2-4 Mジェネレーター狂騒曲2
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Mジェネレーターは、雷の魔法を魔道具化して、さらにそれを発電の魔道具にしたものである。それは魔力によって銅から電力を取り出すものであり、どうも銅の原子を電力に変えているらしい。らしいというのは、発生した電力をエネルギー換算して、そのエネルギーを質量として計算すると銅から減った重量にほぼ合致したからである。
現在原子力の利用は核分裂と核融合がある、前者は、U235のような核分裂物質が分裂を起こして、低原子量の物質に転化する時に減る質量に相当するエネルギー(熱)を利用する。後者は前者による核爆発で生じる超高温(数千万度)により、3重水素を結合させてヘリウムに変える。
この際減少する質量は0.72%であるが、それがエネルギーになるのでその熱を使用している。もっとも、後者の利用は現状では爆弾としてのみである。つまり、我々の知る科学では、核分裂物質は勝手に分裂するが、核融合を起こすには超高温が必要となる。
その場合に、少なくとも現状では質量をエネルギーに直接変換することはできず、夢のエネルギー源といわれる核融合でも質量の0.28%しか利用していない。だから、銅の原子が電力に変換されるなどのことは『あり得ない』のだ。
しかし、魔力を使うとなぜか出来ちゃうのだよね。香川名誉教授が言うように『魔法を使う時、空間と物質が人に優しい』ようだ。だから、Mジェネレーターは銅のシリンダーに魔方陣(銅→電力)をくっ付けて、それにMラジエターにより魔力を注ぐだけの装置である。
1基で5万㎾の発電量であり、それを10基束ねて50万㎾になる。50万㎾の石油焚き発電所の建設費は大体20万円/㎾であるので、1千億円になる。もっとも発電機そのものの価格は半分以下であるので、まあ500億円としようか。一方でMジェネレーターの場合には、どう考えても10億円はしない。
しかも、片方は燃料費・管理人件費など諸々考えると10円/㎾hはかかるが、Mジェネレーターはどう考えても1円/㎾hはかからない。だから、電力供給の費用の60%程度を占める発電費が1/10になると、大体費用は46%になる。だから、電気料は半分以下に出来るということだ。
そして、現在発電費の7割以上を占める燃料費がガンガン上がっている訳だ。だから、電力会社がMジェネレーターに飛びつくのは無理からぬところである。とは言いながら、Mジェネレーターの余りのぶっ飛んだ内容に、声をかけられた電力会社は大いに躊躇ったようだ。
しかし、N大学内に実証機を設置する際に、地元のT電力に声をかけて試験機の準備をやらせている。それで、各電力会社は当然互いに付き合いはあるから、T電力に問い合わせた。T電力は実証機が確かに動いていてN大学の資料は間違いないと答えたので、その情報で会議の参加を決めている。
香川教授の示唆もあって、各電力会社は基本的に既存の送電設備のある所にMジェネレーターを設置する予定である。それは、圧倒的なコンパクトさから、既存の送電設備のある施設の構内であっても既存の発電機を運転しながら設置できるからである。
だから、その場合には発電機以外の設備はすでに揃っているので、最短かつ最小の経費で設置が可能になる。そして、既存設備が最新の発電機であっても、その運転費の圧倒的低さから、すぐでも交換した方が経済的には有利であることは明らかである。
とは言え、設備の償却もあるので、現状ではそのような選択はしていない。それでも、電力会社がわずか2日足らずのうちに、71ヵ所もの候補地を選定できた理由はコストの低さである。
各電力会社は50万㎾の発電ユニットの価格と納期の交渉を、製造を請け負う民間会社と行った。その結果、工場渡し価格で5億円、各社の最初の1ユニットの納期は、工場渡しで40日から45日となった。N大学を訪問して実証装置を見た各電力社の調達の担当者は、余りの安さに驚いた。
しかし、エンジニアには、その構成が解るだけに、非常に単純シンプルな構成の割に、高いなという印象は持った。彼らの印象では、その価格でも十分以上の利益がでるであろうと考えたのである。
To電力所属で発電設備が専門の梨田は、同僚の三村が本社にスマホで話しているのを聞いていた。
「部長、50万㎾のユニットが5億ですよ!5億。35日後には工場で発電試験をして渡せると言うことです。実証機もちゃんと発電していますし、注文していいですね?
