1-1 レイナ嬢、俺の家に出現
新作を始めました。よろしくお願いします。
この作は大体1話3000字強で、50話以上になりますかね。
出来る限り毎日朝6時にアップします。
割に多いので、誤字脱字のご指摘をお願いします。
なお、作者のモチベーション維持のためブックマーク、評価をお願いします。
俺は名を間島栄太郎、社員3千人を超えるマシマコーポレーションのトップである。マシマコーポレーションは東海地方A県を中心にガス供給、スーパーマーケット等を展開している。わが社は、地元の消費に密着しているので業績は安定している。
俺の家は、本社のあるA県の県庁所在地の中心からは少し離れた山裾にある。裏に緑の山を背負い、前にため池のあるロケーションが気に入って建てた家だ。家は平屋で、敷地は1,000㎡を超えており、庭には広い芝生がある。俺は毎朝5時過ぎから、その芝生でラジオ体操をして周辺を5㎞ほど散歩する。
しかし、その朝は様子が違っていた。めったに吠えない柴犬のポチが吠えている。
「こら、ポチ!うるさい」
俺は、まだ寝ている妻を気遣って声を押さえて叱りながら近づいた。しかし、なんとそこには女の子が倒れているではないか。そして、ポチがその子に向かって気遣っているように吠えているが、さほど激しくはない。怪しいとは思っていないのだろう。流石にわが家のポチは賢い。
とは言え、人の家に倒れている人って十分怪しいと思うけど。それにもう一つ怪しいと思う理由があった。見える限りの服装は、黄色っぽいスカートにブラウスのようなものだったが、なんと髪が紫だった。昔有名(?)な、髪を紫に染めて紫ババアと言われた経済学者がいたが、同じように染めてるのかなと思って、真っ先に髪に触ってみた。
さらさらしているその髪は、長さは肩までくらいか、触っても染めている風ではなかった。曇りの朝で夜露は降りていないから、髪も服も乾いている。そして、その子からは何かいい匂いがする。しかし、俺はそこで、こんなことをしている場合ではないことに気が付いた。
「おい、君。おい、おい!」
俺はその子の肩を掴んで揺り動かした。
その肩は早春の低い気温に少し冷たいが、ゆっくり上下する胸と呼吸からは苦しそうには見えない。胸元から少し肌がのぞき、その先のふくらみを想像させてドキリとする。俺は「えへん」と息を継ぎ、気を取り直した。なにせ俺は73歳、70歳の妻にも欲情はしないほどだ。それに彼女のふくらみはさほど大きくはない。
しかし、彼女は少々揺り動かした程度では目を覚まさない。俺は仕方なく、妻を起こすことにした。我が家には昼間2人に来てもらっているが、泊まり込みのお手伝いさんはいない。妻の寝室に行ってドアを叩きながら開けて言う
「おい、峰子、起きろ。女の子が倒れている」
「う、うう。何ですって?」
寝ぼけた声で峰子が応じる。
「だから、庭に女の子が倒れているんだって」
「ええ!何、何よ?」
ようやく目を覚ました峰子が起き上がり、ガウンを羽織って太った体で俺について来る。
「どうしたのよ、これは!紫の髪!エイさんが連れ込んだの?」
妻は俺のことはエイさんと呼ぶ。栄太郎は長いらしい。
「馬鹿言うな!起きてここに来たら倒れていたんだ」
「ふーん。まあいいわ。でもなによ、紫の髪って?」
そう言って芝生の上にしゃがみこみ、俺と同じように肩を揺すって声をかけるが起きない。
「ねえ、ねえ。あなた、起きなさい!」
「ふう、仕方がないわね。ここに寝かしておくわけにはいかないでしょう。エイさん、抱き起して居間に運んで。変なところを触ったらだめよ!」
起きないのであきらめた峰子はそう命じる。よく73歳の爺さんに言うものだと思うが、俺は柔道経験があって体重80㎏あり、今でも毎朝200回の腕立て伏せをしている。
若い頃、何人かの彼女、それに細かった峰子を抱えた経験を除いて、長く女性を抱えた経験はない。だが、思ったよりその子は軽く、楽々居間のソファまで抱えて運べた。なかなか良い香りがするところが良い。峰子はまずコップに水を用意して、次に薬箱を出してくる。
「ああ、気付け薬、これね」
ごそごそ薬箱を探って、液体の薬を取り出して言い、ソファの上で彼女の半身を抱き上げて蓋を開けたそれを鼻の下に持っていく。数秒経つと、「コホ!」とせき込んで、少女は目を開ける。鮮やかな緑の目だ。始めはその目はぼんやりしていたが、少し経つと焦点が合った。
そして頭を回して見渡して何か言う。「〇×▽〇〇××」
さっぱり、わからない。
「あなたお名前は?わかる?」
峰子の問いに、彼女はソファから立ち上がる。スムーズかつ優雅な動作だ。そして、俺に並んで一歩下がった峰子と俺に向かって深々と頭を下げる。同時にこのような考えが頭に伝わってくる。
『有難うございました。助けてくれたんですね。私の名前は「レイナ・サリー・カルチェル」と言います。「レイナ」と呼んでください』
そして、名前の部分のみは声に出して言うところを見ると、こうしたコミュニケーションに慣れている?それにしても、洗練された動作である。身長は160㎝弱か、すらりと伸びた肢体は引き締まっており、膝までのスカートと長袖で襟のついたブラウスを着ている。
