ペットのもじゃもじゃ
飼っている怪異の話
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
098.片割れ
家には祖父の代から飼っている、真っ黒でもじゃもじゃとした怪異がおり、物置のほこりなんかをもじゃもじゃと絡ませながら暮らしていた。
祖父の代からといっても、そのもじゃもじゃ怪異は年季を感じさせない速度でもじゃもじゃと動いており、私も子供のころからよく怪異と遊んでいたものである (飼いならされた怪異よろしく、人懐こいモンスターだった)。
私は祖父の顔を知らない。というのも、引っ越しで祖父の遺影をなくしてしまったらしい。
ある日、物置を整理することになって、もじゃもじゃとした怪異がしきりに隅を気にしているのが目に入った。
「どうしたのよ。そこに何か……あっ」
そこには、老齢の男が座って写っている写真があった。遺影のような立派な額に入った写真で、どことなく父とその兄と、そして私に似た面影がある。
「これもしかして、おじいちゃん? おじいちゃんの写真がこれだって教えてくれたの?」
もじゃもじゃが肯定するように激しく動いた。
***
くすんでいたガラスを拭いて、祖母の遺影の隣に祖父の遺影を飾る。その位置だけぽっかりと開いていた空間がようやく埋まった。
もじゃもじゃと動き回っていた怪異が弾かれたように遺影に飛びついた。
「あ、こら!」
私はもじゃもじゃが写真の祖父にじゃれつこうとしているのだと思って静止した。額とガラスが落ちたら危ないし、なにより――もじゃもじゃがどう考えているのかは知らないが――、そこに鎮座している祖父は、死んで写真になっている祖父なのだ。
怪異は私の手をすり抜けて祖父の遺影へとまっしぐらに飛んだ。
すると、絵の中の祖父が手を差し伸べ、怪異はその膝の上に吸い込まれていってしまった。
今、仏間に飾られている祖父の遺影の膝には、何かわからないもじゃもじゃとした黒い生き物が陣取っている。




