2-3 Mジェネレーター狂騒曲1
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記者会見は質疑に入り、司会が言う。
「では、質問をお請けしようと思います。所属とお名前を名乗った後にお願いします。出来るだけ多数の方からの質問をお請けしようと思いますので、質問事項は2つに限って下さい。あと、レイナ嬢のプライベートな質問はご遠慮下さい。はい、そちらの方」
「MK新聞科学部の境です。香川先生に伺います。このMジェネレーターは原子的な反応によって電力を生み出すと言われましたが、放射線などは発生しないのでしょうか?また、その魔方陣を公開する予定はあるのでしょうか?」
「はい、放射線の測定は念入りに行っています。その結果、有害とされている、核種から発生するようなγ線などの放射線は検出されていません。それと、魔方陣は当面公開するつもりはありません」
「AKテレビの山田です。このMジェネレーターは大変な発明だと思うのですが、特許関係はどうなっているのでしょうか?それと実用化はすでに準備されているのでしょうか?」
「はい、特許についてですね。魔方陣そのものは当面申請しませんが、魔方陣とMラジエターの組み合わせの特許は申請しています。Mジェネレーターは銅シリンダーとの組み合わせで、発電装置として申請しています。また、実用化ですが、すでに国内全ての電力会社と今日の午後協議することにしています。
また、当学の構内に2.5万㎾の実証装置を設置して実験を行っています。これについては、T電力さんの全面的な協力を頂いています。なお、ご希望の方は後で実機をお見せします」
「Y新聞の牧田です。ご存じのように、先日石油資源の枯渇に関するレポートが出され、そのことで原油価格が急激に上がっています。その状況において、このMジェネレーターは極めて重要だと思うのですが、当然経産省などからの接触はあると思います。この点で、政府との連携についてどうお考えか、またどうなっているのか教えて下さい。
また、Mジェネレーターの設備、運転のコストについて可能な限り教えてください」
「はい、経産省さんにはすでに連絡を取って、開発状況の説明はしています。政府との連携は午後、電力会社との会合でも絡んで話をしますが、現時点で具体的なお話はできません。コストというか価格はまだ決めていません。ですが、Mラジエターは、医療関係でご存じの通り150万円ですが、発電の場合は、一基当たりの出力をあげようと思っていますので、その価格は適用できません。
Mジェネレーターの価格については、まだはっきり決めていません。運転コストは、Mラジエターの電力とその償却、銅シリンダーの交換位で、既存の発電機に比べれば僅かなものになります」
「S新聞の牧田です。魔力の存在が実証され、その発生器まで開発されました。さらに魔法具としてキュアラーはすでに大センセーションを起こしています。そこに、この世紀の発明であるMジェネレーターです。これらは、他国から見れば垂涎のものだと思います。そして、それら全てがレイナさんという個人から齎された訳です。
しかも、彼女はさっき見せて頂いた、極めて強力な雷の魔法を使えるいわば人間兵器でもあります。無論私はレイナさんがそのようなことを不法にするとは思っていませんよ。でも、大学というより国として、レイナさんを厳重に守ることが必要なのではないでしょうか?」
「はい、有難うございます。まだ治癒の魔法具の段階では良かったのですが、このMジェネレーターに至っては我々もセキュリティの問題は深刻に受け止めています。だから、その点で実際にすでにそれなりの措置は取っていますが、国とも相談して早急にさらに必要な措置を取っていきます。」
「韓国KYテレビのバクと言います。異世界から来て魔法が使えるレイナさんについては、わが国政府が招請を出したけど無視されていると聞いています。異世界から来た彼女を、日本が独占するのはおかしいですよ。彼女は人類共通の財産でしょう?それに……」
「お待ちください。ここはテーマに関する質疑の場であって、そのような議論をする場ではありません。そのような話は、おやめください」司会が割り込んだ。
「いや、そう言って君らは我々に何も言わせようとしない。ふん。では質問です。そのMジェネレーターという魔道具を韓国の会社にも作らせて一緒に売っていきませんか。韓国企業の活力を使えば、たちまち世界を席巻できますよ」
「いや、韓国企業と組むメリットがないので、大学としては共同事業などのことはやりません。さらに、この発電所建設は国家事業になると考えているので、まして韓国企業は難しいですね」
香川の答えにバクはそれ以上ごねなかったので、なかなか理性的な記者であったのだろう。
その後は目立った質問もなく、香川達は出席者を引き連れて、実証試験装置を見に行った。それは、工学部の工作棟の隅に置かれている。鋼製架台の上に建てられた径50㎜×高さ1.0mの銅の棒に魔方陣らしき板が取り付けられ、その横に脚付きのMラジエターと制御監視盤が並んでいる。
監視盤にはスクリーンついていて、電圧、電流、出力などが表示されているが、研究室でもモニターできる。工作棟は広いが、50人以上のマスコミの者には少し手狭である。
「この銅の棒に、このように魔方陣のプレートが取り付けられてMジェネレーターとなり、出力は2万5千㎾になります。実機では、径300㎜の銅シリンダーに魔方陣のプレートが付いたものに、Mラジエターも出力を大きくして出力5万㎾を考えています。そして、それを10基連ねて50万㎾の出力を標準セットとして考えています」
案内の香川教授が、そう言ってボードに貼った図を示して説明を続ける。
