雨上がりの魔物
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
017.連鎖
早朝、雨は止んでいた。昨晩は雨粒が窓を打ち、なかなか寝付けないほどだった。朝まで続くかもしれないな……、そう思っていたのも男の杞憂だったようだ。
玄関を出ると水分を含んだ冷たい外気に包まれる。まだ濡れている地面が昨夜の雨の激しさを物語っていた。
夜はあんなにも風が鳴いていたにも関わらず、生垣も電線も路上に残された水溜まりの水面も揺れていない。
静寂。
いくつもの小さな水溜まりが道にできていた。男は飛び石を踏むように避けて進む。朝から靴が濡れると厄介だ。
しばらくすると、道の真ん中に一際大きい水溜まりが陣取っていた。まるで大きな鏡。濁りがなく、波打って歪むことのない、まっ平らな鏡。
その水溜まりがピンク色に反射をしたような気がして、男は近寄った。
覗き込むと男の顔がよく映る。髪が跳ねていた。思わず前のめりになり直そうと手首を捻ると、水溜まりの中の男もずいと近づき同じように髪の毛を直す。寸分たがわぬ動きと双子のような同じ顔。
男の姿だけではない。水溜まりの向こうには周囲の家や電信柱が連なっており。本当の世界なのかと錯覚を起こしそうになる。
ふいに子供の声が近づいてきた。振り向くと四つ辻の角を曲がり男児が走ってくる。男も子供も除けることができなかった。子供の足が勢いよく水溜まりを踏んだ。水が跳ね、水面が波打つ。
ぎゃあ。
水溜まりの中の男の虚像が歪んだ。同時に、水溜まりを覗き込んでいた男の実像の顔が波打つ。石を投げ入れた水面のように顔に衝撃が走った。鼻がひしゃげ、口と目は弧を描いて歪んでいる。
のけぞる男を見た子供が驚いて尻餅をついた。男の顔が歪んだのと同様に、水溜まりを歪ませた子の像も捻られた。座り込んだ尻から頭までが波打ち、ぐしゃり。水溜まりに子供だった肉塊が転がり、またも水面が激しく動く。
肉塊が投げ入れられた水溜まりに映る家がミシミシと音を立てた。壁がうねり、屋根が落ち、早朝の路地に悲鳴が響く。
しばらくして、静寂。
道の真ん中に残された水溜まりの水面は落ち着きを取り戻し、昼には蒸発して跡形もなく消滅をした。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
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