2-8 魔道具・空間ゲートの活用1
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M国にて、軍事クーデターが起きた。M国は東南アジアの国であり、人口は3,500万人で一人当たりGDPは3500ドルの貧しい国である。長く軍が独裁的に権力を握っていたが、国際的な圧力に耐えられず、選挙を行うことを宣言した。その後様々な規定で軍に有利な制度にしたが、それでも選挙では圧倒的に文民政権に負けている。
その中でそれなりの経済成長を遂げてきたが、相対的に軍人の占める地位と実入りが小さくなってきたことに我慢がならなくなっての武力を用いたクーデターである。しかも、権力掌握の段階で。政敵を10名ほど殺し、このことを知った市民のデモ隊に発砲して100人以上を殺したというクズっぷりであった。
そもそも、国軍は国民と国土を守るのが役割である。だから、外敵に備えて武器を持たされている訳だ。それがまさに私利私欲で武力を用いて、武器を自らの国民に向けて傷つけ殺すなど、世界の軍事史に残る醜行である。その軍人の連中は、恥ずかしくはないのだろうかと不思議に思う。
ちなみに、空間収納の魔道具についてであるが、レイナの持っていた小容量のものから、すでに1,000㎥のものが出来ている。そして、呼び名は他の魔道具に倣ってMストレージとなった。だが、犯罪に使われる可能性が高いとして公表はしていない。
しかし、その機能を知った自衛隊が熱心に欲しがった。それはその収容能力もさることながら、重量をキャンセルできる。さらに、簡単なリモコンが必要になるが、収納元の位置と取り出し先の位置を数十mの距離内で指定できるのだ。
上述の機能は、開発したN大学で確認しているが、Mストレージを入手した自衛隊では、さらに追加して様々な試験を行っている。その結果、Mストレージに生物が収納できるが、時間経過は普通にあるということが判った。
また、収納時には周辺の空気を取り込む。だが、空気の流通はないので、例えば人間が入っている時は二酸化炭素を除去して酸素を補給する設備が必要である。魔力供給が切れたらどうなるかも試されたが、この場合には、単に入っていたものがごちゃごちゃと出てくる事も判った。
また、Mストレージに、その収容容量に対して収容物の縦横高さのサイズの立方体容量の倍数で収容が可能である。だから、10式戦車は長さ9.5m×幅3.3m×高さ2.3mであるので、13台収容できる。この場合には、戦車などでは砲と車体などの間には隙間が大きいが、そこに小さなものを詰めることはできない。
ただ、無論車体の中や砲の中などに収容することは可能である。
さらに航空自衛隊が行った最も重要な試験は、戦闘機にMストレージを積んで、そこにミサイルを収納し、そこから出す時にランチャーにセットするという試験を行って成功させている。1,000㎥のMストレージには800発の空対空ミサイルを収納できるので、1機の戦闘機が膨大な戦闘力をもつことになる。
なお、最初に興味を持って注文を出したのは航空自衛隊であったが、自衛隊内では秘密にしてなかったので、陸上自衛隊と海上自衛隊も欲しがった。さらに、米軍も知ることになって彼らも欲しがった。加えて、米軍経由で英軍も知って、航空自衛隊での試験の段階で納めた20組の他に総計2,000組の注文を抱えることになった。
確かに、平和憲法下の自衛隊ではさほど使い道はないが、海外への展開が多く、実戦もあり得る米軍にとっては、非常に有用な道具であろう。このことから、N大学へは米軍、英軍の大使館武官や本国からも度々訪れるようになった。キュアラーやMジェネレーターも彼等には非常に有用なのだ。
しかし、実際には、彼等の真の狙いは空間ゲートである。片山の研究室には、『目標:空間ゲート』なんて書いているからばれるよね。アメリカは大統領、イギリスは首相から総理大臣に直々に電話されると、『実用化出来たら、提供しますよ』というしかないよね。
実のところ、以下は日本政府で揉んだ時の話である。首相官邸で、首相と麻山副首相、村山外務大臣、春日防衛大臣が協議した結果、米英軍の要求に応じざるを得ないと言う結論になったのだ。
「米軍が、直ぐにMストレージの存在を知ったのは、自衛隊がちょっとお粗末なのではないかな?」
加地官房長官が不満そうに言う。
「ええ、私も叱責したのですが、丁度試験していた時に米軍の将校が現場を訪れまして……」
春日防衛大臣が言い訳がましく言うが、副首相の麻山が口を挟む。
「まあ、加地さん、そう責めなさんな。悪いことではないよ。アメリカとは国務省は疎遠だけど、現場の関係が良いから国防省とはいい関係だからね。互に行き来すると言うのは悪くない。
それに、このMストレージは隠すのはまずいと思う。米軍にとっては非常に有用だけど、我が自衛隊にはそうでもない。そうだろう?」
春日防衛大臣が、その話を受けて真剣な顔で言う。
「ええ、我が省でも、そう判断しています。はっきり言って、どのみち軍事的には米軍には敵わないのです。そして、Mストレージで自衛隊の展開能力・打撃力は上がりますが、専守防衛では使い道はさほどありません。
一方で、米軍にとっては、いや英軍にとっても展開能力や打撃力を上がるというのは非常に有用です。そして、自衛隊でこれを運用すれば、いずれはその存在はばれます。そして、その時を考えれば秘密にしていたということで、感情的にかなりまずいと思いますよ。
それと、多分N大学では、Mストレージに続いて空間ゲートを開発すると思います。これも簡単には公開できませんので、同様に軍事的な利用に限ることになります。これは、不意打ちに使えるので米軍に隠しておくとまずいと思いますよ。それに、空間ゲートを自衛隊は今の憲法の下では使えませんよ」
