2-2 雷の魔道具、Mジェネレーターの開発
読んで頂いてありがとうございます。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
N大学工学部は記者会見を開いた。
題材は『魔道具Mジェネレーター』となっている。N大学は、1ケ月前には医学部が治癒の魔道具による治験結果を発表して世界を驚かせ、今もその魔道具の国際的な分配で大騒ぎになっている。また、大学には異世界の魔法使いレイナ嬢が通っていることで知られている。
だから、校内の講堂で開いた記者会見には、50人近い報道陣が詰めかけており、テレビカメラも3台据えられている。報道陣に向かった長机には、香川名誉教授、電気工学科財田教授、電子工学科宮島助手に、香川の横にレイナも加わっている。司会役は工学部の総務課職員が務めている。
「では、時間になりましたので、記者会見を開催します。今日の題材は『魔道具Mジェネレーター』としていますが、魔道具としての新たな発電システムの開発に係わるものです」
そこで会場がざわついたが、司会は淡々と進める。
「まず、ここに居られるのは、開発を主導されたメカトロニクス工学科の香川名誉教授です。次は…………、さらにこの方無くしては開発が出来なかった、レイナ・サリー・カルチェルさんです。
さて、今から説明を始めさせて頂きますが、質問については説明が終わって私がお願いしてからにしてください、では香川教授お願いします」
「はい、皆さん。お早うございます。今日発表しますのは、魔力によって、物質、この場合は金属の銅ですが、銅から電力を取り出すことができる魔道具を開発したというものです」
この言葉に、会場はひと際ざわついたが、香川は気にせず続ける。
「元々は、これはレイナ嬢が使える、雷の魔法を魔道具化することから始まりました。ええ、スクリーンをご覧ください。画面で今レイナ嬢が手をかざして構えていますが、彼女は雷を任意の範囲に飛ばすというか落とすことが出来ます。この場合の的は、100m先にある大岩が転がっている大体100m四方です。
今スクリーンに時間がでていますが、今の7秒がゼロになったら、レイナ嬢が雷を撃ちます。今!」
レイナの手のひらから光が走り、バリバリバリバリ、バリバリバリバリバリ、バリバリバリバリ、バリバリバリ!と底響きのする落雷音が連続して、まさに稲妻である光の線が何本も走り、標的と言われた部分が広範囲に弾ける。岩が割れて転び、灌木が爆散して飛び散り、草がなぎ倒される。
このシーンを観ている記者たちは目を丸くしている。10秒ほどそれは続いてやがて静まる。
「どうです、雷の魔法はレイナ嬢の最大威力の魔法だそうですが、確かに大変な威力があります。しかし、まず注目して頂きたいのは、彼女が握っている棒です。あれは銅の棒です。雷の魔法を使うときは必要らしいのです。
次に彼女が撃った雷は当然電気ですが、雷のように摩擦で起きた静電気ではありません。後に計算したところ、10秒の間に約6千㎾hの電力を発生したことになります。これは、一般家庭の1,200軒の月当たりの消費電力です。
また、雷の魔法は魔方陣として表すことができますが、その魔方陣による雷は、魔方陣に接続している銅の棒から取り出すということになっています。つまり彼女は、魔力を使って銅の棒から電力を取り出しているのです。
だから、魔力を使って雷でなく電力として取り出せないかというのが、そもそものこのジェネレーターの発想です。そのため、魔方陣を様々に改変・試行してそのような魔方陣を作ることに成功しました。それが本日の発表になります」
今度こそ、大きなどよめきが上がったが、香川は続ける。
「その雷の魔方陣のプログラミング語による作成については、この宮島君がまずレイナ嬢から指導されながらその詳細を理解し、26個に及ぶ魔方陣を作成して実験を行って成功した訳です。
宮島君は、元々レイナ君が持って来た魔方陣を翻訳して、プログラミング語で書くことで再現できることを見出した人物です。彼はさらに、電気工学科と協力してその魔方陣を実用に即した形に改良して、すでに実用試験も成功しています。では、宮島君お願いします」
「はい、電子工学科の宮島です。私は、レイナ嬢が持ち込んだ魔道具の魔方陣を、彼女の教えを請いながら理解に勤めました。その結果として、魔方陣はプログラミングそのものであることに気が付きました。レイナ嬢の国では、魔方陣作成は銅や銀などの金属板に針で刻んで作るもので、大変な熟練が要る仕事だそうで、出来る人は限られ大変高価なものだそうです。
しかし、我々にはCADがあり、金属板にCADで打ち出した内容は容易にエッチングで刻めます。つまり、レイナ嬢の国の言葉から、翻訳したプログラミング語でCADで魔方陣を書けるなら、魔方陣を作るのは非常に容易です。
そして、作った魔方陣は機能しました。ですからキュアラーの魔方陣を作ったのは私ですし、今日発表のMジェネレーターと呼んでいる発電の魔方陣を作ったのも私です。しかし、勿論、キュアラーはレイナ嬢が持ち込んだ魔方陣を単に翻訳したのみです。
