いつもそばにいる
あなたにとっての幸運をあげます。他はいらない。
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
050.fortune
幸運と象徴と言えば、普通白い鳥だろうけれど、私にとっての象徴はどぶ色で毛の生えた尾を持つ一つ目の丸い何かだった。
子供の頃、私はその生き物が酷く弱っているのを発見した。その生き物に一夜の宿を貸し、餌を与えた所から関係が始まった。私の『幸運』の傍にはいつもそのドブ色のしっぽが揺れている。
私のことを標的にしていた近所の男がいた。幸い、私は襲われる前に男は他の人間に殺された。
学生の頃、迂闊なことに猫の化け物に呪われたことがある。その時も、丸い何かが傍にいて事なきを得た。呪いは化け猫の命が途絶えて、消えた。
初恋の人がモンスターに襲われたときに、モンスターの命を奪って助けてくれたのも、丸い毛玉であった。
すべて、幸運と言うべきだろう。その隣にはいつもどぶ色の丸い何かが一緒にいる。
娘が獣に食われる前に獣の首が狩られたとき――一夜の寝床という施しの対価には十分すぎるほどの幸運を受け取ったとき、私はその生き物を自由にしてあげなければいけないと思った。
私は言った。十分に幸運に包まれた日々だった。私の幸運の対価をあなたは得るべきである、と。
そう伝えると、それは傷ついたようなそぶりを見せた。しかし、私の言葉が本気だとわかると、うなだれながらその場を去って行った。
見たことがないその姿に、私はそれに本当に愛されていたのだと知った。
ほどなくして、事故で私は腕も足も顔も失った。毛だらけの丸い生き物が去って、幸運がすぐに尽きたのだろう。あっけなく私の身体は崩壊していた。
身体には痛みが走り、毎日血が身体から噴き出る。治癒の術に失敗した肉体は周りに呪いを吐き、私は一人になった。
気が付けば、傍らにあの生き物がいる。私の元から去って行った時と同じく頭を垂れて、不甲斐ないと落ち込んでいるようだった。
私の最後の幸運だった。その丸い姿、どぶ色にくすんだ忌避される姿――死神に祈った。
一度、命を奪われてもいいと思った身体だ。五体満足でない身体は十分でないかもしれないが、もう死にたい。もう何もない。だから、あなたの力で私を殺してほしい。
「私の最後の幸運になってください」
それはじっと私を見つめていた。笑っている気がした。
私の魂は丸い姿をしていた。導かれるようにして、懐に潜り込むと、共にその場を去ったのだった。




