちんと回復するまで面倒を見ないと組織が保てない。
それは自分が負傷したらと思えば当然である。誰が、自分が負傷したら捨てていくような組織のために戦うかということだ。その意味で、キュアラーは非常に有難い装備である。これは即死しない限り、ほぼ助かるし、なにより怪我については重症であっても1週間足らずで回復する。
だから、これは自衛隊にはもっとも必要な装備である。そのため、自衛隊は当面駐屯地や部隊ごとにキュアラーとMラジエターを1~数十組備えることにして、前線部隊の配備は別途検討することにしている。その結果として配備後1年で、事故死になるべき者を2人救い、病気で重篤になりかけた隊員を5名救っている。
Mジェネレーターを、最も歓迎したのは海上自衛隊の潜水艦部隊である。自衛隊の潜水艦の動力は基本的にディーゼル機関とバッテリーの組み合わせであり、ディーゼル機関は充電に用い、推進は充電器を通してモーター駆動となっている。
最新の”たいげい”、“そうりゅう”型で出力は6千㎾であるので、Mジェネレーター1ユニットの2万5千㎾の出力で有り余る。このMジェネレーターは大体1.5m角のスペースに収まる。だからMジェネレーターを採用すると、燃料タンクを含めてディーゼル機関が必要なく、大容量のリチウム電池も必要ないので、内部はスカスカになってしまう。
さらに、二酸化炭素は化学的に吸着し、有り余る電力で酸素は発生させるので、乗員のための空気については長期間の潜水に耐える。ただ、潜水艦内では臭気の発生は避けられないと言われるが、その多くの原因はディーゼル機関の運転による。なので、Mジェネレーター駆動の場合は臭気は殆ど解決された。
しかし、自衛隊の潜水艦ではそれほど長期間の潜水が必要な場面はないため、潜行可能時間については過剰品質と言われた。とは言え、自衛隊は当面、リチウム電池搭載の潜水艦4隻をMジェネレーター駆動に改修して、その1軸のモーターの出力を12,000㎾に高めている。
この改修で、恐らく数十万㎞以上の連続航行が可能になり、先のモーター出力上昇と回転数を上げて水中速度を20ノットから30ノットに増速できた。また、最終的な推進形態としては、2軸での推進を行って、40ノットレベルの水中速度を達成することを考えている。
また、Mジェネレーターの更なる活用として、ヘリコプターとP3C対潜哨戒機オライオンを電動化すべく試作を行っている。この際のメリットは、何といっても乗員が耐えれば楽々と地球を1周できる航続距離である。その意味で大型機のP3Cは、居住性は良いので長時間飛行が可能である。
また、最大1,000㎥を収容できるMストレージも、自衛隊が大いに期待している魔道具である。古代においては、戦争は自分で持っていける武器と食料、それに現地での食料などの略奪で賄えた。一方で、近代において戦争は、略奪などやっている暇はないので、大量の重い兵器と弾それに食料を運ぶロジスティック(兵站)が極めて重要である。
従って小型輸送機で、1つで1,000㎥の物資を運べて、それをいくつも積めるMスレージが重要になるのは当然である。この場合の便利さは、当然飛行機、中でも狭い所でも降りられるヘリコプターが優位である。自動車でも無論、Mストレージは運べるが、飛行機は途中の地形は関係なく圧倒的に速度が勝る。
だから、ヘリコプターのMジェネレーター駆動が考えられているのだ。
また、航空自衛隊の考えたのは、攻撃機・戦闘機への多量の武器の搭載である。速度が速く地形に関係なく飛べる攻撃機は、陸上戦力や海上戦力に対して奇襲をかけやすく、逃げるのも速いという利点を持っている。だが、運べる量に限りがあり、このため攻撃の投射量が少ないという欠点もある。
それを補うためには、Mストレージは非常に有効である。なにしろ、自衛隊のF2攻撃機内でも載せられ、MストレージからF2のミサイルランチャーに直接移してセットできるのだ。空対艦ミサイルなら大体2㎥の容量なので、500発を収納できる。
このASM-2であれば、1発530㎏であるので、265トンの鉄量を投射できる。F2で投射できるのは最大4発なので比べものにならない。攻撃力で言えば、1機で120倍になるのであるが、1機だと撃墜されたら終わりなので120倍の戦力とは言えない。
だから、基本的には現実的な案として最小4機で1編隊として、各機50発搭載としている。ちなみに、このミサイルは1発5千万円なので、各機が全部撃てば合計25億円になるから、戦争は金がかかるのだ。コストが高いように見えるが、この装備なら、1機で敵艦を5隻くらいは相手取れるので十分ペイする。
とは言え、いつも予算不足の自衛隊であるから、コストを考えて、自衛隊では、Mストレージの収容力を生かして岩石の投下を考えている。空気抵抗を考えなければ、5,000m上空から岩を落とすと、32秒で落下し、速度は313m/secの音速程度になる。それが高さ10,000mだと45秒で落下し、速度は442m/secとなる。
径1mの球とすると岩の重量は1.3トン程度であり、それが音速で落ちてくると破壊力は半端ではない。1000㎥のストレージには1,000個位収容できるので、落下点をきちんと計算できるソフトを組めば、艦船程度には十分命中させられる。ちなみに径1m程度の岩は1個1万円程度である。
