2-12 魔道具・空間ゲートが巻き起こす騒動2
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誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
戦術核というものがある。3キロトンから100キロトンの核兵器である。爆発力の弱い核兵器であるが。広島に落とされた原爆が15キロトンだから、その威力は決して小さくない。キロトンというのはTNT火薬にして何千の倍数に相当するという単位である。つまり1キロトンは1000トンである。
一方で、核爆発というのはどう起きるかというと、核分裂物質であるU235やPu239などの核分裂物質を一定量(臨界量)集めると連鎖反応を起こして核爆発を起こす。原子爆弾はU235などを臨界量以上集めて分割し、各分割片に炸薬を仕掛け一斉に炸薬を爆発させると結合して核爆発を起こす。
各分割片は無論臨界量以下であり、分割にも限度があるので一定以上の威力の核分裂爆弾は作れない。だから、より威力の大きい水素爆弾は核爆弾の周囲に3重水素で取り巻いて核爆弾を爆発させる。するとその爆発による数千万度の熱でトリチウムが核融合反応を起こす。この場合は、最大100メガトンクラスの爆弾ができる。
そして、地上にある核爆弾を攻撃した場合どうなるかであるが、爆弾なりで核弾頭を破壊した場合にたまたまくっついて臨界量になると核爆発を起こす。それが10メガトンクラスだと大変な被害になる。だから、核爆発を起こさないように核基地を攻撃するには戦術核が必要であるということになった。
以上はコンピュータによるシミュレーションの結果であるが、米軍は実のところこのように核兵器の無力化に取り組んできた。それは、空間ゲートの可能性が開けてから弾みがついた。そして、空間ゲートでミサイル基地に爆弾を放りこめば良いとのアイデアが出されたのだ。
だが、核を無力化するのに、数千・数万人を殺す可能性がある戦術核を使うのは本末転倒だろうというということになった。そこで、米軍は魔法士レイナに期待して、核兵器の無力化の協議にN大に訪問し彼女の出席を求めた。そこで参加したレイナから『錬金術』の話がでたのだ。
錬金術については、すでにN大でレイナは様々に試している。その結果、原子量が大きく異なる物質への変換は無理であると解ったが、原子量が1~4程度異なる同位体に変換するのは比較的容易であることが分った。そこで早速、核爆弾に使われる核分裂物質であるU235とPu239のサンプルで実験した。
無論実験はレイナの錬金術の魔法によっているが、その結果それぞれU238とPu242になって、連鎖反応を起こすことは無くなった。つまり、核爆弾が無効化されたわけである。そこで、レイナはその魔法を自分で魔方陣に書き、それを片山がプログラミング言語でCAD化した錬金術の魔方陣が出来た。
後はMラジエターで活性化して、核爆弾に照射すれば無効化できるはずである。N大でサンプルにより実験して原子変換が出来たことを確認した。その後、アメリカで実際の戦術核による実験で効果が確かめられた。そして、量産して10台の核無効化の魔道具が出来たのは空間ゲートが完成される直前であった。
日、米、英の3国は空間ゲートの存在を明らかにすることで、C国とR国が大きな反発をすることは想定していた。だから、核兵器無効化の魔道具が無ければ、M国の行動は実施されなかった可能性が高い。逆に言えば、C国とR国の日本列島をミサイルで飛び越して威嚇した行動は3国の思うつぼであった。
その作戦は、米軍の横田基地で行われた。空間ゲートを10基設置して各々にストライカー装甲車3台で入ることになっている。その中央の1台に核無効化の魔道具が設置されている。Mラジエターの出力はレイナの魔力の2倍の出力にして2㎞以上の効力範囲を持たせている。
両側の装甲車は、魔道具による照射を行う車両の護衛になる。走行車は時速100㎞で走れ、105㎜砲の他重機関銃2基等十分な戦力を持っている。なので、戦車の正面に出現しない限り十分安全である。それに、ゲートが開くとレーダーを持った偵察部隊が直ちに周辺を走査して、戦車や戦闘ヘリなどの危険性のある兵器を検知したら、直ちにゲートを閉めることになっている。
ちなみに、把握している核兵器のある基地は、C国で12ヵ所、R国で89ヵ所、R国の衛星国のA国で2ヵ所である。さらにKT国の5か所も処理することになっている。1ヵ所の処理時間は全部で5分ということになっていて、全体で10分で次のターゲットに移動する。
ターゲット108ヵ所の座標は、すでに10基のゲートそれぞれでインプットされていて、ゲートを開く順番は決められている、だが、操作ボードのキーを押さないと開閉することはないので、開く時間は各ゲートで調整できる。また1ヵ所当たりの担当する基地は10~11ヵ所になる。
各ゲートを担当する兵各12人は、米軍、英軍の将兵によって構成されている。これらの行動は、自衛行動というには微妙なので、自衛隊は攻撃隊というべき各ゲートの要員には加わっていない。ただし、後方支援として、ゲートの管理とMラジエターの管理を行っている。
総指揮官は、米陸軍のジェフリー・ダンカン少将である。総員150人余のミッションを将官が指揮を執るのは異例であるが、間違いなく歴史に残る作戦であることを考えれば当然でもある。作戦の視察には、各国の大物が来ている。
