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異世界令嬢、日本に現れ大活躍!  作者: 黄昏人
第2章 魔道具の開発と普及
20/86

2-7 治癒の魔道具狂騒曲4、海外の事情

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 キュアラーとMラジエターのセットは、現在月間2万5千組が世界に向けて輸出されている。価格は工場渡しで3万ドルであるが、実際は工場で空港までの輸送の手配をして、その費用を上乗せしている。注文は日本の外務省の仲介で、在日大使館のみから受けているが、現在総計552万組になっている。


 外務省は、キュアラーについては有償のみとして、注文を受け付けて注文の数の範囲で独自の計算式で優先順位をつけた数を順次販売している。外務省が、このような役割を担うことになったのは、通常の注文方式にすると各国の富裕層が独占して、貧困層は恩恵に預かれないと懸念されたからである。

 これは、間島がその懸念を抱きN大学を通じて政府に申しいれて、そういう仕組みになった。


 さらに、諸外国には腐敗した政府・官僚が多いので、各国の日本大使館に供給状況を監視させることにした。しかし実際の作業は、外務省から委託されたJICAが代行している。JICAは外務省と調整して各国の週ごとの供給数を決める。


 そして決まった数を、各国の在日大使館に通達して、空港と配達日を受け付けて、それをメ―カーの㈱ベンリーに注文することになる。この供給数の基本的な考え方は、緊急性のある死に至る病気などの治療に使うための最低数を最優先で供給することにしている。だが、国によって優先順位はつけている。


 その数が満たされた後は、原則として注文数に比例して供給するが、人口や各国の日本大使館からの報告から、地域的な事情を加味して決める。輸送については、世界のあらゆる国は空路で繋がっているので、キュアラーのセットは航空貨物で運ぶことにしている。


 日本の空港から自国までは、各国の在日大使館の手配によることになっている。特に対象国に着いてからのセキュリティは、本庁の指導で日本大使館から厳しく注意されている。キュアラー供給の初期において、その性能が公表されたため犯罪組織から狙われた。その結果、南米の某国に供給された5組が強奪される結果になった。


 これは闇で100万ドルの値が付いたと言われるが、ついに見つからなかった。後の捜査で運搬時に護衛についた警官がグルでの犯行だったという結論になった。ただ、元の価格が定額であること、かつ年間30万組が供給されるということで希少性が薄いこと、また各国で警戒が強くなったこともあり、その後のその種の事件は起こっていない。


 注文数は各国で自由に決められるので、国によって大きな偏りがあり、人口3.3億人のアメリカなどは単独で100万組の注文が入れているし、人口大国インドは50万組で中国は70万組である。これは値段設定が安すぎたためと批判された。だが、貧しい国々からは大いに感謝された。


 この中で、アメリカにしてみれば300億ドル足らずで、国民の健康を買えるなら安いものという感覚がある。だが一方で、医療業界がキュアラーの輸入に猛反対をした。だが、マスコミがこれを批判すると、世論が猛反発しため、世論に押される形で最大の数の注文をしたのだ。


 アメリカの医療費はとんでもなく高く、例えば盲腸の手術で600万円する。これは日本のように診療報酬が規定されておらず、医者が自由に決められることになっているためで、診療報酬が平均的に非常に高くなる。保険はあるが、費用が高いので掛け金が高く、保険料によって適用に制限がある。


 だから、低所得層が大病をすれば、まず死ぬか破産である。だから、医者にかからないためにアメリカではサプリメントが発達したのだ。そこに、キュアラーが入ればどうなるか。盲腸などは摘出するまでもなく、炎症をたちまち治してしまう。


 当初日本からキュアラーが入った時、手を回していた大病院が独占して、その使用に高額な費用を請求しようとした。そうすれば、短期で治療が終わっても、病院の収入は減らずにすむからである。それを警戒していた日本の在米大使館が、アメリカ政府にすぐさま知らせ是正を要求した。


