2-9 魔道具・空間ゲートの活用2
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M国のカウンター・クーデターの計画が策定され、閣議でも非公開で了承された。主体は在日M人の団体カヤク会としたが、外務省が資金を支出して根回しに動き、自衛隊と米英軍が支援することになった。
まず着手したのは、クーデター前の政府首班である大統領のアン・スチ―女史と首相のハン・アリ氏の救出である。大統領は独立時の英雄の娘であり、永く軍事政権に抵抗してきたということで世界的な有名人である。また、圧倒的多数の票をあつめ大統領に当選したのだから人気はある。
とは言え、5年もの間政権についていて、簡単にクーデターでひっくり返されたのだから有能であるとは言えないだろう。しかし、彼女を日本に連れてきて、クーデター政権の打倒を訴えさせれば、反対するのはC国程度で、世界的コンセンサスは取れるだろう。
カヤク会の幹部の人脈で、首都ヤンゴイにおけるカウンター・クーデターの組織は簡単にできた。無論金がないとなにも出来ないので、当面日本大使館から50万ドルの資金を供与している。金が目当てで、クーデターを起こすような軍の統制が厳しい訳はない。
大統領のアン・スチー氏の軟禁先と、その他の軍刑務所における要人の拘束先はすでに特定されている。それらの要人の拘束のキーマンに金が渡って、うまく夜間に脱出して空間ゲートで日本へ渡り政府の保護下に入った。無論、脱出はバレるので、金を受け取った連中はすでに金を握って逃げている。
翌日夕刻に、アン・スチー大統領とハン・アリ首相の、自国の国民と世界に向けたメッセージがNHKの特集番組で放映された。その時点では、M国国軍では消えた要人のことで大騒ぎになっていた。そこに、いきなりNHKのライブ放送で消えた彼等のメッセージが入ったので尚更である。
とは言え、M国から日本へは飛行機で直行すれば、6時間で着くので飛行機で移動したと考えられた。しかし、遅れた技術のM国軍とは言っても飛行機の発着はレーダーの記録から把握できる。だが、どの記録を見ても政権幹部が移動した飛行機は見つからず、うやむやになってしまった。
NHKのアナウンサーが、脱出してきたアン・スチー大統領とハン・アリ首相他3名からなる5人のM国政権幹部を紹介した。軍事政権は公的には認められていないので、紹介の際には肩書は失った政権のままである。その後、アン・スチー大統領へスピーチを促すが、これらの画面では日本語とM語の同時通訳が入っている。
「大統領のアン・スチーです。M国民の皆さん、この度は軍の突然の行動に我々政府は何もできず、軍に実権を握られるに至りました。その結果、多くの国民の皆様が犠牲になったことを深くお詫び申しあげます。そして、犠牲になった方々のご冥福をお祈りいたします。
さて、我々は立ち上がった国民の皆様の努力と日本政府及びアメリカ政府、イギリス政府の援助によって現在日本におります。我々のみ安全な立場におりますことは国民の皆様にお詫びいたします。ですが、これは国民の皆さんへの呼びかけと国際社会への呼びかけを安全に行うためです。
ですから、我々は間もなく帰国し、政権奪還に向けて努力を行う心算です。
この度の、エンドワ将軍の率いる国軍の振る舞いは、全く恥ずべきものです。彼らは、単に自分達の権利が限定されてきたこと、その結果お金の取り分が減ったことを理由に、国民を守るべき軍が国民に銃を向け、かつそれを使って100人以上の子供を含む人々を殺戮したのです。
これは我が国にとって、エンドワ将軍の率いる国軍の、恥ずべき血塗られた日として永く記憶に残ることになるでしょう。そして、それは間違いなく、順調に経済・社会の成長を遂げていた我が国をどん底に叩き落す所業でもあります。
従いまして、我々正当なM国政府は、ここでM国政府を名乗ったエンドワ将軍の率いる国軍のいわゆる政府を打倒することを宣言します。このために、国民の皆さんのご助力をお願いするものです。しかし、相手は銃器を持って欲にまみれた強盗とも言える者達です。