アメリカ政府のサミュエル・マウレガン国防長官と在日米軍のマーク・トマーソン中将、さらに日本は春日防衛大臣と伊地陸上幕僚長、イギリスはエイク・ドノパン防衛大臣とオリバー・ブラウン極東軍司令官が来ている。いずれも歴史に残るイベントに顔を出しておきたいのだ。
マスコミは無論呼んでいないが、全体と各ゲートの動画を撮影は3軍の報道官が行っている。作戦は日本時間の早朝6時に開始された。勿論、各ゲートの班には開始時刻は予告されており、指揮台に立った指揮官のダンカン少将が秒読みを開始された。
「………4,3,2,2,1,GO!」
指揮官の号令で、一斉にゲートの開口部に目的地の薄暮または暗い景色が見え、ゲートの高さの補正が行われる。また、その間に偵察班がレーダー走査を開始して10秒ほど後、偵察隊員が口々に叫ぶ。
「目的地クリヤー」
装甲車が一斉にエンジンをふかして、1号車からゲートをくぐり、以下2号車、3号車が続く。その中で魔道具を積んでいるのは2号車であるので、2号車を中央に1号車と3号車が両脇を固める。
2号車では、照射担当者が正面のスクリーンと、手元のレーダー画像を睨みながら筒形の魔道具を前面にかざす。そして、両者を睨んで叫ぶように言う。
「よし、Mラジエター、出力フルでON!」
「了解、出力フルでON!」
ラジエターの担当者が冷静に応じる。
レーダー画面に放射状の照射範囲が示されるが、音や振動は一切ないので手ごたえが乏しい。しかし訓練を受けた照射担当者は、冷静に前方の装甲車の視覚スクリーントレーダー画面を見くらべながら核兵器のある範囲をゆっくり照射する。さらにも逆にもう一度照射する。
その間約2分、「よし、照射終了」この照射担当者の言葉に、車長がギアを入れながらマイクに向かって、「照射終了、引き返すぞ」と言う。それに応えて、他の2台から「了解、引き返す」と回答があり、真っ先に旋回し、ゲートくぐって引き上げる2号車に続く。
このような作業が各ゲートで行われたが、すでに夜の明けつつあるR国の日本海側やC国では、防衛側の車両と遭遇して、それを護衛の装甲車の重機関銃や砲で撃破している。このようなケースが3回生じているが、作戦班には被害は出なかった。
R国では、大部分の核基地でゲートが開いたのが深夜であったために、警備兵が気が付かなかったケースが2/3ほどあった。日本海に近い基地では薄暮であったが、警備兵に緊張感がなく気が付いた時にはすでにミッションが終わった後であったり、気がついても報告すらしなかったケースも多かった。
ただ、1ヵ所で偶々朝帰りの兵と作戦中のチームが遭遇して、騒いだところで機銃を撃たれて逃げたケースがあった。ただ、各基地では重大性に気が付いていなかったので、R国の中央が装甲車を使った敵性の行動があったことを知ったのは作戦が終了して4時間が過ぎた後であった。
その後には、流石に中央はゲートが使った何らかの攻撃があったと判断した。
C国では、多くの基地が薄暮か早朝であったがため、気がつかないケースが半分ほどであった。気がついても、装甲車が出現してすぐ消えたという馬鹿げた報告は上部機関に上げないケースが多かった。また、1ヵ所では兵は出動して、さらにジープに武装兵を載せて出動したが機関砲で撃破され蹴散らされた。
またもう1ヵ所では通勤の兵を載せたトラックが遭遇してやはり機関砲で威嚇され蹴散らされた。C国の中央が、核基地の周辺で装甲車による何等かの行動が起こされたのを知ったのは2時間後であった。この場合も、米国などがゲートを使って装甲車を送り込み何等かの行動をしたと判断した。
しかし、R国、C国共にどういうことが行われたかを掴めなかった。とは言え、念のために基地の総点検ということで点検をさせたが、各基地において装備に一切の異常はないとの回答である。しかし、R国の場合には死傷者は出なかったが兵が銃で撃たれている。
C国の場合には兵が3名殺され、3人が負傷してジープが破壊されている。両国とも、装甲車によるゲートを使った重大な犯罪として米軍を猛烈に非難した。装甲車には米軍のマークが記されていたのだ。
それに対して、アメリカは当面は相手にせず、報復の宣言から24時間後になって宣言したことを実施したとの声明を出した。アメリカは、現地に乗り込んだサミュエル・マウレガン国防長官が声明を出した。
「24時間前に、我が国はR国、C国に対して日米安保条約に従って、日本へミサイルで攻撃したことの報復を行うと宣言した。この報復は、両国の行動が日本に核攻撃を行うとの威嚇であったので、その能力を取り去るものである。そして、その行動を我々は英軍と共闘し、日本の自衛隊の協力のもとに実施した。
そのために使われた魔法具と呼ばれる機材は、日本から齎されたものだ。そして、私はその行動を自分の目で見届けた。その結果、R国とC国の地上基地にあった核爆弾はすべて無効化された。ああ、我が国を火の海にするなどと言っていたKT国のものも同様に処理した。
各国は是非自分で私の言葉が事実かどうか確かめて欲しい。なお、潜水艦に配備されている兵器は残っているが、それを使った場合、あるいは使うと脅した場合にはゲートを使って報復する」
続いてイギリスのエイク・ドノパン防衛大臣、日本の春日防衛大臣から同様の声明があった。
さらに、それに続いて、アメリカの大統領、イギリスの首相、日本の首相から、今回の行動によって、世界の核発絶に進むことが熱く語られた。つまり、核保有国であるアメリカ、イギリスの他フランスもすでに同意して自国の核を廃棄するとの宣言である。
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