「その50万㎾の発電機の全体的な大きさはこの程度になりますが、むしろ送電関係の機器の方が大きい位でこのようにコンパクトです。また、この実証機の音は少しブーンと鳴る程度で小さいでしょう?」
教授は、記者たちが自分の問いに頷くのを見て話を続ける。
「音はこのように小さく、温度も常温でありコンパクトですから、市街地に発電所を作っても問題にならない訳です。それに、電気の送電距離は短い方が有利ですから、出来るだけ発電所は需要地が近い方が望ましいのです。だから、今後は市街地にも沢山発電所が作られるでしょうね。
それ以上に、大電力を消費する工場にはどんどんこの発電機が設置されると思っています」
カメラは、そう説明する香川教授を追っている。その後、時間の許す限り記者の質問が続いた。
その日の午後、香川教授の言った通り学内で会議があった。国内の電力会社から各3~5人に国の省庁から10人ほど、地元出身の国会議員も2人来ている。さらに産業界からとして、間島コーポレーションと間島が引っ張り込んだ地元の大企業も加わっての10人ほどが参加している。
それぞれの出席者のグループの席の中心には、所属のネームプレートが置かれている。電力会社の出席者が多いところから彼らの会議への入れ込み方が判る。それ当然であろう、過去半年で原油価格が3割以上上がっているのだ。
しかし、国会議員の与党の柿本正樹衆議院議員と野党の信濃佳代衆議院議員は、正直言って完全なお邪魔虫である。しかし、地元のネットワークからの情報で申し込んできた以上は断り難い。連中は役人には強いから会議はやり難くなる。
しかし、司会は香川教授であり、何といっても当該技術の開発者であるから上手くさばくだろう。
「本日は御出席頂きありがとうございます。特に遠方から来られた電力会社の皆さんには、呼びかけに応じて頂いてありがとうございます。すでに電力会社と省庁さんには資料を送らせて頂きましたが、受け取られましたよね?その他の方には入場時に印刷したものをお渡ししましたがよろしいですね?」
香川の言葉に、うるさ型と名高い信濃議員が早速いちゃもんを付ける。
「今日記者会見を開いたようですが、そういう大事な案件の発表はせめて前もって私らのような地元の国会議員に知らせるべきでしょう。また今日の会議も、組合から知らせがないと知りませんでしたし」
「はあ?確かに今日記者会見を開きましたが、なにか国会議員に許可を貰う必要がありますか?」
「いえ、許可ということでなく、この私の地元のN県で、こうした大発明が生まれたのを報道でしか知らないのは問題だということです」
「ああ、そうですか、それは申し訳なかったです。では議題を進めさせて頂きます」
躱された信濃は、顔を真っ赤にしているが、横に座った柿本が笑いをこらえている。
「先ほど皆さんに見て頂いた装置は説明した通り実証装置です。実装置は現場でも説明しましたが、図-2にあるもので、5万㎾のジェネレーターを10基連ねて50万㎾のものとしています。現在図-2にある実装置のための銅シリンダーは、量産工場を建設中ですが1週間で完成します。
また、魔方陣そのもののCAD化は出来ており、まもなく量産に入れます。さらに出力を上げたMラジエター2型も量産工場が出来ています。ちなみに、すでに申しましたが、これらはすべて試作して機能することは確認しています。そういうことで、量産の体制は整いつつあります。
我々が標準と考えている50万㎾とした発電機は、図-3にある通りの大きさですから、既存の送電設備があるところであれば大抵の所には配置できると思っています。それで、各電力さんはそういった発電機の設置場所の候補地はありますか?」
香川の言葉に、一斉に手が上がり話を纏めると、3,550万㎾の発電量になった。それも各社が口々に言っているのは、1~2日で急いでまとめたもので、今後大幅に増える可能性が高いということだ。
「ええと、今の話を纏めると50万㎾の装置の71セットが必要ということですね。その程度であれば、3ヵ月程度で揃うと思います。ですが、1ヶ月後には10セット位は完成していますから、各電力さんで初号機としてそれを設置して運転をしてみませんか。とりあえずそのための準備にかかるべきだと思います。
そのような前提で、価格や具体的納期については、そちらの製造する企業さんと話して下さい」
香川の言葉に、電力会社は企業グループと話し合いに入る。
次に、香川達は経産省、国交省、総務省の職員と話しあいに入るが、それには柿本、信濃の両議員も加わる。まずは、経産省の幹部から話があった。
「資源エネルギー庁長官の稲垣です。まず、この度はこのような発電設備を開発頂いて大変感謝しています。実際のところ、先生方が言われたように、今後原油価格がどこまで上昇するか我々としては戦々恐々としていました。
ごく最近の情報によると、産油国が密かに集まって、第2の石油ショックを狙っているらしいというのです。そこにこのMジェネレーターですから、彼らの頭を大いに冷やす効果があると思うのですよ。いずれにせよ、早く普及をお願いしたいと言うことで参ったのですが、我々が口を出すまでもないようです」
これに対しては財田教授が応じた。
「まあ、経産省さんがそういうお考えなら安心しました。しかし、今我々の考えているのは、既存の発電機の代替です。ですから、既存の発電所の改修になるわけで、様々な許認可が必要でしょう。だから、国策としてその点で出来る限りの便宜を図ってやって欲しいですな」
続いて、香川教授が2人の議員に頭を下げて頼む。
「柿本先生、信濃先生もその点の後押しをお願い致します」
「無論です。これは全ての日本国民のためです」
そう柿本議員はきっぱり言えば、信濃議員も言う。
「そう、それだけでなく地球温暖化にこれは素晴らしい効果があるわ。私も無論最大限後押しします」
その後の話合いで、レイナのセキュリティの問題は総務省が担当することになった。




