白い影と黒い影
呑みこまれると戻って来れないお話です。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
083.閉
夜が来る前に、光の世界も影の世界もそれぞれ閉ざされないうちに。入り口が閉ざされてしまえば、異界へと迷い込んだ者を救えない。
影に沈んでしまっても、光に取り込まれても捜索は難航する。どちらかと言えば、影に吸い込まれてしまった方が生存率は高いかもしれないが……。
人を飲み込んだ影はそこから動くことはない。怪人の影や、影で狩りをするモンスターの影に取り込まれてしまった場合は別だが、多くの場合、人を飲み込む影は動かない呪物や怪異の物である。
しばらくそこに留まっている影の中から、光が無くなる夜までに探し出して引き上げることができれば、事なきを得た。
また、陽の光の方向で伸びた影は広がった異界への入り口である。異界との境界線が広ければ、この場合は沈んでしまった人間を救助しやすくなる。
影は作り出すことができる。人工的に影を作って間口を広げるのも救助方法の一つだ。
影に取り込まれるよりも、光に吸い込まれた方が事態は厄介かもしれない。
昼間、光は広範囲にわたっている。その中から、消えた人間を探し出すのは非常に難しい。
特殊なゾンデ棒を差し込み、かき混ぜながら人の気配を探るのが主にとられる方法だ。しかし、広い異界への入り口は捜索者をも飲み込んでいくのである。どうしても慎重な捜索に緒なった。
夏にできやすい真っ白な木漏れ日も特に危ない。
木漏れ日は影の揺れ加減で簡単に異界への入り口が閉ざされてしまうからだ。入り口が失われた世界から人を探し出すのはより困難を極める。二度と同じものは生まれない異界への扉からは捜索は不可能で、その捜索手法は確立されておらず、警備署外の力を借りることが多かった。
運よくすべて身体が吸い込まれる前に引き上げられた事例があった。しかし、木漏れ日を形作る影に遮られた異界とこちらの世界との間に挟まって抜け出ることができなくなった、あるいは、切断となってしまったと記録されている。