どうか皆さんは、銃を持った相手に立ち向かうような危険な行為をしないようにお願いします。そして、心ならずも軍に属していたがためにその行為に加わっている軍の皆さん、どうかその属する組織の不当性を自覚して早急に離れて下さい。では、ハン・アリ首相。あなたからも一言お願いします」
「首相のハン・アリです。私は行政の長として、この度の軍のクーデターを防げなかったこと、そして、そのために多くの皆さんが軍から殺害されたことをお詫びします。先ほど大統領からお話があったように、我々は間もなく帰国して、皆さんと共に軍を打倒して、政府を復活することを宣言します。
現状のところ、我々の行動の詳しいことは明かせません。しかし、我々からは、テレビ・ラジオやインターネットを通じて定期的にこのような放送を行うことにします。また、我々に協力してくれる国民の皆さんから、皆さんに必要な情報が伝わるようにしたいと思っています。
それでは、次の放送までお待ちください」
その後、NHKの放送では、日本人向けにM国各要人のインタビュー、さらに岸辺首相からのメッセ―ジがあった。
「日本国民の皆さん。皆さんもM国のクーデターについては既にご存じの通りです。
これは、国民を守るべき軍が自分の利権を守り拡大するために、選挙で選ばれた正当な政府を武力によって倒したものです。
その過程で、多くの人々を殺戮し、かつ今も抗議デモに対して発砲を躊躇わないという不当性を明らかにしています。この軍事政権はM国政府を名乗っていますが、現状において世界でそれを承認した国はありません。ですからここにおられる方々が、依然としてM国の正式な政府代表者になります。
M国については、永く軍事政権に支配されてきた国です。ですが、その軍事政権は8年前に国際世論に押されて軍に有利な票の割付ではありますが、選挙を行って民主的な選挙を行う国になりました。ところが、軍が再度軍人政権に戻すクーデターを実行しました。
さて、わが国とM国は長い交流があります。軍事政権の時代には当然疎遠になっていましたが、民主政権になってからは積極的な支援をしてきました。そして、民間企業も多く進出する関係でした。ですが、このクーデターでまた疎遠な関係になることは間違いありません。さらに我が国を始め世界からの投資も大きく減って、また貧しくなることになるでしょう。
そこで、この状態を我が国は看過せず行動すると決断しました。この行動は、我が国の他米英政府にも同調して頂いていますが、あくまで、M国の正当な政府とその国民の人々が主体になります。そのために、わが国からまたアメリカ・イギリスから人と機材をM国に送って行動することになります。
相手が軍ですので、危険性がないとは言えません。ですが、我々の行動は少なくともM国の正当な政府の承認の下に行うもので、場合によっては軍事的な行動も含みます。送る人員には自衛隊員も含みますが、憲法の制約もあり軍事的な行動はせずに補助的か役割を果たすことになります。
現状では、詳細は発表できませんが、行動の進行の都度皆さんに遅滞なくお知らせします」
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陸上自衛隊秋月陸曹長は、朝霞駐屯地において、トラッククレーンの助手席でゲートが開くのを待っていた。その後にはトラックや重機の列が出来ており、徒歩の隊員も500人ほど並んでいる。彼等は、今からM国に渡って、基地の設営にかかるのだ。
「空間ゲート開いた!出発進行!」
アナウンスが入り、先頭の指揮車が進んでゲートをくぐり、その後を重機、トラックが順次続く。ゲートからは、目的地の景色が見えている。そこは整地の済んだ平地で周囲は藪が生えている荒れ地であり、標高は21mで朝霞の18mに近い。気圧の差は殆ど無いようで、日本から目的地に流れる風はごく弱い。
