祠、壊すわよ!
なんでも壊す、壊し屋さんのお話です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
052. 壊
「……よーっし! 気を取り直して、今日も一日がんばろう!」
誤って壊してしまった事務所のドアを片付けながら、自らを鼓舞するようにつぶやく。
ここは特区に数あまたある壊し屋の一つ。建物の解体から人間関係の破壊まで、壊すことに特化した請負サービスである。
私はこの壊し屋に、物理破壊を専門に雇われている。
本当はパティシエになりたかったのだが、怪力のせいで専門学校中にクリームを飛ばすことしかできずに、退学になった。アルバイトも全滅。
不憫に思った叔父が、知り合いの片付け屋の系列店を紹介してくれたのだった……が、今日もこの通り持ち前の怪力で事務所を破壊して、可憐な受付嬢からモンスターが出現したかのような目で見られている。
正直、針の筵だけど生活をしていくためには、生まれ持った化け物じみた怪力を生かして仕事をするしかないのだった。
仕事は一週間に二、三件。私の怪力は他の職員よりも突出しているので、大きな案件を一人で任されることも多い。そのため、可憐な女子社員以外からもやっかみの目で見られていることは自覚している。若いくせに。女のくせに。毎日、事務所の扉を壊す癖に……。全て、私に向けられた蔭口である。
当然、回されてくる仕事も難解なものが多かった。
壁に張り付いた穴を剥がしたり、増築家の部屋を壊したり、モンスターの巣を壊したり……。外部の怪異専門家と協力して日々案件をこなしているうち、特に怪異に耐性があるというわけではないのに、私は怪異専門と呼ばれる壊し屋になっていた。
ある日、黒い装束を着た陰気で可憐な女が事務所へとやって来た。
「何、壊します?」
可憐なお茶くみ嬢が私とクライアントにお茶を置きながら、好奇の目で見ている。別に気にならないわよ。私はあなた達の倍以上のお給料をもらってるんだからね。
「祠を」
陰気で可憐な女が差し出したのは明らかに呪いがかかった祠の写真だった。霊感がない私にもひしひしと感じられる禍々しい瘴気。OPP袋に入っているが、この袋は呪い障壁が貼られた袋に違いない。
「えー、ほこらぁ?」
思わず、関わりたくないという本音がにじみ出た声が出てしまった。いけない。相手はお客様なんだから……。気を取り直して、壊すとどうなるんですか? と確認をする。
「呪いが飛び出しますが、それは私が請け負います」
壊し屋さんは本当に祠を壊すだけで構いません、そう念を押されて、私はその祠壊しを請け負うことになったのだった。
***
解体当日、私たちを待っていたのは手のひらほどの小さな祠だった。
「意外と小さいんですね~」
そう言いながら、呪術防御のかかった作業服のマスクを被る。この大きさなら、ハンマーを使えば一瞬で壊すことができる。
そう踏んだ、私の一撃は何者かによって遮られた。ハンマーが弾き飛ばされる。祠を守っている何かが周囲にいるっ――!
陰気で可憐な女がハンマーを避けながらひぃ! と可愛い悲鳴を上げた。
「根こそぎ抜きます! 拝み屋さんは、呪いに注意して!」
ハンマーを弾き飛ばす呪いが、私の手をすっ飛ばさないとも限らなかったが、私は自分の力いっぱいその祠を掴む。そのまま。抱きかかえるようにして祠を株のように抜いた。
呪いは溢れなかった。代わりに、祠がニタァと笑っている。
「きゃっ」
慌てて取り落とした私の目の前で、祠からは赤子のように手足が生え始めていた。
「壊し屋さん! これを!」
可憐な拝み屋が後ろから投げてきたのは、飛ばされたハンマーだった。
「反対呪いを付与しました! そのまま、叩き割れば、イケます!」
何がイケるのかさっぱりわからなかったが、私は言う通りにハンマーを呪いの祠に叩きつけた。真っ二つ。さらに、粉々に。
一心不乱に祠を叩き、気が付いた時には私の目の前にあったのは一山の砂だった。
***
「よーっし! 今日も一日、頑張るぞ!」
私が掲げているのは、新しく作った壊し屋の看板。
あの日、祠を粉々に砕いて、呪いごと破壊した私の力は拝み屋界隈でかなりの話題になったらしい。
祠を壊した次の日には、前の事務所にはその筋の人達が大挙して、私をスカウトしに来たのだった。
数々の事務所を断って、私が決めたのはやはり祠の破壊を依頼しに来た、陰気で可憐な拝み屋がいる事務所だった。
ここでは私に奇異の目を向ける人は誰一人いない。皆が私を頼りにしてくれて、のびのびと仕事ができる。
「あ、壊し屋さん。おはようございます」
おまけに、一緒に働いてくれるのは可憐な拝み屋さんだし。
「おはようございます、拝み屋さん。今日もよろしくお願いします!」
事務所の前で、私の声が明るく響いた。
12月28日、30日に即売会イベントに出ます。
活動報告にお品書きを載せました☺




