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少女たちについて

どのお話からでも読める一話完結掌編です。

令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。

箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。

ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。


R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)


創作家さんに100のお題よりお借りしています。

081. 幽囚

 一.


 見慣れない雑貨屋があった。東地区のメインストリート。珍しく、真っ当な店が並ぶ通りにこじんまりと佇む。大きなショーウィンドウがあり、アンティーク品だろうか、雑然とものが置かれていた。


 前からここで開業していたのか。明るい他の店に隠れて視界に入っていなかっただけなのか、あるいは、今日初めて現れた店なのか。


 どちらでも良い。立ち寄れ、と魅了された以上、足を踏み入れなければいけない。違和感を抱えつつも、抗えず、女はその店に入った。


 埃臭く、加えて化学薬品のようなツンとした匂いが鼻につく。どんよりとした空気が店の中には滞っている。所狭しと商品が並べられ、その一角に瓶詰の棚があった。薬品の匂いはここから来るのだろう。


 奥にカウンターがある。その上にも乱雑に物が置かれていたが、店主はいなかった。店員と話しながら店内を見て回るのは苦手だ。都合が良かった。


 店の中をぐるりと眺める。人形やガラスの置物がある。


 一つ手に取って眺めたが、値札はなかった。元に戻して迂闊に骨董品に触ったことを後悔する。ここは特区。触れたものが呪物や物以外であることなど日常茶飯事である。


 古書が積まれている。埃を被り背に書かれたタイトルは掠れて読めない。


 壁にはリネン類が陳列してあった。洋服、それからただの布。色あせているが、よく見ると赤茶けたしぶきが襟のあたりに飛び散っていた。断首を想像とさせる。


 骨董品には興味をそそられるが、普通の人間には手に負えない代物に違いない。


 最初に目に入った薬品瓶の棚に近づく。くすんで埃のたまった大小の瓶。一つ覗いて目を凝らすとざらついたガラスの向こうでシロツメクサが笑った。薬品付けにされて瑞々しさを保った小さな花。永遠の美しさを保つ一輪。


 ――良いな、シロツメクサも良い。


 女の胸に閃きがあった。この花を買わなければいけないと駆られて、それを買って帰った。


 窓際に並んだ花たちの隣に薬品瓶を置く。埃を拭えば生花にも見劣りしないだろう。明日、朝ガラスを磨いてやろう。


 シロツメクサは相変わらず微笑んでいる。その小さな花の一つ一つに埋め込まれた小さな女の顔。骨董品の棚で朽ちていくには惜しい代物だった。呪われても構わない。こんな美しいものを手に収めることができたのだから。


 シロツメクサを起点に、端からひとつづつ花の鉢を眺める。紫陽花、スズラン、アガパンサスは室内でも育てられるように独自に品種改良したものだ。それから人の血を吸う食血小花、手のひらの形の花びらを持つ北の花。


 集まった小さな花たちの全てに少女の顔が埋まっている。目を開閉し首を捻る。長い睫毛に彩られた目が恨めしそうにこちらを睨んでいた。


 少女は良い。美しいから。問題なのはその五月蠅さだ。花に埋め込んでしまえば姦しい少女たちの口は閉ざされたまま。


 花は美しさが保てないのが悩みだ。それも、今日買ったシロツメクサの瓶詰を研究して解決するだろう。


 ***


 二.


 押収する予定の大量のソレを見て署員は頭を抱えていた。


「全部ですか」


「全部らしい」


 物が物だけに、雑然と山積みにしておくわけにはいかなかった。保存方法も不明の為――捕らえられた物の主は地下で冷暗所保管をしていたらしい――、物は犯人の保管庫に置いたままになっていた。


 棚に整然と並べられた細長い茶色。表面はかさかさと乾燥し、何も知らない人間が見れば焚き付け薪ように剪定された枝か、香木のように見えるだろう。


 夏前、少女の行方不明が相次ぎ、遺失物課への届け出が増えた。大がかりな捜索が必要かと思えたが、事態はあっけなく収束する。一人の男が少女たちを連れ去っていることが発覚したためである。


 身柄を確保するために訪れた家で男から受けた説明に警備署署員は絶句した。


 少女は一人残らず乾燥機にかけられていた。男の家で保管されていた木片と思われた物は木乃伊だったわけである。


「女の子のつけていた白粉や香水の種類で匂いが変わるんだ。甘酸っぱい味がするよ」


 少女に火を点け吸っている、と聞いた新人署員はひきつけを起こして倒れ、普段温厚な署員も手錠をかけた男の腕を乱暴に引っ張っていった。


 木乃伊となった少女たちを元に戻す方法はまだ見つかっていない。

読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


もしよければ評価を頂けるととても嬉しいです。


各種リアルイベント、WEBイベントに参加しています。参加情報については、活動報告に掲載中です☺

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文学フリマ東京39、コミケっと105ありがとうございました。
BOOTH通販を開始しています。よろしくお願いします☺
なにかありましたら、お題箱にて。感想や反応をもらえるととても喜びます☺
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