ただ、相手が艦船だと敵に艦砲やミサイルの迎撃能力がある場合が普通なので、高さ5,000mや10,000mでは攻撃可能範囲には入れない。その点では地対艦ミサイルは、140㎞程度の射程距離があるので、概ね安全に攻撃ができる。やはり、ミサイルは高価なだけのことはあるのだ。
そこで、岩を落とす質量爆撃は、相手が高空に対する迎撃手段を持たない可能性が高い地上戦闘の支援攻撃が適当と言う判断になった。これには、島嶼部への敵性の上陸部隊への攻撃も含まれる。また、爆発による広範囲の被害がない攻撃も必要ということで開発が決断された。
航空自衛隊の小牧基地から舞い上がったF2を操縦する海部芳樹2尉は、今回のミッションを楽しみにしていた。彼の機はタンデムであるので、後部座席には珍しい女子航法士である華屋佳代3尉が座っている。機内後部には、収納の魔道具である箱とMラジエターが設置されている。
Mラジエターの電源は機のバッテリーからであるが、容量は2時間ほどしか持たないのでエンジン駆動中はその発電機から充電している。しかし、Mラジエターの給電は最終的にMバッテリーにする心算で開発中である。すでに、機体の速度と位置を考慮して、Mストレージから排出された岩石を目標地点に落下させるソフトは出来上がっている。
この場合は、航法士である華屋3尉が操縦士に方向・高度・速度を指示して、適切なタイミングで岩石を射出する。射出高度は5,000mを予定している。今回の予定は10個ずつの射出を10回繰り返すもので、伊勢湾の無人島である峰島に、あらかじめターゲットとして74式戦車のスクラップを9両設置している。
峰島は長さ600m幅400の細長い島で、最高部である中央の標高は3m程度の無人島である。戦車は25m離して横に3列、縦に40m離して3列設置している。つまり、幅50m×長さ80mの範囲が目標になる。島の緑の草むらにオレンジに塗られた戦車は目立つが、5,000m上空からではアリ以下である。
この注目すべき最初の試験の視察のために10人ほどが、島から300mほど離れた輸送艦“しま”に乗って双眼鏡などを使って見ている。その日は、幸い伊勢湾の波が穏やかであった。視察者には、陸上自衛隊の中部方面隊から作戦部長の間宮1佐、また小牧基地から幕僚の神永1佐などが加わっている。
目標から100mほど離れて、地上に4台、空からドローンで4台のカメラがターゲットを捉えており、さらに“しま”にも2台のカメラが設置されている。
間宮1佐が神永1佐に話しかける。
「今日の弾というか、岩は100発でしたよね」
「ええ、ちょうど100個ですよ。それを10個ずつ射出します。速度は時速500㎞です」
「岩はすぐ調達できたのですか?」
「いや、結構苦労しました。砕石所に頼んで割って貰いました。だから、球というより立方体に近いですよ。重量は測ってもらいましたが100個で165トンでしたから、平均1.65トンです。形はまあ正立方体に近いので、それほど大気の影響は受けないと思っていますが、なにせ5,000mの高度ですからね」
「ええ、5,000mの高さから落ちてくる1m角の岩石、それも一度に10個と言うのは怖いですね。ところで岩を手に入れるのに、どの位費用が掛かったのですか?」
「110万円弱ですよ。まあミサイルと比べるとゴミみたいな金額ですが。お、来た、予定通りだな」
神永1佐がかすかに聞こえたジェット機の爆音から機体を見つけ、さらに時計を確認して言う。
視察の一同がざわめき、皆一斉にそちらに目を凝らす。それを横目に、小牧基地から来た岩井2佐が大きな声で言う。岩井2佐は操縦しているクルーの指揮官である。
「そのF2は時速500㎞で向かってきています。岩は、大体32秒で落下するので約4,400m手前で射出します。もうすぐ。今!射出しました!」
攻撃機F2の機体がはっきり見えて、そこからごみつぶのようなものが固まって離れる。そして、それはどんどん大きく見えてくる。その間約30秒、迫る、迫る、迫る。地上近くで、ばらけた岩であることがわかるが、ゴーというような重低音の風切り音が聞こえる。
そして、それも一瞬であり、それらは地上に激突して草や木切れに土を跳ね上げる、地面がゆさゆさと揺れているのが見えて、そのために海に小さな波がたつ。さらに、ドドーン!ガチャーン!数舜遅れて大きな音が聞こえる。
「ほお!なかなかだな。殆ど範囲に入っている。戦車は3台潰したか、これは使えるな」
間宮1佐が言うが、岩は直径35mほどの範囲にばらけて落ちている。3台の戦車が破壊されているが、1台は砲塔の上に落ちてそれを割ってめり込んでいる。
もう1台は砲をへし折って車体に食い込んでいる。さらに、もう一台は半分が命中したために、中央部の半分を削り取って斜めに岩は転びだしている。また、地面に落ちた岩は地面深くめり込んでいる。
その後、10回同じことが繰り返されたが、すべて概ね30~40mの径でばらけて落下し、最終的には戦車は全て叩きつぶされて、原形をとどめていないものも3両ある。狙いとしては最も悪かったケースで分布の円の半分が範囲から外れていたが、他は大部分が範囲内であった。
この結果をもって、自衛隊はこの名付けて『M質量弾』を正式に採用することになった。その試験の落下の状態を見ていた者の一人が言った言葉は、全員に共通する思いであった。
「いやあ、あそこにいて的にはなりたくないな」
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