トイレの救世主
異形頭との邂逅です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
042.紙
いざ、陰部を拭おうとしてトイレットペーパーがないことに気が付いた。普段ならトイレ内の清潔さやペーパーの有無などを確認してから用を足すのだが、今日は切迫しており、個室に飛び込んだのだった。先ほどの定食屋で使用してしまい、ティッシュも切らしてしまっている。参った。それでも、隣の個室からガサガサと音がしたため、恥を忍んで壁をノックする。
「すみません。上から投げるので大丈夫なので、ペーパーを一個くれませんか?」
一瞬の沈黙の後、壁をノックする音が聞こえた。ありがたい。親切な人が隣にいてよかった。
てっきり、ペーパー一個を投げ入れてくれるのかと思ったが、隣の個室の使用人は上からペーパーをするすると垂らしてきた。ペーパーの塊がなかったのかもしれない。かかっていた紙を取って流してくれたのだろう。困った時はお互いさまと言えど、手間をかけさせてしまった。
するすると上から流れてきたペーパーを十分な量切り、ありがとうと合図をする。来た時と同じように、するすると消えていくトイレットペーパー。ありがたい。本当にありがたい。
用を完全に済ませて個室を出ると、丁度隣からも住人が現れた。助かりました、と声をかける。振り向いた顔はトイレットペーパーの塊だった。先が千切れた紙が揺れ、軽く会釈された。街の異形頭だったのだ。
私はいったい何で股間を拭いたのか。もっと千切り方を丁寧にしておけばよかったのではないか。頭の中でいろいろな考えが回る。
なお、トイレットペーパー頭は手もトイレットペーパーであり、丁寧に紙をびしょびしょに洗った後、その先を千切って屑籠に捨てていった。
帰路、異形頭が男物のスーツを着ていた事にも気が付き混乱が止まらない。




