路傍の石
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
007.石
特区にある石は石ではない時がある。例えばそう、……。あの石を見てみよう。路上の小さな小石を蹴飛ばした男がいる。石は塀に当たると痛てえ! と大きな声をあげて変化した。小石を蹴飛ばした男の目の前に立ちはだかる大きな影。その影は男の二倍も三倍も、それ以上の大きさになって凄んだ。
「随分、暴力的なことをしてくれるじゃねえか!」
どう落とし前付けてくれるんだ、とがなる影が男の胸倉を掴んで揺さぶった。哀れ男は身ぐるみはがされ……と、言うようにこの街では石が石でない、という事がわかっただろう。
他にも、もっと恐ろしいことがある。
小さな子供の前に変わった形の石があった。赤く渦巻いているその石は子供にとってはとても魅力的な色と形をしている。
しかし、子供は親からきつく約束されているのだ。特区では道に落ちているものを拾ってはいけない、と。親の言葉と目の前にある石の魅力。子供は葛藤する。迷った結果、子供は好奇心を取った。
手のひら大のその石を拾い上げることは小さな子供でも簡単なはずだった。しかし、石は動かない。子供はより力を込めて石を拾い上げようとする。一向に石が持ち上がる気配はない。子供が顔をゆがめて力を入れた、その時、……。
突如、地面が大きく揺れた。立っていられず、尻もちをつく子供。その目の前で地面が割れ、赤い石がひび割れた地面に落ちていく。大きな揺れで子供は赤い渦巻く石のことなど忘れてしまっていた。
次の瞬間、地面から大きな影が飛び出した。目にも止まらぬ速さの影は上空へ高く飛びあがったかと思うと、同じ速さで素早く降下した。土煙に巻かれて目を擦る子供のその上に。地面に大きな音が落ちる音と、それからぐちゃぐちゃという咀嚼音が道に響いた。
影がゆっくり身を捻った。その身体についている尾の先には、子供が掴んでいた赤い渦巻く塊。影は満足そうに唸ると再び地面の中に潜っていった。残されたのは赤く濡れた地面ばかり。
他にもこんな話があった。
路上に落ちている人間の頭大の大きな石。もっと近くに寄ってみよう。その大きく穿たれた穴はいったい何を叫ぼうとしていたのだろうか。見開かれた双眸は何を目にしたのだろう。
その石は生きている人間の表情をして道に転がっていた。そう、この石は人間の頭部である。石化した、人間の頭部が路上に無造作に転がっているのだ。
一人の少女がその石を認めた。数メートルの距離がある。少女が石の頭部に向かって手のひらを伸ばした。少女の方から見れば遠くにある石を手中に収めた、と言ったところだろうか。
ゆっくりと少女が手を握る。その動きに合わせるようにして、人間だった物が捻りつぶされた。音もなく崩れる。
少女は無表情でその様子を眺めていた。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
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