忘れられないの
忘れえぬあの人のお話二題です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
085.忘却
忘却しえない恋人がいる。
一 花の彼女
花の顔をした人と付き合ったことがあった。顔を見たことはない。朝に開き夕方になれば花が閉じる。不定期に休みがある仕事の私はタイミングが合わずになかなかその顔を見ることができなかった。
付き合い始めたのは単なる興味からだ。幻想的だったし、何より色が鮮やかで美しかった。この花が開いたところを見てみたいと思っていた。しかし、叶わない。
夜、恋人同士の営みをする時にも顔を見ることができなかった。
気にしていないフリをしてはいるが、私はそれがすこし寂しい。もしかして恋人は顔を見せたくないのではと疑心暗鬼にもなった。
そのうち、ふっくらとしてきた彼女は自分とも会おうとせずに引きこもるようになってしまった。どんな姿でも好きだよと言う言葉の裏にある少しのとげに彼女は気が付いていたのかもしれない。
そのまま疎遠になった。
別の恋人ができて、そのデートの帰り道に花の彼女と出会った。
最後にあった時よりもまん丸になった彼女の花はしおしおと枯れて色あせていた。こんな姿で会いに来てゴメンねと涙声で話す。
彼女が悪いとは思わなかったが、以前のように付き合おうとは言えなかった。良い思い出にしようと話すと、しくしく泣きながら、花の彼女はその場から消えてしまった。
駆け寄ると、地面に丸い果物が一つ転がっていた。
二 オパールになる恋人
オパールが欲しいと言った。恋人はそれをどのように解釈したのか、次に会った時、自らオパールにならんとしていた。
でかいオパールになれば私が喜ぶと思ったらしい。
「オパールになるまでどれくらいかかると思っているの?」
そう言って、辞めるようにいっても無駄だった。俺はオパールになる。お前にオパールをやる。そう言って聞かなかった。
オパールになる彼に寄り添うのは難しいことだった。最初は言葉を話していた彼はそのうち口を閉ざすようになった。アイコンタクトもなくなった。私も毎日のように顔を出したり、反対に数週間顔を見せなくなったり、不安定な日々が続く。
自分のためにオパールになるという男を見捨てることはどうしてもできなかった。
人間の寿命の間でオパールになるはずはない。私が死ぬまでに、彼はオパールになることはないだろう。
私にオパールをあげるという理由でオパールになる男は私を失えば何を目標に生きるのだろうか。そう思うと切ない。
自分の寿命が尽きるとわかった時、彼になんて話そうと思った。聞こえるだろうか。あなたは間に合わないの、と言われて何を考えるだろう。目的を失って発狂するだろうか。
しかし、もう遅い。彼はオパールになるために向かっているのだから。もう人間に戻ることはない。
私は考えた。オパールになるという悠久の時よりも短い人間の人生で彼と共に生きた。
次の日、私は彼の隣で横になっていた。彼が私に付き合ったのか、私が彼に付き合ったのか、果たしてどちらだろう。
私は、彼と共にオパールとなった身体からの景色を眺めることに決めたのである。