 日本はその要求を公表したので、マスコミがそれを書き立てた。そのために、ロサンゼルス・ニューヨーク等多くの都市で、こうした病院は暴徒に襲われることになった。政府も流石に見逃せず、当面の措置として全米で約5,800ある公立病院にのみ、キュアラーを割り当てた。


 先述のように、日本政府はキュアラーとMラジエターのセットは『当面』各国政府にのみ売っている。だから、アメリカ政府はその供給先を自分で決められる。これらの公立病院は民間の大病院に比べ規模は小さいのに、キュアラーの治療効果を知った重症患者はほぼ全てがそちらに移ることになった。


 これはまず料金が1/10以下、さらに治療期間が1/3~1/10になるのだから無理はない。その結果、規模が小さい公立病院は直ぐにパンクして、重症患者の受け入れに限ることになった。だが、それでも受け入れできない患者は、軍の基地で受け入れ治療した。キュアラーでの治療は看護兵が充分行えるのだ。


 人々にしてみれば、日本でキュアラーはどんどん生産されているので、輸入されるのを待てば自分達も使えるようになる。さらには、待った結果重症化しても軍の基地に駆け込めば治療してもらえる。だから、大きな出費を覚悟して、普通の病院に入る理由がない。


 数ヶ月で普通の病院は閑古鳥が鳴くようになった。一方で、キュアラーも万能でないことは周知されるようになって、病院に行かなくて済む訳でないことも判ってきた。そこで、アメリカ政府はキュアラーの使用時の料金を統一することを条件に、受け入れた病院には供給するようになった。


 半年ほどで、アメリカにおけるキュアラーを巡る大騒動は収まった。だが、病院の収入は大きく減少し、従業員の給料カットなどの合理化を進めたが、それでも多くの医療機関が閉鎖された。

 しかし2年後の統計で、キュアラーの導入により年間4兆1千億ドルだったアメリカの医療費は1/3になったことが判った。そして、平均寿命が0.2歳延びたことも報告された。


 このことは、医療関係者の失業が多く発生したことを意味するが、一方で一人12,400ドルも必要だった医療費が1/3になった訳で、その部分が消費または貯蓄に回ったことになる。一方で、事故や病死者数は220万人であったものが1/3になっている。


 加えて累計入院日数が1/5になっており、費用が1/3になったのに、医療の質は逆に3倍以上に上がったと、マスコミを賑わせた。


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 ケニアにおいて、エンブ地方病院のジョン・ムガベ医師は、今や遅しとキュアラーが着くのを待っていた。エンブは首都ナイロビから北東120㎞の位置で、標高5,000mの高峰ケニア山の山麓の街である。赤道の直下であるが、街の標高は1,500m以上あるため、比較的涼しくマラリア蚊に代表される害虫がいない。


 街の人口は5万人足らずであるが、エンブ地方病院は、周辺の村落を含めると20万人ほどの人口の命綱である。今日の13時には日本~カタール~ナイロビの航空機に載った10組のキュアラーとMラジエターのセットが届くのだ。その内の1セットがこの病院に配備されることになっている。


 受け取りには、エンブ町の救急車が、副院長と共に護衛の警官2名をつけてナイロビ空港に向かっている。普通であれば、大体空港から2時間半で着くはずであるが、交通事情によって1時間程度は遅れることも多い。


 現在病院には危篤に近い患者が5名いる。2人は65歳を過ぎているので、まあ仕方がないとみられているが、1人は16歳の女学生で若年性のガンである。もう一人は3歳の男の子で先天性のエイズであり、最後の一人は事故で肺などを大きく損傷した25歳の若者である。


 現在15時前であり、普通であれば救急車は到着する時間である。

「おお、サイレンの音だ」


 ムガベは病院の玄関を飛び出した。病院の塀を曲がって救急車が入ってくる。白の車体に日本語のロゴ『加茂消防事務組合』と書いた救急車が、サイレンを鳴らし、回転灯を回しながら入ってくる。ケニアに限らずアフリカには、法定の7年を過ぎた日本の救急車が援助として送られてくる。


