夢を叶えるお菓子屋さん
子供たちにとって一日すべてで夢を楽しむことのできる、夢のような一日なのである。
【マニブス・パルビスシリーズとは】
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
022. sweet
久方ぶりの夢のお菓子屋が来訪したということで、子供たちは沸いていた。波のように、次から次へと伝言されていく朗報。親に強請った幾分かのお金と自らの夢を握りしめて、幼子たちはメインストリートを走る。
甘い夢のお菓子屋さん。そう看板を掲げたキッチンカーは色とりどりのお菓子をディスプレイしながら子供たちを待ちわびていた。クッキーやケーキの甘い匂いが身体に纏わりつき、カラフルなキャンディは輝く瞳に色を付けていく。
甘い夢のお菓子屋さん――、果たしてその正体は何なのか。
ある少年の夢はうさぎになることだった。夢のお菓子屋さんはその願いと代金を受け取ると、少年にうさぎの形ののクッキーを手渡す。それを食べるや否や少年の耳は伸び、足は地面をけり、あっという間にうさぎとなった。
ある少女の夢は妖精になることだった。お菓子屋さんは少女に羽根の形の綿菓子を与え、少女は望みどおりに華やかな羽を持ち、優雅に花を咲かせる妖精となった。
速く走りたいと願う子供がいた。夢のお菓子やさんはその子に汽車の形のグミを与える。その形どおり早く走る足を得た子供は広場をグルグルと走り回った。
夢のお菓子屋さんは子供たち全員の願望をかなえるべく、忙しなく働く。
子供たちは太陽が輝いているあいだに、自らの夢を堪能する。陽が沈むにつれて、夢は徐々に醒めていき、夜になれば子供たちは夜の夢を見に家路につくのであった。
子供たちにとって一日すべてで夢を楽しむことのできる、夢のような一日なのである。
「すべてのお菓子が甘くておいしいの?」
「甘くておいしい夢ばかりだったらいいね」
問いかける子供に飴玉を渡しながら、店員は楽しそうに笑った。
***
美味しくないのは悪党の夢。それから他人を羨む夢。人を害する残酷な夢。
子供たちの夢をかなえた後、あたりはすっかり暗くなっていた。特区の暗い夜道をキッチンカーが音を立てないように走る。夢を邪魔しないように。
その目の前に、数人の男たちが現れた。大きい身体で威嚇し、手には金属の棒を持つ。
反自治会勢力の手先に違いなかった。
「待ってたぜ」
滅多に現れない夢の与え手に叶えて欲しい夢でもあったのだろう。男たちはお菓子屋さんに武器を突き付けるとそれぞれ願いをかなえるように要求した。
大金を得ること。魔物の女を奴隷にすること。反自治勢力の頭を殺して自分が成り代わること。
夢のお菓子屋さんはそのすべての願いが叶うようにお菓子を作り、一人一人に手渡した。
「いいかい、引き返すなら今が最後だよ」
お菓子屋さんの言葉も聞かずに、男たちは貪るように菓子を腹に収めた……、途端。
男の一人の身体は金塊に、もう一人は奴隷の烙印を押された魔獣の身体に、最後の一人の脳天には風穴が空いていた。
夢は甘く楽しい夢だけではない。時には、悪夢も見ることもあるだろう。
読んでいただきありがとうございます☺
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