表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/88

母を探して/誰を残すか

私の中の何か達二編


創作家さんに100のお題よりお借りしています。

057.another

 一


 とてもよく似た親子だと思った。どうやら違うらしい。


「この子の母親を探してほしいんですが」


 そう警備署を尋ねてきた女と、その隣にいる心細そうな表情の少年はうり二つの顔をしていた。子の方はきょろきょろとあたりを見渡している。署内に入ったことなどないだろう。反対に、女は堂々としていた。


 偶然、本当は親子で何か事情があるのか、あるいは何か怪異に巻き込まれて同じ顔になっているのか。


 どうやら遺失物は子供の母親らしい。まずは、少年に事情を聞く。


「お母さんとはぐれたのはいつ頃、どんな場所でか覚えていますか?」


 その質問に少年は躊躇って、それから細い声で答えた。


「この人がお母さんなんです。お母さんの、はずなんです……」


 やはり、何か怪奇現象が生じている。催眠、成り代わり――この街では珍しいことではない。


「この子に覚えはありませんか?」


 署員の言葉に、少年とは反対に女はよどみなく答えた。


「私は女としての私。この子の母親としての私はここからいなくなったのよ。探してほしいと駄々こねられたから、連れてきたわけ」


 朝、癇癪を起した子供と家事に協力的ではない夫に愛想をつかせた母親はそのまま出て行ってしまった。その場には子供と夫、女としての自我、幼い娘としての自我が残された。母としての人格の行先は不明。家族はそれぞれパニックに陥った。


 全ての人間が子供返りしてしまった家の中で、唯一まともに思考できた女としての自我が事態を収拾すべく子供を伴って、警備署までやって来たのだ。


 子供は申し訳なさそうに俯いている。


 その子供を警備署員に押し付けると、女は署を出ていこうとしてしまった。


「どちらへ?」


「今まで抑圧されてたのよ」


 どっかに行って発散してくるわ。


***


 少年の家にいくと、父親と思しき男が、泣きわめく少女をあやしている最中だった。


「あれもお母さんなんだ」


と息子。


 男はなかなか泣き止まない娘の自我に参っているようだ。女の姿をしているにもかかわらず、その中身は発達できていない小さな子。不安にまかれているに違いない。


 母親は自我を分裂させたのだ。


 それぞれ、自分の好きなように生きるために。


***


 母親が見つかったのは一週間後だった。


 よく似た人を見つけたという通報で駆け付けると、警備署に来た『女の自我』とよく似た容姿の女が座り込んでいるのが見えた。


 その腕に小さなモンスターの子供を抱いている。


「馬鹿な話ですよね」


 自嘲気味に母親は笑った。


「母親から逃げたのに、私は母親の人格だったんです。だから、母親という役割からは逃げられなかったの」


 母親の自我はは家に帰った。


 警備署に来た女は戻らなかったという。


 二


 情熱的な恋人の男、優しい夫、威厳のある父、どれを残しますか。


 駆け付けた病院で女は夫がこん睡状態である事を聞かされた。医師はただ一人の自我しか残せないだろうと語る。


「旦那さんは今、非常に難しい状態です」


 モンスターに上半身を吸収された良人はどうにかサルベージされたが、脳の癒着が進んで複数の役割人格を残すことは不可能な状態だ。どれか一つは取り出せるだろう。全てを取り出すことはできない。危険な状態だ。


 そんな中で、妻は選択を強いられていた。


 恋人も夫も父も全てが良人を構成する一部分である。それらが失われたとして、それは本当に良人と呼べるのだろうか。


 一晩の時間も与えられなかった。妻は、恋人としての良人を残すことに決めた。


 そこから二人の関係は始まったのだと、言い聞かせながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文学フリマ東京39、コミケっと105ありがとうございました。
BOOTH通販を開始しています。よろしくお願いします☺
なにかありましたら、お題箱にて。感想や反応をもらえるととても喜びます☺
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