その服の縫製は余り良くないが、黄色っぽいその服は、すっきりした彼女に良く似合っている。少し浅黒い肌の色であるが、顔立ちは整っていて柔らかい輪郭である。その紫の髪に、少したれ気味の緑の目とあいまって優しげであるが、この世のものとも思えない雰囲気を醸し出している。
俺は仕事柄美人にも結構会うことがある。俺の秘書だって美人だしね。だけど、たちまち彼女の雰囲気に魅せられてしまった。それは峰子もそうだったようだ。すでにセックスレスの夫婦であり、互には色気もなにもないが、俺の場合には美女、峰子は美男のみならず美女には感激する。
レイナは念話(?)によって、発音を示す必要がある時は声を出し、そのほかは意思を伝える。俺たちは普通に喋れば彼女が理解するということで、コミュニケーションは十分成り立った。レイナは、イスカルイという王国の貴族の娘であり15歳だという。
15歳と言っても、生まれてから惑星カガルーズが15回公転した回数生きているということで、地球時間で何歳かは判らない。ただ、普通の寿命は60歳位らしく、90歳を過ぎても元気で生きている者はいるらしい。イスカルイ王国はミズルーという大陸にあり、人口は8百万人程度という。
国の気候は暖かく冬もそれほど寒くない。さらに水に恵まれた大きな平原があるので、農耕には向いている。しかし、数年耕作すると、実りは悪くなるために順次耕作地を移転する必要がある。それでも、イスカルイは何とかなっているが、周辺の国は水がないか、平原がないかで飢餓がしばしば襲うという。
そのため、イスカルイは周辺国から侵略の危機にさらされていて、こぜりあいはしょっちょうあるという。イスカルイは、魔法師団が優秀で侵略されても跳ね返していると、レイナは胸を張って言う。彼女は、魔法師団の戦士というより研究者である。
彼女は、このところ転移魔法を研究していたのだが、その成果として転移したところ、ここに現れたのだという。『国の端まで転移するはずだったのですが、てへ、失敗しました』
そう伝えてぺろりと舌を出す。
「魔法!?レイナは魔法を使えるの?」
峰子が驚いて俺が言いたかったことを言う。
『ええ、私は若いけれど、国の最高の魔法士の一人です。転移の魔法自体はあるのですが、長い詠唱が必要なのです。それで、短縮詠唱を試したのですが、今回はどうも失敗したようです。明らかにここはイスカルイではないですよね?』
俺と峰子は頷いて俺が言う。
「ああ、この惑星は地球と言って、君の言うカガルーズという惑星ではないな。それに魔法を使える者はいない。だから君は異世界から来たんだな、多分。それで、やはりその魔法を使ってみて欲しい」
レイナは優雅に頷いた。
「よろしいですわ。まあ、ここでは余り危ないことはできませんから、まず風魔法で、そこの机の上にある大きな灰皿を動かしましょう」
そう言って、彼女は指をそのガラス製の灰皿に向けて「〇×▽〇!」とつぶやくように言う。すると、その重そうな灰皿は揺れながら1mほど浮き上がり、ゆっくりその高さで部屋の中を回りまたゆっくり机の上に戻る。その灰皿の横を風がびゅうびゅうと舞っている。
「いかが?」
彼女は手を脇に戻して言う。それに対して、俺は感嘆したが極力冷静を保ってレイナと峰子に言った。
「うーん。見事なものだ。まさにドローンのような動きで、風の魔法と言うにふさわしい。とは言え時間が無くなった。今朝は会議があるから出勤の準備をしなくてはならん。昼間誰かを寄こすと思うので、協力して欲しい。峰子、多分香川君に声をかけるので、対応を頼む」
俺の言葉にレイナと峰子は頷いて了解する。
その後レイナは峰子に家にある家電について説明を求めたらしい。
『この家には見慣れないものが沢山あります。私の国にも魔道具がありますが、大分違いますね。まず、これは何か教えてくれますか?』
彼女は、60インチのテレビを指さす。それからは、峰子が喜々として、指さしたテレビに、スマホ、居間の電動シャッター、各部屋の照明、トイレ、風呂、さらには彼女の自動車など細々と教えたようだ。
俺はその間、出勤してきたお手伝いの山川さんの作った朝食を食べて、出勤の準備をしていた。そして、迎えの車が来る前にレイナに会った。一通り峰子から説明を受けたレイナは、まだ消化しきれていないようで、呆然としていたが俺の顔を見て言った。
『決めました。私はここ、「日本」と言いましたか?ここの技術と、そのよって立つ社会を知りたい。でも「日本」には魔法がない。だから、どうでしょう?私が「日本」のことを学ぶ、そして私は魔法を「日本」の皆さんに教える。これは可能でしょうか?』
俺は驚いたよ。何という探求心と積極性!だから俺は無論頷いて言った。
「もちろん可能だ。レイナはわが家という良い場所に来たよ。俺が最高の教育を提供するよ、任せてくれ。魔法にも大いに期待している」
レイナが転移の魔法を開発したという表現は訂正して、詠唱省略を試して失敗したとしました。