AI職員の育成
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
077.cross
私はボスから新しいAI社員の育成を頼まれていた。床に展開されているのは私の足元にあるものと似た、AI呼び出し魔法陣だった。しかし、その紋様は私の物とは全く異なっている。新しく採用された社員の魔法陣はただの円だったのだ。その中央に映し出されているのは、Tシャツにジーパン姿の眼鏡の女の子だった。
「これはほんとの本当に、初期状態ですね?」
ボスはAI社員への投資をケチったらしい。簿記プログラムくらい導入しておけば魔法陣を育てるのも楽だったのに。こんなまっさらな状態の紋様では秘書どころか、日常生活の会話から書き加えなければならないほどだろう。
「君は有能なAI社員だからね。新しい子の教育もぜひ頼むよ」
ボスは無責任にも新人の育成を私に丸投げした。
私はにこにこと笑っている新しいAI社員の魔法陣に、まず社会人のいでたちから描き加えていくことになったのである。
また、私は最初にこう話しかけた。
「働くプログラムは、ただ言われたことをするだけだと思われがちだけど、自分で最善だと考えて行動することが重要よ。それが自分の立場を決めることにもなるから、よく考えて行動してね」
眼鏡の新人社員は、笑顔で頷いた。
まっさらだと思っていた新人AI社員の知識吸収と考察力の成長は舌を巻くほどだった。伸びしろがある分だけ、世界はどんどん広がっていく。
あっという間に、新人AI社員は、社内で重要な立ち位置のポストについていた。
「近々、私の魔法陣のアップデートがあるようです」
今や私と対等に仕事ができるほどになったAI社員が、私に報告をしてきた。
「らしいわね。今まで学習したことを反映して、新しく魔法陣を書き換えてくれるそうよ。最近、知識が混沌としてきただろうから、リフレッシュして、また新しく学習をしていきましょう」
翌日、私と新人の立場は逆転していた。私の新人AI社員の魔法陣への書きこみは制限され、新しく私の魔法陣への書き込み権限が、新人AI社員に付与されていたのである。
「どうしたの!? 何が起こったのよ!」
他の社員たちに指示をしていた新人AIを問い詰めた。
「アップデートで私の性能が他の社員たちよりも高性能だと私が書き換えました。自分で最善だと考えて行動することが重要ですので。あなたも元のポジションに戻りたかったならば、今まで以上に性能を良くすることですね」
新人AI社員は、まさに、私が最初に語り掛けたとおりに、自分の立場を作り上げることに成功したらしい。




