ポケットの中には
異界への入り口ポケット二編です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
043.folklore
勝手にポケットに物が入っている。
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知らない間にポケットにクッキーを入れられたら用心しなさい。子供に童謡を聞かせながら、母親がいつか聞いた怪異の話を伝えていく。知らない間にクッキーがポケットに入っていたら気を付けて。あなたの後ろにはクッキー星人がいるから。クッキーを割らないようにしてポケットから取り出して、それからクッキー星人に渡せば何も起こらない。クッキー星人は満足して去っていくだろう。
割ってはいけない。クッキーを割るとクッキー成人が増えてしまう。割れば割るほどクッキー星人はあなたを『クッキーを生み出す存在』だと認識して、連れていってしまうのだ。
クッキー星人に連れていかれた人間はどうなるのか――。
クッキーの製造に駆り出されるらしい。
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異界に繋がっているのもポケットだ。
よく緊張している子供だった。道の向こう側の小さなモンスターに対峙するといった些細なことでさえ、足がすくんだ。
必ず上着のポケットに手を入れていた。そうすることで自分を守れているような気がしたから。
あるとき、呪いをかけるという老婆と道で出会った。足が止まって、そこから逃げられない。
いつものように上着にポケットに手を入れていた。ポケットの中で握られた拳。それを掴んだものがある。
老婆に対峙している事よりも、その触れてきた手に驚いて、弾かれるようにしてその場を走り去った。
あとから、ポケットの中を探ったが、そこには狭い袋があるだけで、自分の手以外は何も入っていなかった。