目的地はM国の首都から西に40㎞ほどのミュルメという地名の場所であり、500m×500mの範囲ですでに地元の建設業者が整地を済ませている。その整地済の地面には、アメリカのエイブラムスM1戦車が10両ほど、イギリスのチャレンジャー戦車10両が展開して、戦闘ヘリも10機が着地している。
これらは、まだ空間ゲートを通じて続々と増えており、最終的にはM1戦車が20両、チャレンジャー戦車20両、戦闘ヘリのコブラ20機が配備される。さらに、沖合には空母エンタープライズ3世が遊弋して、必要なら戦闘機、攻撃機を発進できる体制が整っている。
日本の自衛隊は憲法の制約から武器は持ち込めないので、基地の設営及び補給品の輸送を担当している。基地の設営は、300m四方にフェンスを巡らせ、本部棟と呼ばれるW5m×L50m×1Fのプレハブ棟を3棟設置する。
さらに本部棟を400㎜H鋼と厚さ12㎜の鋼板で屋根を含めてカバーし、携行ミサイル程度では破壊できないようにしている.つまり、これは当面のM国政府棟であり、軍から実権を取り戻すまでの要塞基地になる。フェンスは、2m毎に高さ4mになるようにH鋼を打ち込み、それにH鋼の横桁を溶接してさらにネットを貼り付けている。
また、戦車や戦闘ヘリそれに整備員などの戦闘員用に、2階建てのプレハブ棟を3棟設置する。M国軍が攻めてきた時は、戦闘に従事していない要員は鋼製の防護された棟に移る。無論基地にはMジェネレーターが設置されており、これらの棟は冷房完備、井戸と浄化槽による上下水道完備である。
出来れば、反乱したM国軍は自主的に武装解除してもらいたい。その働きかけの第1歩はアン・スチー大統領の日本からの呼びかけであった。そして、現在建設中の要塞基地に、アン・スチー大統領他の幹部も集まり宿泊して再度国民に呼びかけるが、その際には力を入れて国軍からの離脱を呼びかける。
そうして、兵員が減っていくと幹部も諦めるであろうと期待している訳だ。実際に日本からの大統領の呼びかけに応じて、離脱する兵が目立って増えているとの報告がある。そして、M国内に帰ってからの呼びかけはもっと効果的であると見られている。
現在、日本と米英が協力して建設している要塞基地であるが、絶対に安全とは言えない。M国軍は空軍の航空機保有数は10機以下であり、陸軍は古いT72クラスの戦車を200両以上持っている。また、携行ミサイルは相当数持っていると見られているので、兵を近づけると危険になる。
ただ、T72クラスの戦車は持って来た米英の戦車には全く敵わず、さらに戦闘ヘリの餌食であるから基地に近づくのは無理であろう。また、たとえ万を超える歩兵が押し寄せても、戦車とヘリのコンボでせん滅できる。しかし、結局多数の死者が出る訳で、M国人には受け入れ難い結果になる。
だから、交戦を防ぐために、まず米軍の空母エンタープライズ3世から警告の放送が行われた。
「こちら、アメリカ海軍空母CS02エンタープライズ3世艦長のジェフリー・トマソンである。M国軍と称する集団に告ぐ。私は海軍長官の命でこの放送をしている。現在わが軍陸軍が英軍と共同で、貴国に展開している。
これは、貴国の大統領アン・スチー氏の要請であり、わが空母はこの陸軍の部隊の支援のために貴国沖を遊弋している。従って、君らが我が軍を攻撃した場合には、わが空母は全力で攻撃している人員と機材及び君らの組織全体を攻撃する。私の艦には、君たち全てを滅ぼすだけの兵器を備えている。このことを認識して賢明な判断をすることを望む」
要塞基地は、3日でM国政府関係者が入れるようになり、大統領アン・スチーの呼びかけが行われた。その呼びかけで、大統領はM国にすでに帰国していることを述べ、国の若者たちに加えて米軍と英軍に守られていることを明かした。
このことで、軍を離脱する者は更に増え、要塞基地完成の後、3日目には残ったものは半数足らずであると見られている。
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