 そして、そうしたオリジナルの文字は、通常消されずそのままになっている。その方が『かっこいい』そうだ。だから、救急車に限らず、ケニアでは町中で日本の会社や商店名を書いたトラックやバンによく出くわす。


 ムガベは、救急車の後部の両開きドアを開けて、出てくる警官を待った。それから乗り込んで、梱包された小さなキュアラーの箱を取り、さらにMラジエターの箱を一緒に来た男の看護師ナルバに指示して台車に載せる。そこに、助手席に乗っていた副院長のシンバが下りてきて、話しかけてくる。


「おお、ムガベ君、どうかね患者の容体は?」

「はい、大けがのガビエラはもうギリギリです。ですから最初にガビエラからやります」

「うむ、解った。私も立ち会いたい」


 ガビエラの部屋に向かう廊下で、2人並んで歩きながらムガベが空港の様子を尋ねる。

「どうでした、空港での受け取りは?」

「うん、ナイロビ空港での受け取りも、もう3回目だそうだから、外務省も慣れていて特に困ることはなかった。日本大使館からも確認の人が来ていたよ。今回のキュアラーは7組が地方病院充てだから、皆2人の護衛を付けて受け取りに来ていた」


「さて、着きました」

 ムガベが部屋の前に行くと、待っていた女性の看護師がドアを開ける。その中には、ベッドに黒光りするやつれて死相を浮かべた顔の男が寝ていて、細い呼吸をしている。さらにベッド脇には、若い女性が赤ん坊を抱いて疲れた顔で座っていたが、ムガベを見て目に光が戻る。


「ムガベ先生!」

「エリナ、来たぞ、キュアラーだ。ちょっとどいてくれ」

 ムガベは付き添っていた患者ジョン・ガビエラの妻エリナに声をかけ、ビデオで学んだMラジエターのセットをする。


 梱包を解いたMラジエターはケニア標準の200Vであるから、延長コードでコンセントを繋ぐ。Mラジエターに1名の看護師、さらに脈をとるために別の看護師がついている。部屋には10人前後の医者と看護師が見守っている。


「準備良し、いくぞ。マリー(看護師)目盛り1.0でスイッチを入れてくれ」

「はい、ムガベ先生。メモリ1.0です、ではスイッチON!」マリーが応じる。


 ブーンという音がして、少しすると患者の体が光を放ち始める。残念ながら病院には超音波診断装置はないので、顔色、脈などで体調の変化を知るしかない。やがて光が一定の明るさになって暫くすると、脈をとっていた看護師が言う。


「ムガベ先生、脈が強くなりました!」

「うん、呼吸も正常に近づいたかな、どう思う?顔色も良くなったような」

「ああ、明らかに顔色は良くなったし、表情も変わった」

 医者でもある副院長が断言するが、その時患者がうっすらと目を開けた。


「ジョン!ジョン!エリナよ。エリナ、分る?」

 患者の妻のエリナが、ベッドに駆け寄り、夫に一生懸命呼びかける。そうすると、ぼんやりしていた目に光が戻り、妻が分った様子だ。声は出なかったがなにか話かけるように口を動かした。


 このように、足場から落下して瀕死の重傷であった大工のジョン・ガビエラは命を拾うことができた。さらに、瀕死と見られていた他の4人も助かり、全員が1週間以内に退院していった。


 なお、母親がエイズに感染していために先天性エイズとなった男児は、エイズそのものは治っていない。だが、そのために罹患した感染症など3つの症状が完治した結果元気になった。今後は、エイズを薬で時間をかけて治療していくことになる。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  日本政府、ちゃんと仕事していますね。キュアラーの価格が吊り上げられたり、必要な患者のもとに届かないようなことが無いように頑張っていて良いですね。新しい技術が出ると前の技術に依存して働いて…
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