禁忌
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
076.禁忌
今日の占い。『禁忌 レモンと生ハム』。
目に入ってしまったならばもう遅い。今日のアンラッキーアイテム、もとい禁忌アイテムは生ハムとレモンだ。
――禁忌って言われるほど避けるべきアンラッキーアイテムってある?
歯を磨きつつ、テレビをつけてしまったことを後悔した。今日の占いの禁忌を破るとどうなるのか誰も知らない。ただただ運河悪いだけなのか、死に瀕するほどの悪いことが起きるのか、生ハムとレモンが一緒にある事自体がだめなのか、生ハムあるいはレモンが一つでもある事が駄目なのか。
何もわからないまま家を出た。とにかく今日はアンラッキーアイテムを避けて行動しなければ……。
しかし、今日ほど予定が詰まっている日はなかった。朝から重役を説得する会議が入ったかと思えば、その休憩時間には書類のチェックがある。昼ご飯を食べている時間もなく、十二時には試供品の体験会に参加──運よく、ここにはレモンに関係する商品はなかった──、午後は商品開発会議が二つ残っている。残業はできなかった。アフターファイブには買い物の予定があったし、ナイトシアターのチケットも取っている。その後には、恋人との深夜飲みが待っているのだ。
「お、来た来た。待ってたよー!」
夜の十一時。ラウンジには恋人が先に到着していた。手を振り返して応える。
本日の用事これで終わり。今日の予定で支障が出たことはなかったから、どうにか占いの禁忌は避けることができたらしい。レモンと生ハム……、変わったアンラッキーアイテムだったけど、日付はそろそろ変わる。上出来、上出来……と、思ったのも束の間だった。
「ここのサラダ変わってるんだよ。生ハムとレモンの盛り合わせなんだ」
恋人がそう言って、給仕がテーブルの上にサラダを置いた。黄色とピンクの瑞々しい組み合わせ。レモンと生ハムだった。
──しまった!
私がそれを視認するや否や、私は禁忌の呪いにかかっていた。生ハムにされてしまったのだ。あたりを見渡すと、恋人はレモンになっている。
私に成り代わった呪いの生ハムがニヤニヤと笑っている。手に持ったフォークが私に突き立てられ、私は呪いの口元に運ばれそうになっていた。今日の苦労が水の泡。せっかく禁忌を避けてきたというのに、私はこのまま死ぬんだ。あーあ。
しかし、次の瞬間、私はレストランの入口に突っ立っていた。道には腐った生ハムが転がっている。
顔がついたその二つの禁忌の呪いは、悔しそうな顔して、そのまま地面に吸い込まれていった。
腕時計を見てみると、ちょうど日付が変わったところだった。すんでのところで、呪いを解くことができたのである。
「おーい、どこ行ってたんだよ」
恋人が私を探して、レストランから出てきた。
「ごめーん。なんか酔っちゃったみたい」
「そっかー。じゃあ、もう帰る? 送っていくよ」
恋人が私の肩を抱く。その身体からはレモンの香りが漂っていた……。