また、Mジェネレーターは、そういうものが作れるという香川教授の発想と、魔方陣を改変するにあたっての教授の具体的な改変の指導が無ければできませんでした。あとは、Mジェネレーターのプロトタイプを作った後の、財田教授の指導なしには実用化は出来ませんでした。では財田教授宜しくお願いします」
「はい、電気工学科教授の財田です。いやあ、Mジェネレーターを最初見せられた時は驚きましたよ。私はどちらかと言うと強電、つまり電力供給や発電とかが専門なのです。その専門から言えば、発電というと、エネルギーを使って出力するものです。火力とか水力と原子力あとは風力、太陽光などですね。
その点では、このMジェネレーターは大きく違います。たぶん魔力によって、銅の原子を電力に変換しています。それは、発生した電力のエネルギーの質量換算した重量が、発電に使った銅から減っていることから間接的に裏付けられています。この点は精密に銅シリンダーの重量を測って確認しました。
もし、これが本当なら大変なことです。原子力は無限のエネルギーのように言われていますが、今の原子力発電は、核分裂を起こした時にほんのわずかに減った質量分のエネルギーを使っているのみです。
しかも、多量の有害な放射線を発生する。ところが、このMジェネレーターは質量をそのまま電力に変換しているようなのです。そのために必要なのは、魔力と称する一種の波を浴びせることのみです。これは、いままで核融合などの研究をやって来た人から言わせれば『ずるい』の一言です。
話が逸れました。大変というのは、このMジェネレーターなるものは、宮島君の作ってくれた魔方陣を張った銅のシリンダーと、Mラジエターと名付けられた魔力発生器のみの組み合わせです。その銅シリンダーに電力取り出しの電線を繋いで、MラジエターをONすると、2万5千㎾の電力を発生します。
Mラジエターの消費電力は0.8㎾ですから、発生電力当たりの消費電力は31,250分の1です。つまり、このMジェネレーターが普及することで、世界のエネルギー問題は解決します。
そして、その結果多くの混乱は起きるでしょうが、人類の未来にとってはこれは無論良いことです。なにより、人類の将来に暗い影を落としている、エネルギー問題に解決をもたらします。エネルギー問題が無ければ、次なる難問と言われる資源の問題も解決できます。
魔法というものを、日本にもたらしてくれたレイナ嬢に私は大いに感謝したい。そこで、是非レイナ君から日本国民の皆さんに一言お願いしたいと思います。レイナ嬢はすでに日本語は不自由がないと聞いていますので、直接話して頂けるはずです。ではレイナ君?」
「はい、レイナです。私がこの日本に来てもう4ヵ月が経ちました。その間、間島様のお宅にお世話になりながら、このN大学に通う日々でしたが、その中で色んな経験もし、色んな所にも連れて行って頂きました。私の日本の印象は、なにより安全で、暮らすのに便利で快適ということです。
なにより、食事のおいしさ、毎日入れる風呂の快適さ、それに楽しい娯楽に溢れています。暮らすのにこんなに快適な所はないと思います。そして、その快適かつ安全な生活が、進んだ技術と社会の制度に支えられていることも学びました。
私の国は、貧しく遅れています。多くの平民が冬に寒さと飢えで亡くなりますし、食べるものが無くなると戦争が起きます。私のような魔法を使えるものはいますが、実用になるそれを使える者は精々10人に一人です。ですから、私は一生懸命勉強して日本の技術と制度を学んで、国に持って帰り、人々の暮らしを改善したいと思っています。
特に、この日本の技術があれば、少なくとも飢えは無くなると思って、今は農業の勉強をしています。
ああ、すみません。関係ない話をしました」
レイナは赤くなって謝ると、話を変えて続ける。しかし、レイナがこの種の話をしたことは殆どないので、記者たちは却って話が変って残念そうだ。
「さて、今回雷の魔法を電力に変える魔法具を香川先生たちが開発しました。電力はこの世界では大変大事であることは、日々電気で動く器具を使って私も実感しています。私の雷の魔法は師匠から教えて貰ったもので、私の最も得意な攻撃魔法にしています。そして、実際に戦争で使ったこともあります。
でも、この魔法は魔道具にすることはできますが、魔石から出る魔力が限られていますので、魔道具の威力は弱いのです。また魔方陣が複雑であるため、作ることが難しいので高価なため余り作られません。
それを、香川先生たちはあっさり魔道具にして、私の魔力と同等の魔力を出せるMラジエターで簡単に雷の魔法を発動しました。でも、この日本で雷を撃ててもあまり意味がないと、私は心配していました。
それを、電力を発生する発電機にしてしまうとは思いもよりませんでした。そして魔道具としてのMジェネレーターの重要性から思えば、香川先生、宮島先生や財田先生の成果は素晴らしいものだと思います。私は、たまたま持っていた能力があって、それを香川先生がその可能性に気が付いて、発電の魔法具を生み出しました。それでも、私が開発のきっかけになった訳ですので、その点は大変嬉しく思います」
レイナの言葉に対しては会場から大きな拍手が沸いた。マイクを置いた彼女に、横に座った香川が肩をポンポンと叩く。




