表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/88

Bless you

一日がハッピーだと、そこから一週間くらいハッピーな一日が続きますね。


創作家さんに100のお題よりお借りしています。

011.祝

 今日は良い日ですね、と声をかけるのが私の仕事だ。


 特区の祝いと呪いのバランスをとる小さな事業所があった。住人に声をかけて、祝福と呪詛を調整するのである (もちろん、自治会の承認を得ている)。


 職場からは祝か呪か、いずれかの魔法が声に付与されている。


 声に呪いが付与された者は「今日は悪い日ですね」と住人に声をかけていく。話しかけられた者は、その日一日都合の悪い生活を送ることになる。


 反対に、祝福の魔法が付与された者に声をかけられると一日、祝われたような時間を送ることができるのだった。


 私に支給された魔法は祝福の力。


 すなわち、私が声をかけた者は良い日になるのだ。


 具合が悪そうなモンスターにも、呪いがかけられた薬指にも、きょろきょろと怪しいサラリーマンにも。等しく声をかける。その誰もが私の声かけで祝いの一日を送る。


 人を祝う仕事も一苦労だ。ノルマはないが、話通しで喉は酷使される。休みなく歩いては声をかけなければならないため、実は非常な肉体労働である。報酬もその苦労を鑑みると決して多くはない(贅沢のないひと月の生活ぎりぎりだろうか)。


 しかし、住人の笑顔がある。声をかけた人がパッと明るくなる。幸せな仕事だと思う。


 ある日、閉じかけている穴があった。縁がしわしわと委縮し、人間を一人、異界へ誘うことも難しそうな元気のない空間の入り口だった。


 人間でも怪異でも落ち込んでいる者に声をかけるのは気が引ける。最悪の気分の時に、今日は良い日ですね、と声をかけられれば、憤慨することの方が多いだろう。


でも、声をかけるのが私の仕事で、「今日はいい日ですね」と声をかけなければ魔法がかからないのである。


 意を決し、穴に向かって声をかけた。私の声はたちまち穴の中に吸い込まれていく。


 馬鹿にしているのかとでも言うように、今度は穴が私自身を吸いこもうとした。力ない吸引が私の身体をゆっくりと穴に近づけていく。今にも、私の足が縁に触れようとした瞬間。


 穴は暗闇の底から輝きを放ち、委縮して歪んでいた形を取り戻す。人間の身体を吸いこもうとしていた穴は、反対に、金銀細工や小銭、キャッシュカードや高価なモンスターの皮などを吐き出していく。


 山のように重なる贅沢品に私は困惑する。続々と住人も集まってきてしまった。


「あんた、運がいいね」


 一人の男が私に声をかけた。


「この穴は、穴は穴でも幸運を授けてくれる穴なんだよ」


 祝いの言葉を穴にかけた私は、図らずも、自分が祝われる立場になっていたらしい。


 その日は、祝福を受けたようなハッピーな気分で過ごすことができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文学フリマ東京39、コミケっと105ありがとうございました。
BOOTH通販を開始しています。よろしくお願いします☺
なにかありましたら、お題箱にて。感想や反応をもらえるととても喜びます☺
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