秋の音楽隊
秋の音楽家たちの話です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
041.楽器
街の外からやって来た観光客だろう。子供一人、父親一人がメインストリートを歩いていた。見慣れない街の中を物珍し気に見まわしていたが、よそ見のせいか石畳に脚を取られて子供が転ぶ。あたりどころが悪かったのだろう、泣き止まない子供とあやす父。その様子を遠巻きながらも、ほほえましく見守る周囲の住人。
虫の居所が悪い子供は一向に泣き止む様子がない。
その様子を見てカフェでコーヒーを飲んでいた一団が一肌脱いだ。
ちょっくら、私も一緒に鳴いてみるかな、と壮年の男が脱いだ。文字通りに。
着ていたYシャツをはだけさせ、腹部を露出させるとそこには蛇腹のような筋肉がグネグネと波うっていた。男が全身に力を込めていくと次第に震える腹からジジジジジという音が響く。その音と腹の動きに興味を持ったらしい、子供が泣き止み、遠目に注目し始めた。
傍にいた老夫婦も、競うようにして洋服の背中のファスナーを降ろし――そこから、羽を出す。
背を寛げると透明な羽が現れた。背中と腕の筋肉を常人ではできない動かし方をすると、スイスイリンリンと独特な羽音が響く。
人間の身体を持ちながら、徐々に虫の姿に変異していく住人。それを見て、他の虫人たちも集まってカフェは賑やかな合奏会となった。
虫の姿を現した住人をみて驚いたのだろうか。
気が付いた時には子供も父親も走り去っていた。
「はて、知らない人間に絡まれて驚いてしまったのかもしれないな……」
虫たちは残念がりながら、再び音楽を奏で始めた。
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