「うん、まあ言われるとそうですね。いずれにせよ、米英が知った以上、その供給を断るという選択肢はない。あとは技術をどこまで守るかだね」
岸辺首相が言うと村山外務大臣がその話を受けて言う。
「いままで、魔法関連の開発はキュアラーとMジェネレーターですが、アメリカやヨーロッパは技術を公開しろとは強く言っていません。まあ、一つには価格が安いせいで、余り貿易統計に大きな数字が残るほどではないためと思います。効果はとんでもないものですが。
だから、技術移転はそれほどの争点にはならないと私は思っています」
このように、政府とはしては空間ゲートの完成の時には、米英にそれを売るのもやむを得ないと考えていた。そして、それがまさに完成した時に、M国の恥ずべきクーデターが起きたのだ。
空間ゲートはMストレージの収納と取り出し時の位置指定の機能を拡大したものであった。またゲートそのものはMストレージの収納の口を使っている。これは、容量によって大きさに制限があって、1,000㎥のストレージでは10㎡である。だから、幅3.3m×高さ2.3mの10式戦車も収納できるのだ。
また位置指定先を、Gマップ上で決めた任意の地点とすることで実用化した。つまりGマップ上では座標と標高が出てくるので、その数値に合わせるのだ。しかし、その精度は例えば高さはm単位であって荒いので、ゲートを開いた時点で現地を魔力で検知して、ゲートの下端を地表に合わせることができる。
空間ゲートが出来上がるのを待っていた自衛隊と米英軍は、供給を受けてから喜々としてあちらこちらにゲートを開いて移動を繰り返した。この結果、想定通りではあったが、判ったことは気圧の差があると気流の流れができることである。
標高が同じ程度でも、気圧の差で多少なりとも風が吹き抜けるが、高度差が1,000mもあると100hpaもの気圧差で、風がビュウビュウと人間が立っていられないレベルで猛烈に吹く。そこで、ゲートは高度差が極力生じないようにするような運用基準が決まった。
ちなみに、空間ゲートが出来たことは、待ち望んでいたレイナには知らせた。だが、彼女が魔力で観察して、様々に使おうとしてみても異世界への門は開くことはできなかった。このため、レイナと片山の異世界へ繋がる空間ゲートの研究は尚も続けられることになった。
自衛隊と米英軍は、ゲートの試用をする中でMストレージと空間ゲートの活用方法を練っていた。そして結論として、地球のどこかの地点で起こる不測の事態の解決を図るということになった。そして、格好のモデルケースとして取り上げられたのは、M国の軍事クーデターである。
日本国の閣議において、空間ゲートについて春日防衛大臣が熱弁している。
「このように、空間ゲートが完成しました。そして、ご存じのように、これには米英軍も開発時点から注目しており、出来た当初から、日本の守山駐屯地からアメリカとイギリスの軍事基地にゲートを開いて試験を繰り返してきました。その結果、利用に問題がないことを確認しています。
そして、活用方法を検討しましたが、当面モデルケースとしてM国のクーデターの解決に使おうという話が出ています。M国については、民主化されたということで、ODAはすでに4,000億円程度注ぎ込んでおり、民間はその2倍以上を投資しています。
さらに、在M国日本人2、00人、在日M国人は20万人を超えていて相当な交流があります。そして、今回の軍事クーデターは、軍として世界史に残るほどのみっともない行為です。そして、この空間ゲートを使えば、M国の人々主導でカウンター・クーデターが実現できます。
我が自衛隊は、憲法の制約で軍事行動はできませんので裏方に回ります。ですが、必要であれば、米英軍がその面は実施するとしています。アメリカ・イギリスはM国に我が国ほどの利権はありませんが、世界で起きる不測の事態解決のモデルケースとして、このクーデターの鎮圧に当たりたいとしています」
これに対して、加地官房長官が意見を言う。
「私はM国の案件に対して、何とかしたいという気持ちはあります。官房長官として『遺憾であります』ばかりではいささかうんざりしているのですよ。今回は余りに悪質なので、よほど大失敗をしない限り、実施したことにより世論が敵に回ることはないでしょう。あくまで、M国人を前面に立てるということで、前向きに考えてもいいのじゃないでしょうか。どうですか、村山外務大臣?」
「はい、拘束されている政府の首班を救いだして、宣言を出させれば、法的にはクリヤーできるでしょう。現地には人脈もありますし、日本に来ている人々も使えますし、正当性は大丈夫でしょう」
村山大臣に続き、麻山副首相が口を開く。
「うん、私もこの件は賛成だけど、Mストレージや空間ゲートを軍事利用だけっておかしいでしょう。まあ、不正に利用される恐れということは理解するけど、これほどのものを、民間利用しないのはどうかと思うよ。例えば、空間ゲートを各都市間に設置すれば、どれほど便利になるか。逆に、人々がこの存在を知ったら、もう使わなという選択肢はないと思うよ」
「ええ、仰る通りなのですが、これを例えば、R国が入手したら喜んで侵略に使うと思いませんか?また、C国が持ったら我が国だって危ないですよ」
春日防衛大臣が反論するが、加地官房長官が議論をまとめる。
「ええ、その点はそれなりのセキュリティ体制が出来てからということですね。それと、M国の件は防衛省と外務省で具体策を練ってから、もう一度この席で議論しましょう。よろしいですね、総理?」
「そうだね、では、そういうことにしましょう」
岸辺首相が言って、閣議は終了した。
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