ええ、ええ、ええ、そんなうまい話はないって。私もそう思いました。でも他の電力さんも同じ条件です。支払いは納品して動いてからでいいということなので、問題はないと思いますよ。ええ、ええ、じゃあ仮契約で注文します」
そう言ってスマホを切った三村の顔は紅潮させて、梨田に話しかける。
「部長が、そんなうまい話があるものかと、言っているよ。俺だってそう思うさ。だって三村君も一緒に55万㎾の苅田の石油炊きの発電機を3年前に発注しただろう?」
「ああ。600億というのを570億にしたんだよな。こんどのは価格が2桁違うのだよね」
「そうなんだ。あれは一生でもそれほど出会えないレベルの大型の案件だった。それが。今度は当面で7ヵ所もあるんだ。それが1ヵ所5億だってさ。誰も値切らなかったな。そりゃまああそうだろう。イニシャルコストもさることながら、ランニングがなあ」
「そうだぜ、50万㎾の発電機が24時間運転で年間300日運転すると、年間36億㎾hの発電量だ。この場合には運転費は年間3億かからんよ。つまり㎾h0.1円以下ということさ。全般的な話をすると。現在の日本における電力が占めるエネルギー消費率は50%弱なんだ。
だけど、これは今の価格構成での話だ。熱発生のために使っている石油とか石炭は全て電気になるな。
二酸化炭素の問題もあるので、政府がそう強制するだろうよ。だから数年のうちに一斉に切り替えが進んで、多分90%くらいになるんじゃないかな。
車で使う油だって多いけど、車、いや船だって、この発電機を積むことになる。車を動かすレベルのMジェネレーターは玩具レベルだろうから、今の200万を超えるというバッテリーより遥かに安くなる」
梨田の話に三村が相槌を打って、今後の電力会社の先行きを憂いて言う。
「ああ、それと今は大体の工場は我々電力会社から電気を買っているけど、数万㎾レベルを使う工場は自前で発電機を持つだろうな。今日見ただろう?あんな簡単な設備で2万㎾以上だせるんだぜ。工場の保守管理員が片手間で管理できるしな。我々電力も難しい時代に入ってきたよ」
「それは言えるが、俺たちはまだいいよ。俺の専門は発電だろう?同級生なんかでメーカーで働いている奴もいるんだ。ガス、石油、水力、風力、それに原子力もそうだけど発電機は今後軒並み売れないよ。だって2桁値段が違うんだぜ。使うほうはいいよな。安くなるから、節電などする必要がなくなる。
とは言え、俺たちはこれからMジェネレーターの設置で追いまくられるな。うちの発電能力が8千万㎾だから、160ユニットか。まあ、大部分の設置場所には受変電設備があるから、作業量としてはそれほどのことはないな」
「うん、君らは数が多いから大変ではあるな。だけど今回のリストから原発は除いたけれど、K原発なんか、どうせ原発は廃炉だろうし、全部入れ替えだよね。800万㎾だから16セットでまとめてやれるな」
「うん、原発には送電設備はあるから、まあ設置場所としては適している。でも、実際のところはあんな遠隔地でなく、需要地に近い場所を選びたい。この場合は少々の送電ロスは問題にはならんけど、送電線の維持管理も馬鹿にならんし、永遠にもつものでもない」
「ああ、市街地にも変電所とかいろいろあるから、そういう所に配置するようになるだろうな。どっちにせよ、これほどのものが出たら暫くは大変だ」
三村が真面目な顔で言う。
記者会見の翌日、大学と経産省などとの話の後に、外務省から人がやって来たが、経産省の職員も一緒である。これは、香川教授の予想通りであったが、結構重たい話であるはずだ。
香川の部屋は狭いので、工学部の応接室で客を迎えた。外務省から会田参事官、村芳子外務官、海江田書記官の3人、経産省から室井参事官、広田佐知技官の2人来ている。
会田参事官がまず話をする。
「先生たちから、昨日Mジェネレーターの記者発表をさてたわけですか、海外から大きな反響があります。その中には何らかの行動が必要なものもあり、ご相談に伺いました」
「そうでしょうね。続けて下さい」
香川が続きを促す。
「はい、御推察のようですね。基本的には早く欲しいということですが、技術を開示しろという要求も多くあります。とりわけ高圧的に出ることの多い近所の国2つが、技術を寄こすのが義務という言い方をしています」
「キュアラーの件では損をしたと思うのですが、あまり懲りてないようですね。ええ、仰る通り、そうなるという予想はしていました。それで、外務省はどういう対処をお考えですか」
「我々としては、彼らが怒らない程度にMジェネレーターを供給できればと思っています。そのためには国内に十分な供給体制を作って頂きたいと思っています。この点で海外からの不満が大きいと、技術開示を拒否することは困難だと思っています」
会田が言うのに、経産省の室井参事官が続ける。
「経済産業省としては、日本国内向けは、概ね2年以内で必要な2億㎾、400セットの出力のMジェネレーターの供給はこの地方の企業さんで供給可能であると判断しています。しかし、海外向けも5年位で対応が必要と考えています。これの対応は、難しいと考えておりますので、経産省主導で企業グループを作らせて頂きたいと思います」
香川教授はすぐに頷いた。
「うん、そうでしょうね、解りました。何れは漏れるでしょうが、まだMラジエターと魔道具のノウハウは出したくないですから、その辺の秘密保持はお願いしますよ」
「はい、総務省とも話をいまして、N大学を中心にセキュリティチームを組むことになっています」
室井参事官が応え、その後も、香川と外務省及び経産省との、海外からの圧力の詳細、国内企業への技術移転の具体策、秘密保持についての話し合いが続いた。




