決算セールのお楽しみ
霧の中でのお買い物の話です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
047.霧
決算セールで商店街は沸いていた。年に二度ある、街のお祭りイベントの一つである。売り切りたくて必死の商店や行商。安く買いたい住人達。利害が一致して、街は活気が溢れている。この時ばかりは滅多に現れない夢の販売店や当たりしか出ない占い師なども街に訪れて、セール外でも街は賑わっている。
いったい、この特区の中で何が決算されるのか不明だが、外のニュースを見た一部の商店がメインストリートを盛り上げようと、イベントを企画したらしい。目論見当たって、お祭りは盛況。真っ当な家電の小売り業者から怪しい呪具を売る屋台までもが路に乗り出して営業を行っていた。
なんといっても大目玉は福袋である。数年前から始まったこの企画は子供も大人も夢中になっているものの一つ。一番の人気店と言っても過言ではない長蛇の列。
外の福袋と言ったらば、中身がわからないまま袋を選ぶのが一般的だと言うが、特区の福袋は一味違う。
列に並んでいくと、急に辺りが霧に包まれ始める。真っ白な霧に包まれると並ぶ人間どころか、隣にいる存在さえ見失い、右往左往することとなる。その周囲さえ見えなくなった深い霧の中で手を伸ばし、商品を選び購入していくのだ。もちろんブラインドされた購入物は霧が晴れるまでわからない。そのスリルが特区らしい。
夢のお菓子屋さんの商品や図書館ツアー、特区名品引換券が当たれば大ラッキーだろう。特に、滅多に見学できない図書館の裏側を知る探検は親子に人気だった。何せ、街に影響を及ぼす選書を体験できるのだから。この時ばかりは、住人達も図書館に文句は言えない。空から草が生えようが、星が落ちてこようが選書で図鑑を選んだに違いない……、と思いを馳せて数日を過ごす。
逆に、怪奇植物園が運営するお土産が当たると厄介だ。人食い植物の苗木など当たったら堪ったものではない。最期まで育てることができるのか。途中で断念するのか、難しい判断を迫られながら過ごすことになる。
なにかわからないモンスターの卵を当ててしまって扱いに困った子供がいるとも聞く。
それでも、この遊興には毎回並んでしまう住人がたくさんいるのだった。




